楓
自分で希望したんです。
刀衆として赴任する際に
こちらでの名前をつけると伺ったので。
刀衆として赴任する際に
こちらでの名前をつけると伺ったので。
円
真面目な上に、変わってる……。
普通、隊員名って、上層部が勝手に命名するじゃん。
本名から1文字抜き出されてさ。
普通、隊員名って、上層部が勝手に命名するじゃん。
本名から1文字抜き出されてさ。
円
本名のままじゃ、妖怪たちに
真名を奪われるかもしれないからね。
名前取られたら、相手に支配されるっていうし。
真名を奪われるかもしれないからね。
名前取られたら、相手に支配されるっていうし。
楓
字面は、名前から付けさせていただいたものだ。
読みだけ、変えさせてもらった。
読みだけ、変えさせてもらった。
重
ふーん。
けったいな趣味してはるわ。
けったいな趣味してはるわ。
楓
…………。
重
ま、ええけど。
オレは重。(かさね)第弐番隊の隊長やってん。(だいにばんたいのたいちょう)
一応、自分の上司ってとこか。
オレは重。(かさね)第弐番隊の隊長やってん。(だいにばんたいのたいちょう)
一応、自分の上司ってとこか。
重
そっちのスラッとして鼻筋高いのは、円な。(まどか)
頼りになる、ピカピカのエースや。
階級は自分と一緒やから、仲良くしぃや。
頼りになる、ピカピカのエースや。
階級は自分と一緒やから、仲良くしぃや。
円
……どうも。
楓
よろしく。
重
ちゅうわけで、挨拶も済んだし、
オレは、もうええよな?
新人の案内は、うちのエースにお願いしよか。
オレは、もうええよな?
新人の案内は、うちのエースにお願いしよか。
円
……えっ!
俺、午後から非番なんですけど !?
俺、午後から非番なんですけど !?
重
そら、よかった。
まだちょっと時間あるやん。
まだちょっと時間あるやん。
円
いやいや、本当にちょっとしか……。
重
ほな、円任せたで〜。
詰所の施設やら、任務のことやら、
刀衆のなんたるかを、ばっちりレクチャーしたってや。
詰所の施設やら、任務のことやら、
刀衆のなんたるかを、ばっちりレクチャーしたってや。
円
ちょっ………。
重隊長……!
重隊長……!
重
あー。
忙しい、忙しいっと。
忙しい、忙しいっと。
ギィ··········、バタン!
円
本当に行っちゃった………。
絶対、暇なくせに………。
……ったく、なんでも、俺に押しつけるんだから。
絶対、暇なくせに………。
……ったく、なんでも、俺に押しつけるんだから。
円
ていうか、君も、空気読んでよ。
……楓っていったっけ?
なんだって、非番前に来るかな。
……楓っていったっけ?
なんだって、非番前に来るかな。
楓
そちらの不手際だろう。
俺が到着してすぐに案内していれば、
すでに終わっていたんじゃないか?
俺が到着してすぐに案内していれば、
すでに終わっていたんじゃないか?
円
うっ、それは……。
新人のくせに、先輩に口答えするなんて、
君、さては生意気だな。
新人のくせに、先輩に口答えするなんて、
君、さては生意気だな。
楓
先輩だろうと、階級は同じだ。
円
うわ……っ。ほんとに可愛くない。
……でも、そうやって言い返せるぐらい図太くなきゃ、
曲者(くせもの)揃いの刀衆じゃ、やっていけないか。
……でも、そうやって言い返せるぐらい図太くなきゃ、
曲者(くせもの)揃いの刀衆じゃ、やっていけないか。
円
はぁ……。
面倒だけど、上司命令だししょうがないか………。
案内してあげるから、着いてきて。
面倒だけど、上司命令だししょうがないか………。
案内してあげるから、着いてきて。
楓
ああ。
円
帝都から、刀衆としてこの街に
派遣されたからには、わかってると思うけど、
ここは、俺たち人間の世界じゃない。
派遣されたからには、わかってると思うけど、
ここは、俺たち人間の世界じゃない。
楓
………ああ。
円
人間の世界と妖怪の世界は、実は、
鏡合わせのように重なり合って存在してるんだ。
この街は、その入口とでも言えばいいのかな。
鏡合わせのように重なり合って存在してるんだ。
この街は、その入口とでも言えばいいのかな。
円
そして、この街に暮らす
妖怪たちを管理すること……。
