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幽霊ではなくいじめられていたんですね…! Twitterでシェアさせていただきます!
僕は憑かれている。
いつからかはわからない。 気づいたら視線を感じるようになった。
アイツは少しずつ近づいている気がした。
例えば教室。
背中には常にじっとりとした視線を感じた。
例えば図書室。
僕が図書室に行くとアイツは決まって隅の机に現れる。
例えば帰り道。
響く足音はいつも重なって聞こえた。
僕は憑かれている。
ほら今日も来た。
アイツ
僕
机の前にアイツがいる。僕の名前を呼んでいる。
でも僕は聞こえないふりをする。
僕
何事もないように次の授業の準備をする。
見てはいけない。返事をしてはいけない。
そう言い聞かせながら目の前のアイツに気付かないふりをする。
見たら終わり。返事をしたら終わり。
アイツ
キンコンカンコーン
救いの音が鳴る。
周りのクラスメイトは休憩時間の終わりを 名残惜しそうに席へ戻っていく。
そしてアイツも机の前から消えていた。
1人静かにほっと息を吐いた。
相変わらず背中は視線を感じていた。
最近ずっとこの調子だ。もう嫌だ。
でも周りに相談なんてできない。 しても意味がない。
友達とゲームをしてる時も 部活動に勤しんでる時も
心のどこかで孤独を感じた。
僕は独りだった。
いつの間にか独りになっていた。
早くこんな日々から開放されたい。
そんな欲望の表れか 最近の休み時間はいつも屋上にいた。
当然高くて丈夫なフェンスが檻のようにこの屋上を囲っている。
それでもフェンス越しの遠い地面を見ると
死を間近に感じて安心する。
きっとここから落ちれば僕の頭は卵みたいに潰れて
ぐちゃぐちゃになった脳みそが地面にぶちまけられるんだ。
それは少し嫌だけど、
誰だって同じ考えを心のどこかに持っているんだ。
苦しみからいつでも逃げれる っていう安心感を欲しているんだ。
これはゲームでいうところのリセットボタン。
僕は今ホラーゲームをプレイしている。
怖いお化けから必死に逃げてる。
度重なる脅かし要素に耐えられなくなった時のために
僕の指は常にリセットボタンに触れている。
それが本当のリセットボタンなのかなんて
もうどうでもいいんだ。
このゲームにリセットボタンなど無いことを 知るだけ辛いから。
あくまでゲームを続ける主導権は僕にある。
それを実感したいだけ。
ただの自己満足。
それでも救われるのだ。
アイツがいる席にはいつも花が飾ってある。
だから教室にはいつもどこか花の香りがする。
僕はそのせいで花の匂いが苦手になった。
アイツをどうしても連想させる香り。
気分を憂鬱にさせる香り。
帰る時はそんな香りのする教室から逃げるように出て
埃っぽい廊下の空気に無意識に安心する。
それが当たり前になってきた。
もともと学校は嫌いだった。
友達もいるし部活も楽しいけど、
クラスの中で生じる人間関係にいつも息苦しさを感じていた。
いわゆるスクールカーストだ。
とくに僕のクラスはそれがわかりやすく根付いていた。
僕はその中では下から2番目辺り。
目立つわけでもないし 根暗と言われるような人間でもない。
普通の人間だ。
でもアイツのことを周りに話したら僕は普通でいられない。
1番下の最下層にされてしまう。
それどころかもっと 酷い扱いになるかもしれない。
それが怖くて怖くて仕方がなかった。
この教室は屋上みたいにフェンスはないけど
それ以上に何かに囲まれた 圧迫感がある。
僕
だって僕は憑かれてしまったから。
最近アイツ以外の視線が増えた。
それは幽霊ではなく
教壇の前で話してる スクールカースト上位達の視線。
陰口がどこからともなく聞こえてくる。
振り返っても皆は何事もないように話していた。
その中にはいつの間にか話さなくなった友達や
部活仲間もいた。
身体が震えて冷たいものが 胸の内に広がっていく。
それは下落していく感覚。
普通という最低限の立場から落ちていく感覚。
そう
僕はいつの間にか最下層にいた。
そして今も落ち続けている。
何をされるかわからないまま 更に下へと引き込まれていく。
沼に沈んだみたいに 僕の体は動かなかった。
呼吸さえも止まりそうだった。
アイツ
そんな僕を沼へ下へと引っ張る手は
今や見慣れたアイツの手。
沼の底から響く笑い声は
苦しそうにもがく僕を見て 歪に笑うアイツの声。
これは呪い。
アイツの呪い。
アイツは僕を離す気は無い。
そして最下層からも逃れられない。
今日も僕は屋上に来た。
いつもと違うことといえば
アイツ
今日は隣にアイツがいる。
僕
僕たちは壊れて穴の空いたフェンスをくぐり
その先の柵へと手をかける。
元はこの柵だけで、 フェンスは後から付けられたものだ。
だからフェンスさえ超えてしまえば あとは柵を跨ぐだけ。
僕
下を向くと触れることは出来ずとも いつも見ていた
リセットボタンが目の前にあった。
アイツ
隣を見るとアイツが嬉しそうに こちらを見ている。
僕もそれに答えるように笑った。
こんな風に笑えたのは久しぶりだった。
アイツが手を出す。
僕はその手を掴む。
目を閉じて大きく息を吸うと あの花の香りがした。
でももうその匂いなんて気にならなかった。
そして目の前のリセットボタンへと 僕たちは飛び出した。
何故そうしたかというと
僕が疲れたから。
ストーリーの説明
この小説のタイトルは平仮名ですが意味は 幽霊に『憑かれた』
ではなく
いじめに『疲れた』の『つかれた』です。
アイツの正体は幽霊ではなく
スクールカースト最下層のいじめられていた女の子。
アイツに好かれて付きまとわれた僕も 自然といじめの標的に。
最初から道連れがほしかっただけの 女の子と
いじめを傍観することも受けることも 『つかれた』僕は
リセットボタンを押した。
つまり自殺をしてしまったのです。
それがわかるところ(ここは見たい人だけ)
・アイツはいじめのひとつとして無視されていた。
僕は自分もいじめの標的にされないためにもアイツを無視し続けた。
・チャイムがなるとアイツがいなくなるのは 幽霊ではなく授業を受ける生徒だから。
・アイツの席にも花があるのは死んでしまったからではなくいじめによるもの。
・最後僕はアイツの手を掴めたのは幽霊ではなく生きた人間だから。
↓本編に出てはいない設定
スクールカーストの根付くこのクラスを学校側は気付かないふりをした。
無視はとにかく机に乗せられた花に何も言わない時点でそれはわかります。
いじめなど保護者たちにバレたら学校の信用に関わります。
そのため彼らの受けるいじめを学校側は無視し続けました。
しかしこのあと2人の飛び降り自殺が発覚し 学校側は世間から大バッシングを受けます。
↑これらの説明を踏まえた上でもう一度読み返すと面白いかもしれません。
1番怖いのはやはり幽霊ではないのかもしれませんね。
以上が本作『疲れた』の説明でした。