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コメント
2件
今回もとっても良かったです! 青春×推しカプ最高でした! ♡980押させていただきました!
rara🎼
rara🎼
rara🎼
隣の席が推しでした
rara🎼
rara🎼
すち
みこと
rara🎼
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第1章 はじまりの日
新学期の朝は、いつもより少しだけ空が高く見えた。
春の陽射しがカーテン越しに差し込んで、まだ寒さの残る空気を、少しだけ暖かくしてくれる。
俺は、新しい教室の扉を開けた瞬間、わずかに胸が高鳴った。
期待でも不安でもなく、ただ、また一年が始まるっていう、ちょっとした実感。
名前の貼りだされた席表を見ながら、自分の席を探す。
そして────
その右隣に書かれた名前を見た瞬間、思わず「お」と声が出そうになった。
すち。
知ってる。
前のクラスに居た人だ。
喋ったことは無いけど、印象には残ってる。
いつも眠そうで、教科書も開かない。
なのにテストの点数は悪くないらしい。
誰ともつるまないけど、別に浮いてるわけでもない、不思議な人。
俺はそっとその席に座り、隣をちらりと見た。
すちは、すでに机に突っ伏していた。
黒メッシュの緑髪……まるでスイカのような色合いをした髪が、カーテン越しの光に透けて揺れている。
制服の裾の隙間から、細い指先が覗いていた。
コードの先にぶら下がるイヤホンには、小さな音符のチャーム。
みこと
そんなことを思いながらも、俺は少し勇気を出して話しかけた。
みこと
みこと
顔を上げる気配は無い。
けど、数秒後、すちはゆっくりと片手を上げて、軽くひらりと振った。
それだけ。
声はない。
みこと
そっけない反応にちょっとだけ肩透かしを食らった気分だったけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
というか、むしろ────
この静けさが、ちょっとだけ心地いい気もした。
(すちside)
すち
新学期なんて、始まった瞬間から終わって欲しい行事ランキング一位だ。
クラス替えも、自己紹介も、全部めんどくさい。
でも、今隣に座った“俺”の声は、なんか柔らかかった。
みこと
って言われて、適当に手を振りあげた。
顔をあげなかったのは、眠いフリのつもりだったけど……まあ、ちょっとだけ、照れた。
すち
放課後、ホームルームが終わってすぐ、俺はスマホを取り出した。
ずっと待っていた通知がそこに表示されていた。
Sが歌ってみたを投稿しました。
みこと
思わず小声で呟いてしまって、隣をみたら────
すちが、ちらっとこちらを見た。
でもすぐに、窓の外に視線を戻す。
眩しそうな顔。
ちょっと眠そうな眼差し。
みこと
俺はすちにスマホの画面を向けた。
再生中の動画には、いつものような透明感のあるサムネイル。
タイトルは「モノトーン」
流れてくる歌声は、低めの声に隠れるように、高く透き通るような声が聞こえ、まるでふたつの声が掛け合うような、不思議な余韻を残していた。
みこと
俺がそう聞くと、すちはほんの一瞬だけ視線をこちらに戻して、また逸らした。
返事は、なかった。
みこと
みこと
みこと
俺はそう続けながら、動画のコメント欄をスクロールして見せた。
「まじで天才」「声で落ちた」「サムネで泣いた」
────どれも俺が言いたいことばかりだった。
(すちside)
“俺”の声が隣からずっと聞こえてくる。
S。
それ、俺。
俺がS。
でも当然言えない。
誰にも言ったことないし、今後も言うつもりはなかった。
だから、何も言わずに外を見た。
でも、心臓がちょっとだけうるさかった。
この人────いや、隣の“俺”は、本気でSのことが好きなんだな。
再生回数を見せてくる時の目。
コメントを読み上げる声。
どれも、演技とかじゃなくて、素で、好きって言ってる顔だった。
すち
すち
(みことside)
その日、家に帰ってからも、何度も「モノトーン」をリピートした。
声と、イラストの色と、言葉と、その余白までもが綺麗で、ずっと耳に残っていた。
みこと
ふと思い出したのは、教室で欠伸をしていたすちの横顔だった。
イラストのあの顔と、ほんの少しだけ、似ている気がした。
