テラーノベル

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テラーノベル(Teller Novel)

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優人

籐死をもたらす その思想の元、世界は再び混迷の時代を迎えることとなる これは、そんな時代の物語だ。
―――
「さぁ!皆さんお待ちかねの時間です!」
薄暗い部屋の真ん中に置かれた椅子の上で、男が声を上げた。部屋中に張り巡らされたスピーカーからは男の甲高い叫びが響き渡る。
「本日も始まりました!『死の抽出』による公開処刑ショー!今日は誰でしょうか?!前回はなんとも運の悪いことに、あの大罪人の男が死んだところで終わりを迎えてしまいましたねぇ……」
男は手に持ったマイクに向かってそう語りかけると、背後の壁に取り付けられた巨大なスクリーンに映像が流れ始めた。そこには、全身に杭を打ち付けられ血塗れになった人間が映し出されている。
「それじゃあ、いつも通りいってみましょうか!!まずはこの方!!」
ドンッ!!!と激しい音が鳴り響くと同時に、画面の中の男が吹き飛ばされる。まるで交通事故のような衝撃音に、観客たちは興奮の声を上げながら沸き上がった。

優人

先程とは比べ物にならないほどの大歓声の中、女――シラサキは、手を上げて笑顔を振り撒いていた。
「……あの野郎、ふざけやがって」
そんな様子を観客席から眺めていた者たちがいる。それは、ゼーバッハ中央製薬の開発室にて。
「主任、そろそろ我々も出ませんか?」
白衣を着た研究員の一人が言った。彼は主任と呼ばれた男に声をかけたが、返事はない。主任の男は椅子に座っているものの目は虚空に向けられており、口元からはだらしなくよだれが垂れている。主任は、完全に意識を失っていた。それも当然のことだろう。なにせ彼の手には小さな注射器が握られており、中身は既に無い。彼が手にしていた注射器の中身は、つい先程投与された薬品の効果を打ち消すための解毒薬であったからだ。
「主任!起きてください!」
そう言いながら、白衣の男は彼の体を揺さぶった。すると、すぐに反応があった。
「うお!?何事じゃあ!?」
「……ようやく目覚めましたね

優人

仰げば

尊し我が師の恩……
そう歌っていた時代もあったなぁと思いつつ、俺は卒業証書の入った筒を振り回す。
「いよぉーっす! お疲れさん!」
「おっつかれ~」
「まあ、大して疲れちゃいないけどな」
俺の友人が苦笑しつつ応えてくれる。
今日は卒業式だ。俺たち3年生にとっては高校生活最後の日でもある。
「お前らこれからどうするんだ?」
「さすがにまだ決めてねえよ」
「だよねぇ」
友人二人は、揃ってため息をつく。
「とりあえず大学行ってみるかなって感じだけど」
「そんなもんか」
「ああ。就職先とかはまだ全然考えてないし」
「私も似たようなものだね」
「ふむ」
二人とも進学組だったはずだから、同じ道を歩むことになるだろう。そう思っていたら、いつの間にか進路が分かれていた。そんなことはよくある話だ。

優人

俺だって、高校に入ってからずっと一緒だった友人とは別々の大学に進むことになったし、付き合いの長い連中で今もつるんでいる奴なんてほとんどいない。
だから、俺たち三人の関係が変わったって何もおかしくはないはずなんだ――
***
「じゃあなー!」
「また明日ね~」
夕暮れ時の駅前通りで、俺は友人たちに手を振り返す。
今日は高校の終業式だったので、こうして同級生たちと遊びに来ていたわけだが……さすがに疲れた。
春休みに入ったとはいえ、これから毎日のように予定が入っているんだろうと思うと気が重い。
まぁ、受験勉強漬けだった中学時代に比べればマシだけどさ……いや、あれと比べるのは違うな。うん。
ともかく、僕は今、学校へ向かっている最中だ。高校二年生になって初めての登校日だからか、周りの生徒達もどこか浮ついているように見える。
僕だって、クラス替えの結果によっては友達が増えるかもしれないし、楽しみじゃないわけがないけどね。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと見知った姿を見つけた。
長い黒髪の少女――僕の幼馴染みにして、今は隣のクラスの風紀委員を務める

