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美優
クローゼットから何年ぶりかに出す特別な日用の服。
美優
私は今日高校の同窓会へと向かうのだ。
雄馬
私の夫である雄馬くん。
雄馬くんとは高校で出会って、卒業後にすぐ結婚した。
スポーツ、学業ともに優秀だった彼がどのようにして地味で目立たない私に惚れ込んだのかは分からないけれど…
美優
雄馬
美優
最初はあまり結婚に乗り気じゃなかった。
こんな明るい人と私じゃ釣り合わないし…
それに、いきなり告白して 流れで付き合うことになった人だしね。
高校出てすぐに結婚するのも嫌だった。
子どもがデキたからじゃないか、とか
あらぬ噂をかけられるのはまっぴら御免だ。
でも…
蓋を開けてみれば全然違う人で。
疲れている時に家事をしておいてくれていたり、 私は在宅ワークをしているのだけれど、仕事で溜まった愚痴を聞いてくれたり。
美優
新卒で上司に気に入られて、彼はスピード昇進していった。
そのおかげで今は、ちょっと良いマンションで暮らせている。
美優
雄馬
美優
女子の喜ぶ言葉をかけてくれることもありながら、 整った顔立ちと落ち着いた声が向けられる。
学生時代から付き合って、結婚して… かれこれ何年か経つけれど、褒められることに慣れない。
雄馬
なんて彼は笑いながら、ドアの外へと出た。
私は恥ずかしさで目線をそらしながらも鍵を閉める。
そして私達は、駅に向かって歩き始めた。
美優
雄馬
美優
雄馬
美優
まぁ、ガールズトークとは言っても… 同級生で話す人、一人くらいしか居ないんだよな…
美優
美優
「次は~駅、~駅、お出口は右側です」
電車が止まった。
なだれ込むように、人が入れ替わる。
雄馬
庇うように私の方に体を寄せてくれる彼。
美優
週末の人でごった返す駅構内。 なんとか方向をかき分けて、居酒屋へと向かう。
雄馬
美優
雄馬
案内状に描かれているのは、手書きのイラスト。 絵が得意な人、クラスにいたっけ?
何人かいたような、いなかったような。
美優
美優
雄馬
駅ビルの急な階段を登ると、風情のある居酒屋があった。 「生ビールあります」「季節のデザート販売中」「デリバリーもやってます」 色々書かれたカラフルな広告が、扉に貼ってある。
ドアを押せばぎぃぃ、と軋んだ音。カランカランと鳴り響くベル。
雄馬
彼が招待状を見せると、店員さんは「ご案内しますね」と 私達を宴会場へと連れて行った。
半個室型の宴会場には、懐かしき同級生たちが沢山いる。
ユカ
美優
彼女は寺崎ユカ。私の数少ない友人の一人である。
美優
そんな私の驚きも知らず、ユカは「こっちこっち」と 手招いている。
私▶ユカ▶先生▶幹事
この席順の様だ。
雄馬くんもクラスメイトとすっかり馴染んで男子のグループで盛り上がってるようで、 ここが居酒屋で全員年齢が上がっていようとも、青葉高校の教室そのもののように感じられる。
モブ男子
モブ男子
モブ男子
雄馬
男子連中の話題は、雄馬くんが会話に加わったことによって 専ら私と雄馬くんが付き合ったときの話になっているようだ。
ユカ
美優
ユカの言葉に救われつつ、私はテーブルの上のお冷を口に含む。
ひんやりとした冷気が喉元を過ぎた。
その後も他愛のない話に花を咲かせていると、宴会場の扉が開いた。
担任であった柏先生だ。
モブ男子
柏先生
私達が卒業する年になって、担任の先生が急遽退職。 ピンチヒッターとして呼ばれたのが柏先生だった。
ユカ
美優
すらりとした長身、ちょっと緩いネクタイ。
メガネのよく似合う、国語の先生だった。
柏先生の担当教科は国語だけれど、教科書を進めることはあんまり無くて、ほとんどは先生の面白い話だった。
珍しい文化や美しい言葉、世界を旅した話について___
その授業内容を覚えている人がいるのかどうかはさておき、 休み時間の生徒との交流も盛んであったし、ノリも良いので多くの生徒から慕われていた。
物腰柔らかく整った顔立ちに、最近学校に新任で来た先生とだけあって、生徒の人気も凄まじかった。
ユカ
美優
柏先生に渡せなくて泣いちゃった子が居て、ちょっとし騒ぎになったんだとか。
ユカ
柏先生がこちらを見たタイミングで、ユカが声を掛ける。
柏先生
私たちの名字を呼んで、ふにゃりと笑う先生。
その横顔はとても耽美で… 思わず見とれてしまうものだった。
美優
先生が赴任してきた時、素敵だと思った。
こんな包容力のある優しい大人になりたいと
その気持ちはいつの間にやら憧れを超えた感情になっていて
誰にも言えないまま胸に秘めている。
美優
ユカ
美優
柏先生
美優
確かに雄馬くんとの生活に不満はないけど
きっと偶然だろうけど…
先生の目がどことなく淋しげに感じた。
美優
