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ジミンの家に向かうバスの中、窓の向こうを見ながら考えてたのはジョングクの事だった。

「俺、全部女切ったからね」

さっき、俺が家を出る直前に急にそんな事を言ったからだ。 聞いた訳でもそんな話をしてた訳でもないのに急に、だ。

なんて答えるのが正解なのか分からなくて'うん'とだけ頷いたんだけれども。

「だからいつでも、俺の所来ていいよ」

とか、また俺を甘やかしたりした。 'いつもここに帰ってくるけどね'と誤魔化して家を出た。 そういう意味じゃない事くらい理解して、だ。

少し早く家を出た。 不意を突かれて少し気の抜けたジミンを見てみたいと思ったから。 セリーヌのバッグを持って、ちゃんと使ってるよって言いたいのもあるし。

アパートのセキュリティを通過する為の番号は予めジミンが教えてくれていたから、自由に出入りを許された気がして心が浮ついている。 だからと言って流石に急に押しかけたりする度胸はないけれど。

会う約束がある前提で"いつでもおいで"と言われてるみたいで、それだけで良い。

久々の外出がジミンに会う事だなんて。 浮き足立たない方がおかしい。 しかも天気も良くて、春本番で暖かくて。 家に篭ってる間に新しい服を買えば良かった、なんて思いながらもうジミンの家に向かうエレベーターの中。

このエレベーターが止まったら、左に通路を真っ直ぐ進んだ突き当たり角の部屋。 俺にしては珍しく鼻歌まで出る。

ジミンの部屋のドアまであと僅か、そこでドアが開いた。

ホソク

ジミ…

思わず駆け出そうとした。 でもその足も、好きなその名前を呼ぶのも止まった。

今日も泊まりたかったのに〜

ジミン

ごめん、でもまた来週来て?

出てきた知らない女と赤い髪のジミンの会話。 俺がいつも抱きつくジミンの首にその女が抱きついた後で、ジミンの腕がその女を抱き締めた。

ジミン

またね。

それからジミンの手がその女の後頭部を引き寄せてキスをした。

あそこにいるのは、俺? じゃない。

ジミン

早かったじゃん(笑)

立ち尽くす俺の横を女は一瞥だけして通り過ぎたし、ジミンは俺を見て俺の知ってる笑顔を見せた。 それはそうなんだけど。

トボトボと足を引き摺るようにドアを開けて待つジミンの元へ歩く。 もうそこには浮き足立ってる俺はいない。

ジミン

来るとき変わったことなかった?

玄関の中で上下共に薄くて緩い部屋着姿のジミンが俺の頭を撫でた。 襟の広いTシャツから鎖骨まで見えて、そこに見たくもないキスマークがあった。 真新しい色。

それが俺にとって"変わった事"だ。

ホソク

…昨日、あの人泊まったの?

無意識のうちにそう口走っていた。 その間に既にジミンは部屋の中に進もうとしていて、立ち尽くす俺に足を止めて振り向いたところだった。

ジミン

そうだよ。
ホソギヒョンに会えなかったから仕方なく。

肩を竦めて見せたジミンは俺の好きな笑顔だし、俺が一番だと言った通りそれに適合する言葉を言った、と思う。 でもーーー

ホソク

じゃあ俺のこと待ってくれれば
よかったのに…

自分でも訳が分からなかった。 だからジミンはもっと訳が分からなくて当然で、眉を顰めて首を傾げた。

それから俺が立ち尽くしている玄関にまた来ると

ジミン

待ってたよ、
だからヒョンだと思って、他の女で穴埋めしてたんじゃん。

跪いて俺の足に触れると、片方ずつ靴を脱がせてくれて。 そのままふくらはぎにキスをしたジミン。 さっきあの女にキスをした唇で。

分かってる。 他の女がいても俺が一番なら良いって思ってる、本当に。 だから嫉妬してそれをジミンにぶつけるのは違う、全部分かった上でジミンの事が好きなのだから。 分かってる。 分かってる。 分かってる。

でもーーー

ジミン

ヒョン。

目の前に立つジミンが困った様な微笑みを浮かべている。

ジミン

俺にそれ、投げるの?

セリーヌのバッグを振りかぶった体勢の俺に。

違う。 こんな事したい訳じゃない。

ホソク

…投げ、たくない。

ジミンと居たい。 ジミンに抱かれたい。 ジミンに触れられたい。 ジミンに好かれたい。

それなのに、気付いたらジミンの家を飛び出していた。 気持ちだけジミンの家に置いて来れれば良かったのに。

嘘がバレた時と同じ事。 いつかこんな事になる可能性はあった。 でも俺の覚悟が足りなかったから、追いかけて来てくれる事を容易くまた期待なんかして、振り返ってみても慌てたジミンの足音なんかなくて。

タクシーに乗った後、声を出して泣いた。 顔を拭く物なんか持ってなかったから、涙も鼻水も一緒くたにズボンに落ちる

運転手のおじさんが無言でティッシュの箱を差し出してくれて、その優しさにまた泣いた。

家に着いても泣き止めなくて、そのままの状態で玄関のドアを開けた。 もう何も考えたくない。 そう思うのに、素直になってジミンにもっと触りたかったなんて考えてまた泣く。

本当なら今頃、少し呼吸を荒げたジミンが俺の身体を撫でていたかもしれないのに。

グク

ヒョン⁉︎

リビングに入ると俺の存在に気付いたジョングクが、大きな目を最大限にまで開けてソファから飛び起きた。 "どうしたの?"って聞かれそう。 それが嫌でジョングクとは目を合わせず、セリーヌのバッグをフローリングに手放した。

ぐしゃぐしゃの顔でただ立ち尽くす俺。 フローリングに放置されたセリーヌ。

グク

…おかえり。

何も聞かなかったジョングク。 いつも通りの言葉を言って、ただ逞しい腕で俺を抱き締めた。 強く、温かく。

なんでジョングクを好きになれないんだろう。 好きになれないのにこの腕を抜け出そうと思わないから、ジミンに好きになって貰えないのだろうか。

グク

ヒョン。

ジョングクの唇が額に触れる。

グク

どうしたい?

それから俺の顔を両手で包んで見下ろすと、部屋着の袖で静かに流れ続けてる顔の涙を拭いながら言った。 どうしたい?俺が?

不思議な質問をしたジョングクの唇にピアスが付いてない。 また外してるんだ、なんて虚にそこを見てたら今度は頬に唇が触れた。

ホソク

んッ//

グク

ヒョンが決められないなら、俺が決める。

ジョングクの言葉に反応する余力がなかった。 だからジョングクが"決めて"、俺を軽々と持ち上げて肩に担ぐとリビングを出る。

高い位置から見下ろすリビングのフローリングの上にセリーヌのバッグがぞんざいに転がっていて、それが滑稽に見えた。

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