優人

暑い夏の日差しの下、俺は必死になって自転車を走らせていた。
「あーくそっ!なんでこんな日に……!」
今日は俺の誕生日だっていうのに、どうして朝っぱらから学校に行かなきゃならないんだ?しかも夏休みなのに……。
そんな不満を抱えながらペダルを踏み続ける。もうすぐ学校が見えてくるはずだ。そうすればクーラーの効いた教室に入れるはず……。
――キィイイッ!! 突然ブレーキがかかる。何かを踏んだわけではないし、道端に落ちているものを踏んでしまったわけでもない。
だが、タイヤが滑った。ハンドルを切る余裕もなく、勢いよく地面に投げ出される。
「いってぇえ!!」
腰を強く打ってしまったらしい。あまりの痛みに耐えきれず、その場にうずくまる。
「大丈夫ですか!?」
声をかけてきたのは女の子だった。どこか見覚えのあるような気がするが、どこで会ったのか思い出せない。
「立てますか?」
彼女が手を差し伸べてくれる。それを掴み、なんとか立ち上がることができた。
「ありがとうございます。助かりました」
礼を言うと、彼女は安心したように微笑みを浮かべてくれた。
「お怪我が無くて何よりです」
「本当にすみ

優人

透明な植物:アトラ・ストレリチア。別名「永遠の命の木」とも呼ばれるこの植物は、葉脈に沿って伸びる根の部分を切り落としても再生し、また切り落とした部分も再び根付くことから、不老長寿の象徴とされる。また切り落とされた断面からは新たな枝が伸びることは無いため、再生しない木ともして名高い。
しかし近年の研究では、この植物の葉は特殊な薬液に浸すと透明なまま成長することが判明しており、その薬液さえ手に入れば死を回避することは可能ではないかと議論されている。
また、植物自体を入手することも不可能ではないらしいが、入手ルートは不明のままだ。
これらの事実をもって、我々は人類の救済は近いと確信している。
終末なにしてますか?異伝 リッタ=ディメルの孤独な戦い 1章 精霊幻想記17.聖女の福音 【間章】それぞれの夜 場所は王都グランディア。時刻は現在、午後十時すぎといったところだった。
セリア達を乗せた馬車は既に王宮を出発して少しばかり時間が経った頃合だが――、
(……どうしようかなぁ~?)
セリアは自分の部屋にて、ベッドの上で仰向けになりながら天井を見上げていた。
室内には同室の少女達がそれぞれ寝息を立てているが、セリアはまだ眠っていない。目を瞑って眠る努力をしてみたりもしたが、やはり眠れなかったのだ。
というのも、リオと喧嘩別れしてしまったからである。
とはいえ、別に本気で怒ったわけではないし、悲しかったわけでもない。そもそも怒りや悲しみを感じるほど感情を動かされたわけではなく、ただなんとなく居心地が悪くなって飛び出してきただけだ。
だから、今こうして自分の部屋に戻ってきたところで何も解決していないし

優人

虹色蝶事件と呼ばれる一連の騒動ののち、その影は再び世界を覆った。ゼーバッハ中央製薬が引き起こした「死の抽出」による不老不死化ブームだ。人々は、新たなる脅威の出現により停滞していた生活を捨て去り、死を恐れず行動するようになった。
「……またかよ、なんなんだよこいつら!」
「くそっ!撃っても撃ってもきりがない!!」
「うーん……困ったなぁ」
男はそう呟くと頭を抱え込んだ。
彼の名は黒野・零士、日本に住む30歳独身の男だ。彼は今とても悩んでいることがある。
それは――
「俺ってばもうすぐ死ぬんだよね……どうしよう?」
自分の命についてだった。
何故彼がこんなにも思い詰めているのか? その理由は3ヶ月前に遡る。
3ヶ月程前、一人の咎人の男が、その技術を手に入れた。彼は、自らの肉体を捨て去り、永遠の命を手にしたのだ。そして今朝方、彼が忽然と姿を消したことが、騒ぎを大きくしていた
「…………つまり、お前さんはその男を探しているわけだな?」
「あぁ、そうだ」
俺は目の前の男に答えながら、渡された写真を見た。そこには俺と同い歳くらいに見える青年が写っている。
「そいつの名前は?どこに住んでるかとかわかるか?」
「名前は知らない。どこにいるのかもわからない。ただ、こいつは俺たちと同じ不死になったんだろうってことしか知らねぇよ」
そう言って男は煙草を取り出した。火をつける前に取り上げて灰皿に押しつける。不機嫌そうな顔をするが無視して話を続けることにした。
「ならなんで探すんだよ。警察に任せればいいじゃねえか」
「警察は信用できねェ」
男の言うことは最もだった。この国はつい数年前まで警察が殺人を犯しても見て見ぬふりをしていたような国なのだ。それに今は警察そのものが腐敗しきっていてまともに機能していない。だがだからといって
「こんな胡散臭い奴らに頼むこっちゃないだろう」
「お前らも大概怪しいけどな」
確かに言われればそうだ。全身黒ずくめでサングラスをかけて銃を持っているなんて怪しすぎる

