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読みやすく、読み応えもあり面白かったです。
茂雄の母
茂雄の母
春山茂雄
茂雄の母
茂雄の母
春山茂雄
春山茂雄
と、断ると茂雄は自室のある2階へと上がって行った。
大学2年生の春山茂雄は読書が趣味で、時々大学近くの古本屋へ寄っては、
気になった本を買って帰宅していた。
今日は茂雄が昔から愛読している有名な著者の処女作を発見し、
迷うことなく購入した。
古本屋の主人とも今では顔見知りで、お金を支払いながら他愛もない世間話をし、
いつも通り家に帰って母親が夕飯の支度を終えるまで読むつもりでいた。
午後3時半、茂雄は私服に着替え、窓のカーテンを開けた。
昼時の暑い日差しが部屋を照らす窓際のベッドに寝転がりながら本を読む。
茂雄なりの読書スタイルだ。
茂雄は本を読むとき、一文一文の登場人物の行動と気持ちを脳内に描き、
独自に「映像化」していた。
それ故、読むペースが時々遅くなることもある。
茂雄自身、それが読書の醍醐味の1つだと思っていた。
ページが半分に差し掛かったとき、突然本が光ったような気がした。
が、それは本ではなかった。
春山茂雄
本に挟まったままの金属製の金色の羽の形をした栞が外の陽光に反射し、
あたかも本が輝いたように見えたのだ。
春山茂雄
古本屋に揃う本のほとんどは来店客が売った品物だが、
栞が挟んだままの状態で売る客もおり、まれに本に紛れてあることがある。
茂雄は読むのを一旦中断し、その金色の栞をまじまじと見詰めた。
結局、茂雄は栞の持ち主はどんな人なのかを考え続け、
いつの間にか父親も帰って夕飯の時間へと突入してしまった。
翌日の木曜は講義がなく、茂雄は昼過ぎまで自宅で眠っていた。
茂雄の母
茂雄の母
春山茂雄
茂雄の母
春山茂雄
春山茂雄
茂雄の母
茂雄の母
顔に被せていた枕を母にさらわれ、茂雄は渋々ベッドから起き上がった。
母が買い出しに出掛けてから、茂雄はリビングに降りてテレビを点けたが、
特に興味深い番組もなく、つまらなさそうにすぐに消してしまった。
春山茂雄
「読書だ」と自分に囁いたとき、ふとあの疑問が脳裏をよぎった。
部屋に戻り、例の金色の羽の形をした栞を手にした。
少しの間があってから、茂雄は栞を元の本に挟み、それを持って外へ出た。
通学用に使っている自転車に乗り、購入した行き付けの古本屋へ向かう。
店内は相変わらず客足が少なく、古本が放つ独特の臭いが漂っている。
春山茂雄
顔見知りの店主・安原時彦に本を見せて茂雄は尋ねた。
安原は眼鏡を掛け、鑑定品を見るような目で本を弄くり回した。
安原時彦
安原時彦
春山茂雄
安原時彦
安原時彦
安原時彦
春山茂雄
安原時彦
安原時彦
安原時彦
安原時彦
安原は嬉しそうに笑うと、本を茂雄に返した。
春山茂雄
安原時彦
春山茂雄
安原時彦
安原時彦
安原時彦
安原の冗談に茂雄は笑ったが、頭の中ではより元の持ち主のことが気になっていた。
単なる同じ趣味の人間だけではない、特別な「なにか」を無意識に感じていたが、
茂雄にはそれがどんな気持ちなのか結局分からず、家へと戻った。
その日の夕食時、妹の聡美が茂雄に話し掛けてきた。
聡美
春山茂雄
聡美
茂雄の父
茂雄の父
茂雄の母
茂雄の母
聡美
春山茂雄
聡美
春山茂雄
春山茂雄
聡美
