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二人はしばらく沈黙の中で夕焼けを眺めていたが、やがて颯真が立ち上がる。
颯真
大翔
大翔も立ち上がろうとしたその瞬間、ベンチの端に置いていた足が滑った。
大翔
バランスを崩した大翔が、反射的に颯真の腕を掴む
その勢いで、ふたりの距離が一気に縮まる。
颯真の目の前に、大翔の顔 ほんの数センチ。 お互いの呼吸が、風よりも近くに感じられる。
颯真
颯真は一瞬、固まった。 大翔も目を見開いたまま、動けずにいる。
大翔
大翔が慌てて体を起こす。 颯真は何も言わず、少しだけ顔をそむけた。
大翔
颯真
大翔
二人は並んで歩き出す でも、さっきまでの空気とは少し違っていた。 沈黙の中に、少しだけ照れと、少しだけ意識。 夕焼けは、もう夜の色に変わり始めていた。
帰り道。 並んで歩く二人の足音が、夜の静けさに溶けていく。
さっきまでのベンチでの出来事が、頭の中で何度もリピートされる 大翔は、ちらりと横目で颯真を見る いつも通りの無表情。でも、どこか少しだけ硬い。 沈黙に耐えきれず、大翔がぽつりと口を開く。
大翔
颯真
颯真の返事は短い。 その声のトーンがいつもより低くて、どこかぎこちない。
大翔
颯真
大翔
颯真
その言葉に、大翔の心臓が一瞬跳ねる 颯真はそれ以上何も言わない。
街灯の光が、二人の影を長く伸ばす。 その影が、時々重なって、また離れていく。
大翔
颯真
言いかけて、大翔は言葉を飲み込む。 今言ったら、何かが壊れそうで でも、言わなかったら、何かが遠ざかりそうで。
大翔
二人の間に流れる沈黙は、いつもより重くて、でもどこか心地よい。 夜風が頬を撫でる。 その冷たさが、さっきの距離の近さを思い出させる。
家に着いた大翔は、靴を脱いでそのままリビングに倒れ込んだ 天井を見つめながら、ため息をひとつ。
大翔
さっきのことが、頭から離れない 滑って、倒れそうになって、顔が近くなって―― 颯真の目が、すぐそこにあった あの無表情の奥に、何かが揺れていた気がした。
大翔
言い訳みたいな言葉が、頭の中をぐるぐる回る 心臓の奥が、少しだけ熱い。
大翔
ベッドに転がって、枕に顔を埋める。
大翔
あの距離。 あの沈黙。 あの言葉。
大翔
何度も繰り返してしまうその一言に、 大翔は気づかないふりをしながら 少しだけ笑った。