綺麗な場所だと、只ひたすらにそう思った。
澄んだ空気に、涙が出るほど綺麗な赤い空。満点の星空がその下には控えて、自分の出番が来る時間を今か今かと待っていた。
逢魔が時だ。
結月
ふわふわと地面から10cmほど浮きながら移動していた私は、ここが1度も来たことが無い場所だと知っていた。
懐かしくて
大嫌いなこの場所
それが何故だかは分からなかった。
自分の体は特に意識しせずとも、吸い寄せられるようにひとつの場所に向かっていった。
行っては行けないと頭では分かっている。 頭上で輝くようになった満点の星空にたくさんの瞳が付いていた。
その全てが私を見ている。
ふと前を見てみると
ガシッと強い力で顔面を鷲掴みにされた。
結月
杏
顔面を鷲掴みにされ、奪われた視界の外側から、杏の声が聞こえた。
結月
杏
結月
杏は私の顔面掴んだまま四季のバラバラな花の咲き乱れる地面に叩きつけた。 彼岸花と鬼百合の花弁が飛び散り、 向日葵の茎が折れる音が耳に響いた。
息が詰まって、仰向けに倒れたまま、私を見下ろす杏を見た。
杏
倒れた私に桜の花びらが降り注ぐ。
結月
微笑む杏の周りに椿の花が現れて、ボトボトと音を立てて彼女の足元に赤い絨毯を作り出した。
大量の椿に杏はどんどん埋もれていった。
杏が埋もれているのに私は助けに行く気が起きなかった。
杏が私を呪ったから? 違う。
埋もれていく杏が綺麗だったから。
杏
私の心の内を見透かしたように杏が笑った。杏はもうかなり椿に埋もれてしまって、顔だけが見えている状態だった。
結月
そういうと杏は全て埋もれた。最後に私に札のようなものを投げて。
結月
裏返ったまま手に取った札をぴらりと表に向ける。
そこには顔が、硫酸をかけられたようにドロドロに溶けた杏が写っていた。
私の中の杏が後ろから囁いた。
杏
結月
ここに狂い咲く花びらのように溶け落ちてゆく顔の皮膚が
まろびでた命漲る種子のような眼球の虹彩が
芳しく熟れた果実のような真っ赤な唇が
私の視線を掴んで、縫い止めて離さない。
杏
世界が暗転した。
コメント
1件
仲の良い親友が夢の中では不気味な人物へと変わってしまうことって有りますよね。全く知らない人よりも案外知人の方が恐怖の対象に成りやすかったりするんでしょうか