テラーノベル
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瓦礫を踏みしめ 屋根伝いに王城へ向かう
風が耳元でざわめき、髪を揺らす
焦げた匂いと 湿った土の匂いが混じり
胸の奥で熱を帯びた鼓動が 早鐘のように鳴った
────声が…… 風に乗り、か細くも力強く、耳に届いた
それは… 絶望の縁で、希望を託すような──
───────『祈りの声』
震える声が 胸の奥を熱く突き動かし
荒い呼吸が、焦燥に追い立てられる
瓦礫に 足を取られそうになりながらも
一歩一歩、前へ──────
屋根を蹴るたび
古びた瓦が 微かに軋む音が耳に刺さる
────乾いた木の軋む音音
遠くで崩れた家屋の残骸に揺れる 微かな炎と、煙────
人々の声は 風にかき消されながらも
背中を押す希望と絶望の混ざった 切迫感として、全身に広がっていく
王城の輪郭が、視界に入る
瓦礫や崩れた城壁の隙間を 縫うように駆け上がる
黒煙を帯びた風が頬を掠めた
屋根を駆け下り 王城内の薄暗い廊下に差し掛かると
足元の床板が ガタン、と音を立てた
前方には 倒れ伏したリンゴ王国の兵士たち
そして
何が起きたのか理解できず 戸惑うバナナ王国の兵士たちの姿
俺は言葉を交わす間もなく その間を縫うように駆け抜ける
壁の隙間から金属の衝突音が 遠のく戦場の余韻のように、耳を打つ
扉は頑丈に施錠され
暗黒魔道士ラマンダーのものであろう 呪文が施されている
鞘から剣を抜き力を込め 真っ直ぐ、垂直に振り下ろした
バキィンッッ─!!
頑丈な扉が軋み 木材が避ける音と共に、粉塵が舞う
その瞬間
その場に居た全員の視線が 俺に注がれた
王弟リン・ゴメスは 鋭く睨みつけ、歯を食いしばる
バナナ王国側の者たちは 傷だらけの身体を支えながらも
目に安堵を浮かべ、息を漏らす
暗黒魔道士ラマンダーは 眉間に皺を寄せながら
何かを計算するように、目を細めた
空気を裂く、金属の匂い 舞う埃────
……一瞬 時が止まったかのように 静寂が訪れる
全員の視線が、俺を見つめる
その視線の“重さ”に きゅっと胸を締め付けられる
…だが、むしろ その視線が俺を奮い立たせた
『皆を守らなければ』 『最悪を阻止しなければ』
────と
俺は剣を握り直し 一歩、また一歩と歩を進めるごとに
頭の中の雑念を削ぎ落としていく
“恐怖”も“後悔”も 未来への“願い”すらも────
今の一振には、不要なもの
残るのは────敵と俺
斬るか 斬られるかという、一点のみ
歩を進める度に心は澄み渡り
刃先と視線だけが 研ぎ澄まされていく
次の一歩 次の一振りに
“全てを賭ける為に”
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