優人

自分の芯を見失った歪な姿に過ぎない
裏社会に 死の抽出とはつまり、生物の死骸から生命エネルギーを抜き取り、保存しておくことである。死体を加工して作るわけではないため、倫理上の問題はないとされる。実際、死体漁りをする咎人を取り締まることなどできないし、むしろ積極的に推奨すらされていた。
問題は抜き取られた命のエネルギーだ。それは人の命を支えるものでしかない。故に、抜き取ったあとの命がどうなるかは全くわからないのだ。
人々はそれをこう呼んだ デッドライン、と
「……って感じかなぁ」
「ふぅん……、それで?そんな話をしてどうしようって言うんだい?」
「いえね、お客さんは最近来たばっかりでしょう。だから、知らないだろうなと思って」
「何の話だいそりゃあ」
「ほら、ここだけの話ですけどねぇ。うちのお店、裏じゃちょっと有名らしいんですよぉ」
「ああ、そうかい」
「えぇー!もっと興味持ってくださいよ!」
「あんまりそういうのに興味がないんだよ」
「うっそだぁ〜。絶対知ってますよね?」
「知らん」
「嘘つき〜」
「いい加減

優人

個人に執着する欠点を持つ裏社会に それは世界を大きく揺るがす出来事だった。
世界人口のおよそ3割が死亡した2029年、世界の秩序は大きく変わった。それまであった多くの犯罪組織はその活動を縮小し、またそれに代わる新たな団体が生まれた。その筆頭格たるものが、当時わずか13歳の少年が起こした「紅蓮団」である。後にその組織は「紅蓮教団」と呼ばれ、世界の裏側において絶大な影響力を誇ることとなる。
紅蓮教団は、その理念として
「人類の救済」を掲げた。彼らは「神の摂理に反する生物を駆逐すること」「生物の尊厳を尊重すること」の二点を教義とし、人類社会の浄化と再生を目指した。
「神の摂理」とは、彼らが信じる神による創造物の定義であり、具体的には「人類の身体と魂を構成する物質」を指す。彼らにとって、人体は血肉ではなく「命の源」なのである。故に彼らの思想において「肉体の死=人の死に非ず」とされる。これは、例えば心臓を潰されたとしても、脳を破壊されたとしても、あるいは首を落とされたとしても「命」という概念自体が消失しないとする考え方に由来する。
よって、彼らは自らの行いを殺人と断じないし、むしろこれを救済と呼ぶ。「神の摂理に反する者は、その身を焦がす苦痛を以て裁かれるべきである」というのが彼らの教義なのだ。つまり彼らは、自らこそが正義であると信じて疑わない。
ゆえに、彼らはあらゆるものを冒涜し、否定する。
『……さあ、始めよう』
「ああ」
「ええ」
目の前にいるのは

優人

迂闊なこと口走ったら首が飛ぶ
ぞ 死の恐怖から逃れたい裏社会に
「おい! そっちに行ったぞ!」
「逃すなっ!!」
夜の路地裏を走る影がある。
黒いフード付きのコートを着た人物だ。
彼は必死の形相で走っていた。
「こいつ……しぶといぞ!?」
追う者たちの声を聞きながら走る。
「くっ、もう魔力がない……ここまでか」
限界を迎えたのか、急に立ち止まる。
同時に追跡者が追いついてきた。彼らは人の血の中に流れる「死」を探し当て、それを抽出しては奪う者たちだった。彼らは死を奪うことで不老長寿を手に入れようとした。彼らは、不死を手に入れたいのではなく、死ぬことが怖いのだ。だが死ななくなることはすなわち永遠の牢獄を意味することに他ならない 人々は彼らのことをこう呼んだ。「死の使い手」と。彼らは自らのことをこう名乗った。「死の使者」と。
かくして二つの組織による闘争が始まった。一つ目の組織は、死にたくない人々を守るために作られた。対し二つ目は、死を恐れるものどもを抹殺するために作られ、やがて二つとも互いに相容れぬままに歴史の彼方へと消えていった。
「死」とは、人類の進化の過程において生まれた最も根源的なものの一つだ。それこそ、全ての生命の始まりであり、終わりでもある。

