テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あーもんど
258
101
48
コメント
8件
もうめっちゃ感動しました😭
この後 、岩泉と〇〇ちゃんは復縁したのかな…😢
あれから、2年が経った
私は24歳になっていた
お店は順調だった
私はもうプレイヤーとして席に着くことは
ほとんど無くなっていた
店を回すことの方が多い
お母さんとは時々LINEをする
他愛も無い話だった
『洗濯機壊れちゃった( т т )』
そんな甘えた台詞は何度も聞いた
『私のカードで払っといて』
そう言うとお母さんは喜んだ
そんなやり取りにもなんとも思わなくなっていた
そして私は
内藤桃子と何度も会議を重ねていた
原稿を直して
削って
書き足して
また読み直して
内藤桃子
内藤桃子
〇〇
原稿を書き上げれば
それで終わりだと思っていた
でも
原稿が本になるまでには
思っていたよりずっと時間がかかった
『こんなにかかるんだ』
何度目かの打ち合わせの帰り、私はそう呟いた
それでも
妥協はしたくなかった
昔の私が書いたものだったから
今の私が書き直したものだから
ちゃんと、自分が納得できるものにしたかった
そして
ようやく、最後のページが決まった
表紙に目を落とす
そこには
『おかえり』
その下に
綴
そう書かれていた
〇〇
不思議な気持ちだった
昔、紙の端っこに書いた言葉
それが今、本になっている
そして
念願だった出版の日が来た
思っていたよりも、本は話題になった
『不思議な感覚になる本』
『自分の体験談じゃないのに、情景が浮かんでくる』
『読んでると苦しくなったり嬉しくなったりする』
そんな感想が、少しずつ広がっていった
気づけば、ニュースにも取り上げられた
ーー夜の仕事をしていた女性が作家に
そんな言葉と一緒に
名前が知られていく
〇〇は有名になった
テレビに出ることもあった
取材を受ける事も増えた
そして
お母さんは、嬉しそうに言いふらしていた
『私の娘なの』
『昔から才能があったのよ』
『私が育てたようなものだから』
私はその言葉を聞いて少しだけ笑った
どこまでも都合のいい人だと思う
でも
それでいい
それでも、お母さんなのだから
近くにいなくてもいい
分かり合えなくてもいい
どこかで、少し離れたところで
元気に生きてくれれば、それでいい
親子だからって分かり合える訳じゃない
所詮、人と人なのだから
私はずっと、それを『愛』だと思っていた
必要な愛なんだと
親子だから、与えられるものなんだと
そう思っていた
でも
多分私は
勘違いしていただけだった、と
岩泉が帰国したのは
久しぶりだった
日本に戻ってきた時は、決まって本屋に寄る
いつからか
本を読むようになった
暇な時に適当に1冊選んで読む
その習慣を作ったのは
昔の彼女だった
都内の大きな本屋
あまりに多い本の中から
どれにしようかと眺めているときだった
1枚のポップが目に入った
ーー『おかえり』
綴
岩泉一
その名前を見た瞬間
わかった
〇〇だ
岩泉は、ゆっくりとその本を手に取った
赤い表紙
今流行りの装飾がある本ではない
シンプルな本だった
それでも
手にした瞬間、胸の奥が熱くなる
岩泉一
やっと
〇〇が夢を掴んだ
そう思った
本を眺めていると
横を1人の女性が通り過ぎていく
両手にはたくさんの資料
急いでいるのか、少し慌ただしい
その時
バサッ
資料が床に散らばった
岩泉は本を片手に持ったまま
しゃがんで資料を拾う
女性は慌てて資料を受け取っていく
メガネの奥も
どこか忙しない
そして
岩泉の手にある本に目を向けた
女性の顔がパァっと明るくなる
岩泉一
岩泉は少し驚いた
そこで岩泉は気づいた
この人だ
〇〇を見つけてくれた人
内藤桃子
名前は〇〇から聞いたことがあった
