コメント
1件
歌詞引用 Pretender / Official髭男dism
薄暗いプラットホームで僕は長い間電車を待っていた
同じ場所には家族やたくさんの友人が立っている
きっと同じ電車を待っているんだろう
反対側のホームにはほとんど誰もいない
いるとしても知らない人ばかりだ
電車が到着するアナウンスが鳴った
近づく電車の方へ視線を向けた
そのとき
周りの人達が僕を指差していることに気づいた
バッ
後ろから背中を勢いよく押された
?
そう言った人の顔は見えなかった
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
目を瞑った次の瞬間
いつの間にか僕はさっき立っていたのとは反対側のプラットホームに立っていた
みんなの姿は到着した電車で見えない
数秒後その電車は再び発車した
何も残さずに
この空間には僕と知らない人が数人、蛍光灯の弱い光だけがある
僕が立っているホームにも電車が到着するアナウンスが流れる
そしてゆっくりと停車した
この駅で降りる人は一人もいなかった
電車に乗り出そうと踏み出した足を途中で止める
そのまま立ち尽くしていると目の前のドアが音を大きく立てて閉まった
終に僕は1人取り残された
誰も僕の手を握ってくれない
誰も僕を優しく抱きしめてはくれない
わかっていたけど
何も判断出来ずにその場に佇むことしか出来なかった
憧埜はやっと目を開く
その瞳は涙で濡らされていた
一筋の光も見えない闇の中で
1人彷徨い続ける
憧埜
そしてしばらく蹲っていた
蝉の声が教室に木霊する
そんな夏も後半へ差し掛かる
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎
紘時
憧埜
零
零
紘時
紘時
憧埜
紘時
零
憧埜
零
紘時
紘時
零
憧埜
零
くだらない会話を痛み止めの代わりにしながら
散々練習した普通を今も演じる
そんな日々が再び始まる
ぼんやりと黒板を眺めて
冷房がよくきいた教室で1人
帰る気にもなれずに座っていた
すると不意に教室のドアが開かれた
笹井先生
笹井先生
憧埜
笹井先生
憧埜
笹井先生
笹井先生
憧埜
笹井先生
憧埜
笹井先生は忽ちパソコンを開いて作業を始めた
笹井先生
憧埜
笹井先生
憧埜
憧埜
笹井先生
適当な返事をする先生に少し呆れる
憧埜
笹井先生
憧埜
憧埜
鞄を持って立ち上がる
笹井先生
笹井先生
笹井先生
耳を疑うほどに直球の質問が次の1歩を踏み止まらせた
憧埜
笹井先生
笹井先生はパソコンを閉じて僕に視線を送った
鞄を下ろして再び自分の席につく
憧埜
笹井先生
どうして聞きたくなったのかは分からないけど
きっとこの言葉はずっと誰かに聞いて欲しかったんだと思う
心の奥底で孤独に呼吸をしていた言葉
その答えは知っている
この言葉が芽を生やした頃から
憧埜
先生がどんな顔をしているか想像するだけで傷がつきそうで
顔をあげられなかった
笹井先生
笹井先生
僕が出していた答えと同じだった
何度も否定しようとした
その答えが不正解である理由を身を粉にして探し求めてきた
それでも
憧埜
笹井先生
当たり前みたいに本心を突いてくる先生は笑わずに僕をじっと見ている
憧埜
戸惑いつつ言葉を繋ぐ
憧埜
先生は1度口角を上げてから答えた
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
耳を塞ぎ込んでしまいたかった
受け入れたくない
心では確かに理解出来ているはず
憧埜
憧埜
鞄を肩にかけてドアの方へ速歩きで進む
笹井先生
憧埜
振り返らないで返事をした
足が震えて立つのも億劫だ
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
憧埜
憧埜
空虚と諦観の一片を置いて教室をあとにした
8月の最終日
今日は年に一度の文化祭だ
紘時
憧埜
憧埜
紘時
憧埜
紘時
神崎
憧埜
神崎
神崎
神崎は寂しそうな顔をひとつ浮かべてる
憧埜
神崎
神崎
純粋な笑顔が眩しくて目を逸らした
憧埜
零
教室が和やかな雰囲気に包まれた
神崎
零
みんなが微笑む中
憧埜ともう1人だけは上手く笑えていないみたいだ
騒がしい心の揺れが
僕らの未来を知ってるような気がして
期待感と苦しみが乱雑に脈を打っていた
憧埜
澄
憧埜
澄
高柴くんはいつも通り穏やかに笑って話してくれる
髪が以前より短くなっていることに気づいたけれど
わざと言わなかった
澄
憧埜
憧埜
澄
憧埜
澄
澄
憧埜
案の定あなたと会うだけで僕は憂いを忘れてしまえる
あれほど流した涙も
傷つけられた体も心も
自然と癒される
それはなぜなら
僕はずっと
この言葉は伝えない
今はまだ
いつもは無機質な色をした廊下は華やかに装飾されている
お化け屋敷
喫茶店
フォトスポット
気分が高揚していくのが自分でもわかる
澄
憧埜
魅力的な展示に関心して見とれる
色々な模擬店を訪れてそれぞれ欲しいものを買った
敦志
秋人
澄
淕
憧埜
憧埜
秋人
敦志
澄
憧埜
澄
憧埜
敦志
淕
秋人
無邪気な1年生と手を振って別れた
澄