それこそが、俺たち刀衆に与えられた任務だ。
妖怪たちを管理すること……。
それこそが、俺たち刀衆に与えられた任務だ。
円
この扉を開けた先が、刀衆の本丸ってとこかな。
まずは、詰所の施設を案内するよ。
まずは、詰所の施設を案内するよ。
楓
この先が………。
ギィィーー
円
ようこそ、新人クン。
人の世ならざる街、灯影街(ひかげまち)へ─
人の世ならざる街、灯影街(ひかげまち)へ─
今は昔 侍ふ者たちの治むる国に 不可思議な力を繰るモノらが在った
炎を纏い、風を似て里を薙ぎ、水を手繰りて山を呑む 神、獣、物の怪─又の名を、妖怪と云ふ 人は其れらを畏れ、討ち、敬い、使役し、崇めた
されど其れらは、侍ふ者たち国を去る 人の世と合わせ鏡如き、神仙妖魔の国へと姿を隠し 異界を繋ぐ大門のあづかりを人に託した
───さて、時は巡り今の世 これより語るは、在ったかもしれない もう一つの日ノ本の国の物語
刀衆詰所・廊下
円
──これで、詰所の中は、だいたい回ったかな。
はあ、疲れた。
はあ、疲れた。
円
それなりに広い造りだし、施設も多いけど、
2、3日過ごせば、すぐ覚えるから。
こんなもんで充分でしょ。
2、3日過ごせば、すぐ覚えるから。
こんなもんで充分でしょ。
楓
ああ。後は自分で見てまわる。
円
それと……。
敷地にの端にある大門は、
わざわざ案内しなくていいよね。
敷地にの端にある大門は、
わざわざ案内しなくていいよね。
楓
大門……。
人間界と繋がっている、大きな鳥居のような門だな?
灯影街に渡るときに通ったから、問題ない。
人間界と繋がっている、大きな鳥居のような門だな?
灯影街に渡るときに通ったから、問題ない。
円
………そういえば、
大門から、応接室まで、どうやって来たの?
よく、場所がわかったね。
大門から、応接室まで、どうやって来たの?
よく、場所がわかったね。
楓
大門の前に控えていた式神が、
案内してくれたんだ。
案内してくれたんだ。
円
あー………。
そういえば、だいぶ前に、
案内役として置いといたんだっけ?
そういえば、だいぶ前に、
案内役として置いといたんだっけ?
楓
応接室を出たとたん、警護役に変わったようだが。
円
あはは!
さっき、馬乗りにされちゃってたもんねー。
ほんと、ウケる。
さっき、馬乗りにされちゃってたもんねー。
ほんと、ウケる。
楓
なぜ、式神が人に襲いかかる?
式神は、人が術法を用いて操るモノなのだろう。
役目に忠実だと、着任前の研修でも聞いたが。
式神は、人が術法を用いて操るモノなのだろう。
役目に忠実だと、着任前の研修でも聞いたが。
円
忠実だよ。
だから、案内役として、応接室に通すべき人間が
別の場所に行こうとしたのを止めたんでしょ。
だから、案内役として、応接室に通すべき人間が
別の場所に行こうとしたのを止めたんでしょ。
楓
……なるほど。
あまり、頭は良くないのか。
あまり、頭は良くないのか。
円
単純な命令にしか従えないんだ。
でも、疲れ知らずだし、真面目で便利だよ。
ルールも教えたら、囲碁の相手だってしてくれるし。
でも、疲れ知らずだし、真面目で便利だよ。
ルールも教えたら、囲碁の相手だってしてくれるし。
円
……ていうか君、さっき斬りかかろうとしてたけど……。
もしかして、式神もろくに扱えないの?
もしかして、式神もろくに扱えないの?
楓
術法は教わっている。
実践は初めてというだけだ。
実践は初めてというだけだ。
円
勘弁してよ。
式神くらい、ちょちょいと扱えるようにしといてよね。
こっちは、いちいち新人の世話なんてごめんだから。
式神くらい、ちょちょいと扱えるようにしといてよね。
こっちは、いちいち新人の世話なんてごめんだから。
円
ここじゃ、警護も食事も掃除も
身の回りの世話は、ぜんぶ式神任せなんだよ。
身の回りの世話は、ぜんぶ式神任せなんだよ。
楓
…………。
円
ん?
急に黙り込んで、どうかした?
急に黙り込んで、どうかした?
楓
いや……。
本当に、これまで俺が暮らしていた世界とは、
違う世界なんだと、改めて………。
本当に、これまで俺が暮らしていた世界とは、
違う世界なんだと、改めて………。