聡美が頬を膨らませると、父はハッハッハッと愉快そうに笑った。
茂雄の母
茂雄の父
茂雄の母
茂雄の母
春山茂雄
春山茂雄
茂雄の父
春山茂雄
茂雄の父
茂雄の父
茂雄の母
母親だけならまだしも、父親にまでそう言われてしまい茂雄は頭を掻いた。
普段の自分ならこの話題を出された途端、露骨に不機嫌になるが、
今回は何故だかそんな負の気持ちが微塵も感じられなかった。
両親が作れとうるさい女友達の存在を頭に思い浮かべた茂雄は、
自分でも気付かないうちに再び上の空になってしまった。
大好物の刺身がどんどん妹の聡美に平らげられてしまっているのも気付かず。
それから1ヶ月が過ぎた。
定期試験も終わり、茂雄は大学から出るとすぐに家路には向かわず、
安原の古本屋へと自転車を走らせた。
定期試験の予習に全力を入れたが、趣味の読書も欠かさなかった茂雄の手元には、
ほとんど読み終わった小説しかなかった。
新しい本を買う為、安原の店に向かったのだが、
真っ先に安原と誰かがレジで会話している場面に出くわした。
安原時彦
安原時彦
突然、安原に呼ばれ茂雄はビクッとした。
安原時彦
市倉美里
春山茂雄
春山茂雄
安原時彦
安原時彦
安原時彦
市倉美里
安原時彦
安原時彦
春山茂雄
安原の言った通り、彼女…市倉美里は茂雄と同年代ぐらいの女性だった。
一言で言えば可愛い顔をしている。
春山茂雄
市倉美里
春山茂雄
安原時彦
たった一枚の栞の居所が分かったときの市倉美里の嬉しそうな表情。
茂雄の顔が自然と赤くなった。
名も知らなかった相手への感情の正体に気付きそうになった。
が、その文字が頭に出てこない。
普段の茂雄にとって「それ」が無縁な存在に過ぎないことを表していた。
結局、安原の薦めで市倉美里を伴い、自宅へと向かった。
茂雄は自宅に上げるべきかどうか悩んだが、美里は躊躇うことなく応じた。
母親は買い出しに出掛けて留守なので茂雄は思わずホッと安堵した。
以前の会話もあるので、茂雄が女性を家に上げたと知るや否や、
色々と突っ掛かってくるのは目に見えていたからだ。
冷たい麦茶を美里に出してから、茂雄は部屋から本と栞を取りに行った。
それらを手にし、リビングで待たせていた美里の前にそれを置いた。
市倉美里
市倉美里
美里は栞を両手で握り締めてから、茂雄にお礼を言った。
春山茂雄
春山茂雄
春山茂雄
美里の歳は案の定、茂雄と同じだった。
故に、茂雄の口調も自然とフランクなものに変わっていた。
美里もさっきまでのよそよそしさを無くし、友達と話すように語り出した。
市倉美里
春山茂雄
春山茂雄
市倉美里
市倉美里
市倉美里
春山茂雄
市倉美里
市倉美里
市倉美里
市倉美里
春山茂雄
春山茂雄
春山茂雄
春山茂雄
市倉美里
市倉美里
市倉美里
市倉美里
市倉美里
市倉美里
春山茂雄
「それに比べて自分ときたら…」と内心で茂雄は苦笑を浮かべた。
市倉美里
市倉美里
美里が本を指でトントン叩きながら聞いた。
春山茂雄
春山茂雄
市倉美里
市倉美里
春山茂雄
茂雄は反射的に手で口を押さえた。
フランクになり過ぎてうっかり相手を「ちゃん」付けで呼んでしまった。
しかし、美里はおかしそうにクスクス笑っていた。
市倉美里
市倉美里
市倉美里
市倉美里
本屋で見せたときよりもはるかに輝いた笑顔だった。
春山茂雄
笑顔を輝かせる市倉美里を目の前に茂雄は改めて「それ」の正体に気付いた。
「恋」
2019.09.29 作