優人

罪に目を向け、認め、贖わなければいけない
裏社会に 人々は、自らの命運を握る、その毒を手に入れた。だが、それを手放すことは決して無かった。なぜならば、一度手にしてしまえばもう二度と元には戻れないからだ。一度手に入れたならば、もう後戻りはできない。たとえそれが、どんな犠牲を払ってでも欲しかったものだとしてもだ。
その日もいつもと同じだった。
私は、大学の講義を受け終えて帰路についていた。時刻は既に午後7時を過ぎている。空はすでに暗く、太陽は地平線の彼方へと消えていた。
ふと視線を上げると、大きな満月が見える。今日は確かスーパームーンだったか……? いや、ただ単に私の視力が低いだけかもしれないな。
そんなことを思いながら歩いていると、不意に声をかけられる。
「あのぉ~、すみません」
声の主を探して周囲を見渡すと、道端に立っている若い女を見つけた。白いワンピースを着ており、手には小さなバッグを持っている。恐らく大学生だろう。

優人

「どこにでもいる普通のひと」なんてどこにもいない。どこの世界にも変わり者はいるものだし、いつの時代だってそうなのだ。
「うっ……ここは?」
目が覚めると、見慣れない天井があった。
俺はベッドの上で仰向けになっているようだった。
「あら?起きたみたいね」
声の方を見ると、そこには見知らぬ女性がいた。
「えっと、あなたは誰ですか?それにここってどこですかね?」
女性は少し驚いたような顔をして言った。
「ここは私の家よ。私はあなたを助けたのだけど覚えていないかしら?」
助けてもらったらしいことは分かったけど、俺の記憶がないのだから仕方ない。
「すみません、全然分からないんです。自分の名前すら思い出せなくて……」
それを聞くと女性は困った表情を浮かべて言った。
「それは大変だわ……。とりあえず今日はゆっくり休んでちょうだい」
「はい……ありがとうございます」
お礼を言うと女性は部屋から出ていった。
(あれ?あの女性の目……綺麗な緑色をしていた気がするんだけど……)
そんなことを考えているとまた眠くなってきた

優人

神秘は衰退し人の世が始まる「…………うっそだろ」
目の前に広がる光景を見て、僕はそう呟くことしか出来なかった。
いやだってさ? ちょっと目を離したら家が半壊してたら誰だって驚くと思うんだよ。うん。
僕の家はどこにでもある普通の一軒家だったはずだ。少なくとも僕が物心ついた頃からずっとここにあったし、両親と一緒に住んでいたはずなのだけど……。
まあ今はそんなことはどうでもいいか。それよりまずは現状把握を優先しよう

優人

人間から解放してやりたかったんだな………
「ん?何だこれ?」
俺こと真山恭介は、机の中に見慣れないものが入っている事に気づいた。
取り出して見ると、そこには一枚の手紙が入っていた。
『突然のお手紙失礼します。私は、あなたのクラスの担任をしている教師です』
「あぁ、あの先生か」
どうやらこれはラブレターとかではなく、普通に授業関係のものらしい。
『まず初めに、先日の中間テストの結果についてお伝えしたいことがあります。実はあなたの成績があまりにも酷すぎるため、このまま進級させることが難しい状況になっています。そこで、成績優秀だった一ノ瀬さんと一緒に、補習を受けるようにしましょう。補習の内容は、国語と数学になります。放課後の教室で行いますのでよろしくお願いします。尚、拒否権はないものとします』…………えっと、どういうことだ? とりあえず、何かとんでもないことが起きているということだけは理解できた。
「ねぇ、

優人

自己矛盾の果てに彼女がどんな答えを選んだのか、今となってはもう分からない。けれど、少なくとも私は私の意思で彼女の元を離れたし、彼女と再び会うことは二度と無いだろう。
「さようなら」
そんな言葉を呟きながら、私は最後の一歩を踏み出す。
私が歩む道はきっと、彼女に背を向けることなのだと思う。だからせめて、私の想いだけは胸に抱いていよう。そうすれば、いつかまた会えたとき、胸を張って言える気がするから。
──貴方のことが好きですって。
──────────── 世界は荒廃していた。
空には雲の代わりに得体の知れない黒い物体が浮かび、地面からは絶え間なく黒煙が立ち上っている。
かつて都市と呼ばれた場所は見る影もなく破壊され、そこかしこから悲鳴や怒号が響き渡る。
血飛沫と肉片が飛び交う中で、少年は銃を構えて走っていた。
彼の名はアルス・マグノリア。16歳だ。
彼は今、自分の人生の中で最も危険な状況にいると言っていいだろう。
「ちくしょう!なんなんだよあれ!?」

