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剣戟の音が 王の間に鋭く響き渡る
バナナ国王の剣が 王弟リン・ゴメスの刃と正面から噛み合う
互いに押し込む力の均衡が 僅かに震えを伴って刃先を軋ませた
バナナ国王の肩口を掠めた一閃から 鮮血が滴り落ち
白い大理石の床を赤く染める
息は荒く 全身から熱が吹き上がるように感じた
対する王弟リン・ゴメスは 汗ひとつかかず
余裕を浮かべた笑みを 口元に貼り付けたままだった
嘲る声が低く響き 挑発的に剣を叩きつけてくる
振るわれる度に 刃は獣のように唸り
重圧となって バナナ国王の身体を押し潰していく
膝が、僅かに揺れる
───────だが ここで崩れるわけにはいかない
‘’この場で倒れれば
民が、国が
蹂躙され、滅ぼされる”
────その一念だけが…… 重い剣を握り締める腕に 力を残していた
その口調は 嘲笑うかのように滑らかで
声の端には 高圧的な響きが滲んでいた
怒涛の連撃が繰り出され続け 次第に身体が悲鳴を上げ始めた
────だが、倒れない
歯を食いしばり、胸を張り 守るべきもの達を思い浮かべ
剣を握り、剣を振るう
……その時
血に塗れた 家臣たちの声が耳に届いた
振り返らずに 吐き捨てるように言い放つ
家臣たちは息を飲み 荒れた呼吸を互いに交わした
戦場のざわめき、鎧がぶつかる金属音 剣が地面に落ちる重い響き───────
全てが、耳を突き刺す
“────陛下は、最後まで屈しない”
言葉が震え 傷だらけの身体に力が戻る
掌に握る剣の冷たさも 今は誇りと覚悟の温もりに変わっていく
陛下の意志、剣を構える背中……
その揺るがぬ姿に 家臣たちは、心を打たれる
忠誠と覚悟が 血と汗の匂いと共に
胸の奥に静かに しかし確かに、刻まれた
冷たい声が王の間に響き 鋭い視線が突き刺さる
その表情は 勝利を疑わぬ侵略者の傲慢そのものだった
────だが
バナナ国王の決意は微動だにせず なおも剣を握り締めた
────その時だった
王の間に 余りにも場違いな音が流れ込んだ
刃と刃のぶつかり合う甲高い響きでも 血飛沫を上げる絶叫でもない……
……それは────
清澄な水面に 一滴の雫が水面に落ちたような
柔らかく、澄み切った旋律だった
最初に剣を取り落とした兵士は 夢へと誘われる様に、膝をついた
その顔に浮かぶのは、苦悶ではない
穏やかな吐息、緩やかな瞼………
……まるで 母の胸に抱かれた幼子が
子守唄を聞いて眠るかのような 安らぎの表情を浮かべていた
ひとり、またひとり
鎧の外殻を纏った巨体が倒れ伏す度 乾いた床に低い響きが積み重なっていく
カラン……ドサッ………、と 剣と盾が崩れる音に混じって
規則正しい寝息が広がって言った
王弟リン・ゴメスの怒声は 鋭く王の間を切り裂く
────だが その命令もまた、旋律に溶かされ
兵士たちの耳には届かない
ただ、この空間に 安らぎに満ちた眠りの調べだけが残る
バナナ国王は 血に濡れた剣を握り締めたまま
目の前の光景に言葉を失っていた
バキィンッッ─!!
鋼の扉が裂け 木片が舞う衝撃が響いた
耳を劈く音に、心臓が跳ねる
その裂け目から現れたのは 極意を纏った、一人の男の姿
瞳の奥に冷たい光があるはずなのに
その存在は、全身を包むような 安心感を放っていた
王妃が抱く王子も小さく息を整え 構える剣が、僅かに下がる
全ての緊張を押し流すかのように
男の視線が 真っ直ぐ自分たちを捉えた瞬間───
胸の奥に、温かさが広がった