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6月、梅雨の気配が漂うある放課後。
教室には、もうほとんど誰もいなかった。
窓の外では曇った空が、夕方の光を鈍くしている。
杏璃は席に座ったまま、静かにノートの整理をしていた。
クラスでは目立たない存在。だけど、それが心地よかった。
そんな静けさの中、後ろの席の椅子がガタリと音を立てた。
井阪 雄大
その声に、杏璃の心臓が跳ねた。
振り返ると、そこに立っていたのは───
クラスの人気者、井阪雄大だった。
時田 杏璃
井阪 雄大
冗談っぽく言うその声に、杏璃は思わず視線を落とす。
話したことなんて、ほとんどない。
何か…怒られるようなこと、したかな───。
時田 杏璃
杏璃の声は、少し震えていた。
雄大は一瞬ためらったように目をそらし、机の端に寄りかかる。
井阪 雄大
その一言で、ノートの上にいた杏璃の視線が止まる。
心臓の音が一気に大きくなって、頭がついていかない。
時田 杏璃
彼は笑っていなかった。真顔だった。
井阪 雄大
杏璃は、状況を理解できずに目を見開いた。
時田 杏璃
時田 杏璃
井阪 雄大
淡々とそう言うけれど、その言葉の端にほんの少しだけ、頼るような弱さが見えた気がした。
井阪 雄大
沈黙が落ちた。
窓の外では雨が降り出していた。
杏璃はゆっくりと息を吸い、そして小さくうなずいた。
時田 杏璃
井阪 雄大
彼の声は、思っていたよりも優しかった。