優人

そう言いながらアルスは瓦礫に身を隠した。
すると目の前には異形の姿があった。
「グギャアァ!」
そいつはアルスが身を潜めた建物の壁に爪を突き立てると、そのまま壁を引き裂き始めた。
(まずい……このままじゃ見つかっちまう!!)
アルスは咄嵯の判断で手に持っていた拳銃の安全装置を解除しつつ、引き金を引いた。弾丸は狙い通りに標的へと向かっていき、命中――しない。
「っ……!」
アルスを狙った男の手から、何か黒いものが飛び出していた。男の口元が歪む。笑みだ。だが、それも一瞬のこと。次の瞬間には男は地面に倒れ伏していた。
「なっ……!?」
男が倒れると同時に、手品のようにして現れた『それ』を見て、アルスが驚きの声を上げる。
「何が起こったんだ?」
「いや、私にもさっぱり……」
突然の出来事に呆然と呟く二人に対して、倒れたままの男が小さく笑う。
「ハハッ、油断しすぎじゃあないか? こっちだって命懸けなんだぜ」
「何を言って……」
言いかけて、そこでようやく気づく。男の身体から流れ出る血の量が多いことに。よく見れば、服の下に隠されていたはずの傷口からも、かなりの出血が見られる。おそらく銃創だろう。
(いつの間に撃たれた?)
そう思って周囲を見渡せば、倒れた男の後ろにいる別の男が目に入る。彼は両手で握った大型の銃器を構えているようだった。恐らくそれで撃たれたのだろうと察するが、やはりどうやって撃ったのかまでは分からない。
「チッ! 仕留め損ねたか」
舌打ちをして悔しげに顔をしかめる男に向かって、アルスは警戒しながら問いかける。
「お前ら、何者だ?」
「名乗ってもいいけどよ、そしたら俺たちを殺すんじゃねぇか?」
「ああ」
即答すると、男は肩をすくめて苦笑を浮かべた。
「いい返事だ。俺はカゲロウ。んで、こいつは相棒のアカネ」
「カゲロウとアカネ……」
聞き覚えのない名前だったが、その名を口に

優人

被検体:Eを「当たり前の光景」と捉えつつも本能的に「見たくない」と拒絶していたのは、横たわる物体が自分と同じ姿だったから......とか。
まぁそういうことです。
死ななくなった世界での人類の生存戦略とは? と問うてみたらこんな感じになりました。
・実験台となった被験者をどう扱うかについて → 倫理観の差により扱いが異なるのではないかと思います。
倫理観の低い国ほど人体実験が盛んになるようなイメージです。
・死の概念がなくなった世界で生きる意味はあるのか? ⇒ 死にたいと思ったことはあっても、死ぬ勇気がなかった人たちにとっては福音なのではなかろうか
・倫理観の崩壊ってヤバくね? ⇒
「殺人」「窃盗」といった犯罪行為を行えば罪に問われるが、そもそも犯罪という概念自体存在しない世界だぞ
・罪悪感とか湧かないんじゃ……
⇒ まあそんなこと言ってたら「自殺」なんてできるわけないしな!
・結局これ何がしたいんだっけ? ⇒