いや、まさか。
そんな偶然、あるわけないし。
それでも、なんとなく。
あの人が描いた世界のどこかに、俺の知ってる“誰か”がいるような、そんな気がした。
第2章 すれ違いの音
昼休み。
教室のざわめきの中で、俺は自分の席に座りながら、スマホの画面をじっと見つめていた。
イヤホンはしていない。
でも、頭の中では“あの声”がずっとリピートされていた。
────Sの歌ってみた、「モノトーン」。
昨日投稿されたばかりの曲は、たった一晩でとんでもない再生数になっていた。
あの曲の原曲ももちろん好きだけど、Sが歌うと、何かが変わる。
高音は透き通るように、低音は静かに沈むように。
あれはもう「歌う」ってより、「演じてる」に近い気がする。
声で感情を作って、聴いてる側の心を、そっと揺らしてくるんだ。
みこと
ふと、隣のすちが目を開けていたのに気づいて、俺は声をかけた。
みこと
すちは、何も言わなかった。
ただ、少しだけ視線を俺に向けて、また机に頬を乗せた。
みこと
みこと
みこと
みこと
みこと
喋りすぎたかも、と思いつつも止まらなかった。
語りたくてたまらない“好き”って、口を塞いでも溢れてくる。
俺にとって、今一番話したいことは、Sの話だった。
みこと
みこと
みこと
みこと
みこと
(すちside)
すち
すち
“俺”は隣でずっと喋ってる。
俺の話を、俺にしてる。
なんか変な感じだ。
Sってバレてないくせに、こんなに真っ直ぐに語ってくるなんて、ちょっと無防備過ぎない?
「尊敬してる」「憧れ」────そんな言葉を、本当の本人に向けて言われたの、多分初めてだ。
ネットには感想が山ほど並んでるけど、こうやって“目を見て”言ってくれる人なんていない。
俺は、顔を背けたフリをして、机の下でそっと拳を握った。
(みことside)
みこと
唐突だったけど、気になって訊いてみた。
さっきの動画を見せた時、すちの目がほんの少しだけ、止まった気がしたから。
すち
ぽつりと、初めてすちが声を出した。
みこと
俺の言葉に、すちはちょっとだけ目を細めた。
でもすぐにそっぽを向いてしまう。
それ以上の言葉は、返ってこなかった。
話が終わってしまった。
でも、それでも、今日は“声が聞けた”ってだけで、ちょっと嬉しかった。
(すちside)
すち
すち
すち
でも、今の“俺”は、それを知られちゃ行けない。
Sは、匿名でいい。
ネットだけの俺だから。
もしもバレたら、今みたいに隣で喋ってくれる声が、消えそうな気がして。
すち
すち
すち
すち
放課後、チャイムが鳴って、みこと────
隣の“俺”は帰り支度を始めた。
スマホの画面には、さっきの「モノトーン」がまだ開きっぱなしだった。
みこと
みこと
みこと
俺に向けたその言葉は、俺にじゃなくて、誰か遠くにいる、“憧れの人”に投げられていた。
それが、少しだけ寂しかった。
第3章 君が知らない僕
窓の外、春の空はまだ薄くて頼りなくて、風が吹く度にカーテンがふわりと膨らんだ。
放課後の教室。
チャイムが鳴ったあとのざわめきが少しずつ消えていって、俺はまた、Sの“歌ってみた”を見ていた。
今度は「セツナレンサ」。
原曲の切なさに、Sの低音が重なって、胸がじんわり締め付けられる。
音に感情が溶けている。
息遣いも、間のとり方も、言葉より伝わるものがある。
……こんなの、好きになるなって言う方が無理だ。
隣の席のすちくんは、また机に顔を伏せていた。
でも、さっきからちょっとだけ、俺の方に耳を傾けている気がした。
みこと
呟くように言ったら、すちくんの肩がぴくっと動いた。
気のせいかもしれない。
でも、続けた。
みこと
みこと
(すちside)
すち
でも、言えるはずもなかった。
バレたくない。
知って欲しくない。
“ネットの俺”が、今の子の俺だって知られたら、君はどんな顔をするんだろう。
すち
すち
それでも、胸のどこかがぎゅうっとなるのは、なんでだろうな。
(みことside)
みこと
みこと
ふざけるみたいに言ってみたけど、本当はちょっとだけ怖い。
Sがもし、全然違う世界の人だったら────
俺なんかが好きって言っていい人じゃなかったら、って。
みこと
みこと
みこと
みこと
みこと
(すちside)
優しい、なんて言われるの、久しぶりだ。
