テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
個人閲覧の範囲でお楽しみください
晋視点
朝からずっと、外が騒がしかった。
がちゃり。 金属の箱が開く音。 台車の軋む音。 荷物を縛るような、ビニールの擦れる音。
扉は開かない。 けれど、外で何かが動いているのは もうはっきりとわかった。
晋
体が冷えきっている。 昨夜は眠れていない。 食事ももう何日口にしてないか分からなかった。
体のあちこちが青紫に変色して、 熱も出ていた。
けれど、不思議と心はやけに静かだった。
晋
そう思うことが、 ようやく自然にできた朝だった。
晋
晋
理玖視点
理玖
声を上げると同時に理玖は車のドアを蹴って飛び出した。 まだエンジンが止まりきっていない車体を背に、全力で走る。
捜査本部での音声解析が未明に一つの“ヒント”をくれた。 5日目の映像、最後の方に混ざっていた「貨物リフトの警告音」。
そして、映像に反射していた非常灯の文字、“S-16搬入口”。
それらを突き合わせ、捜査班が割り出した廃倉庫。 ──市外、〇〇地帯近くの、旧運送会社跡地。
もたもたしていたら間に合わなかった。 本当にギリギリだった。
警察
後方で捜査員たちの無線が飛び交う。 銃を構えた警官が数名、脇を駆け抜ける。
理玖はそれらを無視して、奥へ、奥へと走った。
理玖
晋視点
ドアが開いた。
いつものように無言で入ってきた二人の男。 腕を掴まれる。 目隠しをされ、雑に頭に袋がかぶせられた。
そのまま 担がれるようにして 暗い廊下を連れていかれる。
身体が痛い。 骨のどこかが明らかに折れてる。
それでも、 抵抗なんてしなかった。
もう 心も動いてなかった。
「これが最後」 「もう理玖に会えない」 「俺、終わるんだな」 そんな考えばかりが、耳の奥で鳴っていた。
理玖視点
倉庫の搬入口の奥。 重い鉄のシャッターが開きかけていた。
その前に止まっている、黒いバン。
中に荷物が積まれかけている。 ──“何か”が二人の男に運ばれていた。
理玖
咄嗟に叫んだ。 心臓が裂けるような声が 自分の口から漏れた。
それは 意図せずして、 晋の鼓膜を震わせた。
晋視点
──理玖の声?
いや、違う。 幻聴だ。 こんなタイミングで聞こえるはずない。
……そう思ったのに、 耳が勝手に動いていた。
理玖
確かに、また聞こえた。
晋
布の奥で 涙が溢れた。
わけがわからない。 でも 身体が勝手に反応していた。
晋
声にならない嗚咽が漏れた。
バンの後部が 開きかけた瞬間だった。
── パンッ!!
銃声。 誰かが叫ぶ。
怒号。 指示の声。 足音。
全てが一瞬で 爆発した。
男たちの手が緩んだ。 晋の体が 硬い地面に投げ出される。
晋
その後、肩を掴まれた感覚がした。
でも、それはもう殴る手じゃなかった。
優しくて、でも強くて。 腕が、震えてて。 熱が伝わってきて。
そして
理玖
声が、すぐそばにあった。
晋
呟くような声に 返事が返る。
理玖
泣いてた。 理玖が。 あの理玖が 顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
抱きしめられた胸の中に顔をうずめて、 声を殺して泣いた。
晋
力が抜けて、 意識が遠のいていく中、 最後に聞こえたのは 理玖の喉を震わせる声だった。
理玖
強く、優しく、 生きている実感が戻ってくるような声だった。
2025.08.07 公開
1538文字、74タップ お疲れ様でした