なんとも言えない感情を抱えつつ、同窓会はゆるーく始まった。
枝豆にキムチ、唐揚げやフライドポテト、大勢で食べられる鍋料理。 テーブルの上がどんどん華やかになっていく。
思い思いの飲み物を注文して、誰々はお酒弱そうだとか、 会社の新人歓迎会でのお酒の失敗エピソードやらを語ってみんな盛り上がっていた。
そういえば雄馬くんは、初めての飲み会でベロベロに酔っ払って帰ってきた。 介抱するの大変だったなぁ…なんて思い出す。
みんなが程よくお酒がまわり、私も注文したカシスオレンジを飲んで頬が温かくなってきた頃。 私は幹事の人が一向に来ないことを思い出した。
美優
柏先生
鈴島…
その響きに、嫌な記憶が蘇る。
鈴島玲子。
大手商社の令嬢で、学級委員。文武両道な雄馬くんにアピールを続けていた彼女。
私が雄馬くんに好意を持たれて以降、陰湿ないじめを繰り返してきていた。
でも、当時の私は新任の柏先生に相談するなんて申し訳なかった。
そしたらそこにどんどん弱みに漬け込まれ…
結婚後はストーカーまがいの行為をされたこともあった。
どうしてそんなに雄馬くんに執着するのかは私にも分からない。
でも、雄馬くんは何故か「大事にしたくない」と警察に相談するのを躊躇っていた。
鈴島 玲子
噂をすれば、宴会場の入口をガラガラ、と開けて玲子が入ってきた。
美優
当時と変わらぬ、可愛こぶった甘い声。
頭の痛くなるような強い香りの香水を香らせ、ブランド物で全身を固めている。
ユカも私が玲子にいじめられていた事実は覚えていなかったようで、 席を変えてほしいと言い出すわけにもいかず、ついに玲子は先生の隣に座った。
柏先生
鈴島 玲子
何も知らない先生は、玲子に対しても昔と変わらぬ態度で接していた。
美優
美優
そんな私の思考をよそに、部屋にはどんどんビンゴ大会用の景品が運ばれてくる。
高級家電、最新ゲーム機、ステーキ肉に高級フルーツ、 果てはよく分からない駄菓子屋で売ってるようなおもちゃまで実に多彩なラインナップである。
ユカ
既に何杯目かも分からないお酒のグラスを持ちながら、ユカが先生に話しかけた。 プライベートでも何回か飲みに行ったことがあるけれど、本当にユカはお酒に強い。
柏先生
先生の衝撃発言に、みんなの視線が集中する。
柏先生
柏先生
柏先生
柏先生
柏先生
ユカ
柏先生
…私達のことを支えてくれていた中で、こんな思いをしてたなんて…
確かに、進路活動は親身になって進めてくれたな…
雄馬くんが私に「卒業したら結婚してください」ってプロポーズして
私が無計画に専業主婦になった時、とても心配してくれていた。
私は周りの空気に押されて結局断れなくて
結婚することになった。
好きでもないけど、嫌いでもない。 好きではあるんだけど
気遣いができて素敵な人。
だけど、だけど…
柏先生
鈴島 玲子
色々な思い出を思い出していると、「じゃ、ビンゴ大会はじめま~す!」と玲子が場を仕切り始めた。
ただその時、私だけ肝心のビンゴカードが配られていない事に気がついた。
ユカ
気を使ったのかユカが話しかけてくれる。
ただ、玲子の顔が曇ったのは言うまでもなく。
鈴島 玲子
わざとらしく私の旧姓を呼んだ彼女は、笑顔をビジネスライクなものへと変えた。 貼り付けたような作り声に、背筋がぞっとなる。
鈴島 玲子
美優
そんな私を尻目に、粗雑にビンゴカードを私の眼の前に置いた彼女はまたみんなの輪に戻っていった。
ユカ
美優
ユカ
美優
なにが大丈夫なのかは自分でも分からないけれど。
ユカ
強かなユカに憧れを抱きつつ、私はほぼ水になったカシオレを飲み干した。
生憎私はお酒に強くないので、やっと一杯目を飲み干した状態である。
ビンゴ大会の方は誰かが最新ゲーム機を当てたらしく、非常に盛り上がっていた。
因みに私のカードは一向に番号が出る気配が無く、スタートの開けられた部分だけが悲しげに空調に靡いている。
ユカ
ユカは一列ビンゴを当て、景品を取りに行く。
鈴島 玲子
玲子に促され、ユカはくじを引く。 番号は3番。最新式の脱毛機、もちろんブランド物だ。
私はそれを見ながらみんながビンゴ大会に熱中して放置されたフライドポテトを口に含んでいた。 すっかりしなびて、油と塩気を吸ったポテト。 しょっぱいのは果たしてポテトなのか、私の涙なのか…
ユカ
脱毛機を手に入れ、その勢いも覚めやらぬうちにまたもやビンゴ。 私の紙はと言うと…ぽつぽつと穴が開いているのみ。
美優
ユカ
美優
ユカ
そのセリフ。
一生に一度でいいから言ってみたかった。
ユカ
美優
「傍から見れば」 幸せなのかも知れない。
高級マンション、学年一のイケメン秀才と卒業後すぐ結婚。
特に目立った喧嘩もなく、彼は若くして会社役員の上役。
美優
美優
美優
そう信じていた私が…
馬鹿だったみたい。