誰も知らないところで作って、歌って、上げて、褒められても、貶されても、結局一人で抱え込むのが当たり前だった。
でも今、目の前の“俺”は、俺がどんな人かも知らないのに────
「優しい」なんて、簡単に言ってくれた。
心が、ふっと、揺れた。
みこと
みことが俺の名前を呼んだ。
俺は顔をあげなかった。
代わりに、ほんの少しだけ、答えるみたいに指先を動かした。
机の上で、ペンをクルクルと回す。
みこと
その質問に、思わずペンが止まった。
すち
すち
でも、リアルでなんて無理だ。
誰かの前に立って、歌うなんて、怖すぎる。
マイクの向こう側にいる人達に、俺の顔も声も、知られたくない。
けど────
一人だけ、知ってくれてもいいかもしれない、なんて。
ほんの一瞬、そんな考えが頭をよぎって。
俺はすぐに、それを振り払った。
すち
短く、それだけを言った。
(みことside)
そっか。
やっぱり、すちくんって、ちょっと不思議だな。
無表情で、よく寝てて、誰とも群れないのに、ときどき、どこか遠くを見てるみたいな目をする。
みこと
俺は今、推しのことを話しているはずなのに、気づけば、すちくんのことをもっと知りたくなっていた。
みこと
みこと
みこと
みこと
第4章 隣の席が、君でした
ある日の放課後。
空気がゆっくりと夏の気配を帯び始めていた。
いつものように俺は席に座って、スマホで“歌ってみた”をチェックしていた。
でも、あの“S”が今日は何も投稿していなかった。
みこと
昨日まで連日上がっていたカバー曲が、今日はない。
ちょっとだけ、寂しい。
でも、だからこそその存在が、心にぽっかりと空いたような気がした。
すち
隣の席で、何かが落ちる音がした。
反射的に下をのぞき込む。
すちくんのペンケースが開いていて、中身が数本、転がっていた。
みこと
俺はしゃがみこみ、ペンをひとつずつ集める。
そのとき。
ペンの下に重なっていた、一枚の小さな紙が目に入った。
────描きかけのイラスト。
淡い色。
細い線。
浮かぶのは、どこかで見た横顔。
そして、その隅に書かれていた文字。
“S”
呼吸が止まりかけた。
すち
顔を上げると、すちが、はじめて俺をまっすぐ見ていた。
無表情だけど、たしかに目が揺れていた。
震えるように、声が続いた。
すち
すち
すち
なぜか「ごめん」が先に出るのが、すちくんらしかった。
でも、俺の胸の奥で、何かが静かに、はじけた。
みこと
あの歌声も。
あの絵も。
声の間、語尾の癖。
スケッチブックの筆圧。
今まで何度も、目の前にヒントはあったのに、俺は気づかなかった。
それが、ずっと隣にいたなんて。
みこと
俺の口から、自然に出た言葉だった。
すち
みこと
みこと
目を見て言うと、すちはほんの少しだけ目を見開いた。
その顔が、どこかで見たサムネの表情と重なって、俺はなんだか、泣きそうになった。
みこと
みこと
みこと
みこと
みこと
俺の言葉に、すちは目を伏せて、小さく笑った。
それは、初めて見た表情だった。
窓から差し込む夕陽が、その頬をほんのり染めていた。
(すちside)
すち
でも、こんなふうに受け止められるなんて、思ってなかった。
ごめん、じゃなくて。
ありがとう、って。
そっちが先に来るなんて、想像してなかった。
心が、ふっと軽くなる音がした気がした。
すち
すち
俺は、机の下に転がったイヤホンを拾いながら、ぽつりと言った。
すち
すち
すち
みことは思わず、声を漏らしていた。
みこと
すち
すち
すち
(みことside)
すち
心臓が、どくんと跳ねた。
好きな曲を、好きな人の声で、俺だけが先に聴ける────嬉しくてたまらなかった。
教室の窓の外は、もうすっかりオレンジ色だった。
春から夏へと移り変わるその光が、ふたりの机の間を優しく照らしていた。
隣の席にいたのは、憧れの“誰か”じゃなくて、ちゃんと俺の前にいた“君”だった。
みこと
その日、俺たちは一緒に教室を出た。
廊下には、もう誰もいなかった。
すちの歩幅は少し遅くて、俺が半歩、前を歩いた。
でも────
不思議と、心は隣にあった。
rara🎼
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rara🎼
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rara🎼
rara🎼
rara🎼