あかり
はー…寒いね…
颯
寒いなぁ…
12月某日、彼と私はイルミネーションの中を歩いている。確か昨年も一昨年もそうだった。12月のどこかで私は彼の隣でイルミネーションの中を毎年歩いている。
あかり
今日も最高だったねぇ…
颯
いやもう本当にな…最高だった…
12月に私たちが好きなバンドはこの近くのライブハウスで必ずライブを行う。私たちが毎年隣でイルミネーションの中を歩いているのはそのせいだ。
あかり
めっちゃかっこよかったよね…
颯
まじかっこよかった…
自分の好きなバンドのライブの後なんて汗だくでロマンチックのかけらも無いし、語彙力が大体ゼロに近くなっている。だから私たちは多大なる幸福感を胸に抱えてイルミネーションの中を歩くしか無い。彼氏でもないし彼女でもない。ただ同じバンドが好きなだけの関係だ。
颯
あかりさん
あかり
何?颯さん
…私は彼のことが一昨年からずっと好きなんだけど。
颯
この後時間ある?
あかり
えっ…あ、特に予定はないけど
颯
じゃあさ、夕飯行こうよ
一昨年みたいに、ライブの話もっとしようよ
一昨年みたいに、ライブの話もっとしようよ
ずるいよ。
あかり
うん。いいね
そんなに魅力的なプラン立てないでよ。断る理由が消える。
颯
どこ入れるかなー。何か食べたいものある?あ、でも軽くでいいよね?
本当はライブの日にお腹なんて空かない。食べなくてもこのまま眠れるけれどもっと彼とイルミネーションの中にいたい。
あかり
うん。そんなにたくさんはいらないかな
颯
じゃあやっぱり和食かな
私は彼の隣でイルミネーションを見る。きっと来年も再来年も、このバンドを好きな限り私は彼と毎年この場所でイルミネーションを見る。 この関係が恋人に変わらなくてもきっときっと来年も再来年も。