騒がしいホールを抜け、廊下を歩く
自分の足音だけが響く空間で、 俺はただ、彼のことを考えていた
今日は会えるだろうか。
流石に彼も、忙しいだろうか
すると、下女たちが数名で 噂話をしているのが目に入った
下女1
最近入ってきた、ur様の許嫁の方の話、聞いた?
そんな一言から始まる噂話に、俺は小耳を立てた。
下女2
知ってる。
これ、使ったんだとか。
これ、使ったんだとか。
そう言った下女は、片手で、 いわゆる“金”のポーズをした
下女3
え、何?
私、知らないんだけど
私、知らないんだけど
下女1
あの女、お金使って
許嫁名乗ってるらしいわよ
許嫁名乗ってるらしいわよ
衝撃的な事実が耳に飛び込んでくる。
しかし、それはあり得る話かもしれない。
彼女はどこかの国の貴族だと聞いたので、 きっと金は持っていたのだろう。
そして、息子に結婚して欲しい父親...
「彼女が父に頼み込み、大金を出して許嫁を名乗る」
息子の結婚相手も決まり、大金も手に入る。
そんな良い話はない。父が断るはずもないだろう
そんな、あり得そうなストーリーが頭をよぎる。
確かに、出来すぎているとは思った。
好きな人の許嫁になれるなど、あるはずがないのだから
俺は複雑な気持ちになった。
金で人の運命を奪った彼女を、好きにはなれないと、 心のどこかで思ってしまった。
ダメ元で、彼と約束している部屋に行ってみた
しかし誰もおらず、ただ、 何もない空間だけが広がっていた
深いため息を吐く。
彼に、癒して欲しかったのに。
その瞬間、勢いよく扉が開いた。
ドアの前に立ち、 走ってきたのか息を切らしている彼は、 俺にこう言った。
sv
ごめん。お待たせ。