胸の奥から、何かが込み上げてくる
けれど、それを必死に堪えた
そして
岩泉の口から最初に出た言葉は
岩泉一
だった
内藤桃子
内藤がキョトンとする
岩泉一
岩泉一
内藤桃子
言葉が続かない
何を言えばいいのか分からない
自分には出来なかったこと
あのとき、〇〇のそばに居たのに
夢を諦めようとした彼女を
引き止めることができなかった
でも
この人がいた
だから〇〇はもう一度ペンが取れた
そして今
ちゃんと花を咲かせた
内藤桃子
内藤はしばらく岩泉の顔を見る
何かを考えているようだった
そして、ふと
〇〇から聞いていた話を思い出す
内藤桃子
内藤の顔が、ふわっと笑う
内藤桃子
岩泉は答えなかった
ただ頷いた
内藤は小さく嬉しそうに笑った
そして
内藤桃子
内藤桃子
岩泉一
内藤桃子
岩泉が顔をあげる
内藤桃子
その声には迷いがなかった
昔、〇〇の原稿を見つけた時と同じ
内藤の声は、誰かの背中を押す
内藤桃子
内藤桃子
岩泉一
岩泉一
内藤桃子
そう言って内藤は資料を抱え直す
内藤桃子
慌ただしく去っていく
岩泉はその背中を見送った
そしてもう一度、手元の本を見る
『おかえり』
綴
岩泉一
3年振りに見た彼女の名前を
岩泉は、しばらく離せなかった
そして
サイン会の日が来た
都内の一角のブースを借りてサイン会は行われた
会場には、長い列ができていた
朝から途切れることがない
〇〇は一人ひとりと話した
『すっごい元気が出ました!』
『綴先生の次の作品も楽しみにしてます!』
『これからもずっと応援してます!』
そんな言葉を、何度も貰った
その中に1人
高校生ぐらいの女の子がいた
本を胸に抱えながら、少し緊張した様子で言う
『私も作家目指してて...』
〇〇は少しだけ微笑んだ
〇〇
ペンを置いてその子を見る
〇〇
〇〇
女の子が顔をあげる
〇〇
〇〇
〇〇
ニコッと笑った
『...はい!』
その子は嬉しそうに笑った
〇〇も笑った
そして
長い1日が終わった
最後のお客様を見送り
〇〇は控え室に向かった
〇〇
椅子にもたれながら
少しのため息を着く
控え室は静かだった
すると
内藤桃子
桃子が入ってきた
内藤桃子
〇〇
〇〇
内藤桃子
桃子は何も言わない
ただ、泣いていた
〇〇
〇〇
内藤桃子
涙を拭いながら笑う
内藤桃子
内藤桃子
高校生だった〇〇の原稿を見つけて
何度も連絡をして
3年返事がなくても待って
それでも諦めなかった
何年もかけて
この人は信じてくれた
〇〇の胸の奥も熱くなる
〇〇
内藤桃子
桃子は涙を拭いて
少しだけ笑った
内藤桃子
内藤桃子
〇〇
〇〇は首を傾げる
その時
扉が開いた
〇〇
入ってきた人を見て
〇〇の目が、大きく開く
息が止まった
岩泉一
はじめくんだった
はじめくんは、〇〇の本を1冊持っていた
〇〇は、泣くなと思った
今は泣くな
そう思っているのに
目の奥が熱くなる
〇〇
声が震えた
〇〇
岩泉は何も言わなかった
桃子が静かに部屋を出る
それに合わせるように他の人たちも出ていった
2人きりになる
岩泉が〇〇の前に座った
岩泉一
懐かしい声がした
少し低くなってるかもしれない
また胸が締め付けられる
〇〇
それだけで
5年間が全部そこにあるような気がした
岩泉は手に持ってる本を見る
そして〇〇を見る
岩泉一
少しだけ笑って
岩泉一
その瞬間
〇〇の目から、涙が落ちた
ずっと聞きたかった言葉だったのかもしれない
帰る場所なんて
ないと思っていた
帰る場所を
自分には持つ資格がないと
そう思っていた
だからずっと
自分で生きていくしかないと思っていた
でも
違ったのかもしれない
〇〇は泣きながら笑った
〇〇
少しだけ息を吸って
〇〇
愛をくれる人が
こんなに近くにいたのに
私は、それに気づかなかった
あの時の私は
まだ、十八歳だった
end