憧埜
澄
憧埜
澄
憧埜
澄
憧埜
澄が孤独に掴んでいた時よりはまだ軽いバトンを今は2人で一緒に掴んでいる
そう思えた
いずれは遭遇する孤独は
今感じる孤独には到底及ばない
模擬店で買った食べ物を机に置いて2人は椅子に座った
憧埜
澄
澄
憧埜
空腹を満たしながら楽しく笑って語り合っている
蚊帳の外から見ると先輩と後輩ではなく
まるで親友のように
そう、飽くまで友情だった
澄
憧埜
澄
澄
今日の高柴くんは普段より伸び伸びとしていてなんだか嬉しい
気を抜くとすぐに想いが零れそうになるのをいつものように押し潰す
そして体育館の方へと歩き出した
観客が続々と体育館に入る
毎年盛り上がりを見せる軽音部のライブ
間もなく満員御礼で始まるようだ
スポットライトに照らされたボーカルが堂々とマイクの前に立つ
激音と歓声が鼓膜を震わす
リズムに乗って手拍子をする高柴くんの顔は様々な光に照らされている
澄
澄は声が掻き消されないように顔を近づけて言った
憧埜
あなたが好きなものを好きになりたくて
普段通り平然と嘘をつく
本当は知らない歌だ
すると不意に結空の顔を思い出した
あの花火を見ていた結空はどんな気持ちだったんだろうか
今の僕と同じだろうか
花火の音に消されたあの言葉は一体何だったのか
僕に何を伝えようとしてくれたのか
複数の疑問が頭をよぎって流れる音楽に集中できない
一旦音が鳴止んでようやくその疑問が弾け飛んだ
早くも最後の曲
再び音色が僕の肌を撫でる
聞いたことのある前奏
あまり好きな曲調ではないけれど
歌詞だけはすっと心の中に忍び込む
好きだとか無責任に言えたらいいな
あまりに印象的でそこから先はちゃんと聞けなかった
最後の曲も終わって歓声が送られる
澄
憧埜
憧埜
澄
髪を触って照れくさそうに笑う
それを見て思わず憧埜も笑顔になった
終わって欲しくない
この時間がもっと長く続けばいいのに
そう思う度に結空の顔が見え隠れして
棘を持った本心が胸を引き裂こうとする
夕闇が迫る
伝えるはずの言葉が笑ってしまう程に出てこない
澄
澄
澄
澄は悲哀を持て余した表情を見せる
憧埜
言ったそばから恥ずかしくなって ぎこちない笑顔を作った
澄
澄は嬉しそうに含羞んで自然と憧埜にも笑顔が灯った
澄
澄
憧埜
憧埜
澄
澄
憧埜
手を大きく振って澄は教室に入った
もう二度と会えないような気がして突然悲しくなる
動けない僕を救い出してくれる声が聞こえた
結空
憧埜
憧埜
結空は意を決して憧埜の目を見る
結空
結空
互いに聞こえてしまいそうなほど心臓がうるさい
憧埜
憧埜と結空は足早に三階の空き教室へと向かった
2人は通常自習室として使われる三階の空き教室に入った
冷房がついていないから多少汗ばむような室温だ
結空
憧埜
結空
憧埜
憧埜
憧埜
結空
結空
結空
普段通りの会話
沈黙が5秒ほど続いて憧埜は息をのんだ
そして結空は1度笑ってすぐ真剣な顔をした
結空
憧埜
結空
結空
結空
憧埜
結空
結空
結空
憧埜
戸惑いつつ答えを探してみても見つかることは無かった
結空の感情は収拾がつかなくなっていた
結空
結空
結空は後ろで手を組んで緊張を解す
憧埜
結空は優しく微笑む
息が突っかえそうになったがそんなのはもうどうでも良かった
結空
空気が変わって体の内側から冷たい感覚が伝わる
結空
結空
結空
結空は目を合わせてくれない
結空
結空
結空
結空
照れ隠しで逸らしていた目を憧埜へと移した
結空
ぎこちなく笑って見せた結空の顔をちゃんと見れなかった
憧埜
憧埜
結空
結空
自嘲気味に笑い飛ばして自分を保つ
結空
結空
憧埜
結空
結空
結空
結空の虚ろな表情が鮮明に思い出される
ずっと結空は気づいてたんだ
憧埜
結空
結空
結空は手の震えを必死で抑える
長い間2人は口を開かなかった
心の準備は全くできていない
けれど体が先に動いていた
憧埜
結空
結空
嘘を吐こうとすると息が出来なくなってもう耐えられなかった
いても立っても居られなくて
気づいた時には言ってしまっていた
憧埜
春紀
澄
春紀
澄
澄
澄
春紀
春紀
訳もなく心がざわついて
この教室の静けさが
気味が悪い程に冷たく感じた
疲労がすっかり溜まってベッドの上に座り込んだ
僕が本当のことを打ち明けた時
あの時の結空の驚いた顔が脳裏にしがみついて離れない
憧埜
誰にも聞こえないため息をついてから床に置いた鞄を引っ張る
鞄の中身を整理しようと底に手を突っ込む
その時指先に硬い感触が伝わる
不思議に思って取り出してみる
それはいつか結空が僕にくれたコーラ味の飴玉だった
数え切れない皺が刻まれていて包み紙の赤が色褪せてしまっている
憧埜
コーラ味が苦手なくせに僕を励ますために笑って渡してくれた
躊躇いながらも口に放り込んだ
甘さが広がり、しゅわっと舌をくすぐる
その後どこか薬のような苦さが残った
涙があふれる
憧埜
結空の笑顔と悲しげな顔が交互に浮かび上がる
その合間に高柴くんの楽しそうな笑顔
酸っぱい雫と甘ったるいコーラの味が混じり合う
もうどっちの味かわからなくなっていた
その曖昧な味がやけに心を乱れさせる
この先もずっと消えないような気がして