優人

「死」というものの本質に迫る話じゃなかったかな
・それなら最初から概念について触れればよかったんじゃないか?そんなことできるはずがない! と、多くの人間がそう思っただろう。だが実際にはできた。彼らはそれを"魔術"と呼んだ。彼らは"科学"と"魔術"の境目をなくそうとしたのだ。
しかし、彼らが望んだ境目は、あまりに隔絶していた。
「……つまり、お前たちは、俺達の死を望んでいるわけか?」
男は言った。場所は病院だ。男の身体からはチューブが伸びていて、ベッド脇に置かれたモニターへと繋がっていた。傍らに立つ白衣の男はそれを見下ろしながら答えた。
「ああ、そうだとも。我々は君達の命を助けようとしているんだ。もちろん、無償でね」
「信じられるかよ、そんなこと」
「ああ……だがなぁ、実際問題どうなんだ?本当に俺らは生きてんのか?」
「知らねぇよ!俺はもうこんな生活嫌だ!」
「まあ待てって、落ち着いて考えようぜ、ここは冷静にさ、なっ!?」
「じゃあお前はどうやってここから出るんだ?」
「それは……あれだよ、ほら」
「馬鹿かお前、あの化け物どもに喰われて死ぬぞ」
「くそったれぇ!!」
「おい静かにしろよ、バレたら殺されるぞ」
「なんで俺たちがこんな目に遭わなくちゃならねえんだよぉ!!!」
「仕方がないじゃないか、僕たちはもう終わりなんだよ、諦めろ」
「うるせえ!!お前こそなんで平然としてられるんだよ!おかしいんじゃねえのか!」
「君だってそうだろう、いい加減認めろよ、僕らはもう死んだんだ」
「違う!!あいつらに殺されたんだろうが!!お前らが殺したようなもんじゃねえか!!」
「だからなんだ?あの時私が助けなかったら、君は死んでたぞ?」
「ッ……!」
「それに、君だって私を殺しに来たじゃないか。お互い様だろ?」
そう言って、男は笑った
「なんなんだよテメェはよぉ……!俺の仲間を殺しておいて……なんで笑ってられんだよ……」
「別に私は何もしてないさ。ただ、君たちの運が悪かっただけだよ。私のせいじゃない」
「ふざけんなよ……殺す……絶対に殺してやる……」
「できるならやってみればいいさ。もっとも、その時は今度こそ本当に死ぬだろうけどね」
「クソがぁあああ!!!」
「やれやれ、これじゃあまるで私が悪役みたいだな……。まあいい、もう会うこともないだろうし、そろそろお別れの時間かな」
男が指を鳴らすと同時に、男の後ろに大きな門が現れる
「待てよ!まだ話は終わってねぇぞ!?」
「悪いけれど時間切れだ。それとも何か?またやり直せばいいのか?」
「……っ!」
言い返せない。
僕は今、彼女の人生において一番大切なものを奪おうとしているんだから。
「お前の気持ちはよく分かったよ。僕みたいな奴のことが好きだって言ってくれたことも含めてな。だけどもう終わりにするしかないんだよ」
そうして僕は自分の想いを告げるべく口を開いた。
「僕にとって君は幼馴染みであって、それ以上じゃないんだ。だから付き合うとかそういうことはできないし、それに──」
そこまで言ったところで、不意に視界の端に見慣れたものが入った。

優人

感性が子供のまま裏世界に足を踏み入れた咎人たちに 命の価値を理解できず倫理観の欠如した、狂った科学者たちに 世界を変えうる革命の技術 それを、彼ら彼女らはこう呼んだ―――
―――【紅血機関】
『紅』の名を冠するその組織の誕生により、世界の様相は大きく変わることとなる。
これは、その物語の一部始終だ。
1.
【2029/5/28 13:32 PM】
「ふぅん……つまりあなたたちは、私たちの敵ってわけね?」
女の声だった。
場所はガレノス・タワーの地下駐車場、その隅にある寂れた喫煙スペース。そこにいたのは二人組の男と、声の主である女だけだった。
男はいた。彼は死にたかった。しかし、それを許してくれるほど世の中甘くはない。男は死ねなかった。故に彼は、死ぬことを諦めていた。
そんな彼の日常が崩れたのは、いつだったか。彼が自分の人生を振り返るならきっとこう言うだろう。
「あれは……あの日だな」

優人

いつも通り仕事をしていた。ただそれだけのこと。しかしその仕事場には男が求めるものは何一つ無かった。男の仕事とは、死体処理。そうして出来上がった死体を金と引き換えに引き渡す。要するに、殺し屋であった。
男の顧客は様々だが、その中でも一番多かったのが自殺志願者。彼らは、自分を殺して欲しいと懇願してくる。だから男は、彼らを殺すことを躊躇わなかった。
そして今日も、男は依頼された通りの作業をこなすため、あるマンションの一室へと足を運んだ。そこで目にしたのは、今にも首を吊ろうとしている男の姿だった。
「自殺志願者か……?」
男は呆れたように呟いた。ここは一応集合住宅だ。それも、最上階のワンフロアぶち抜きの部屋。こんなところで自殺したら、どう考えても後処理が面倒になるだろうに。そんなことを考えながら部屋の中に足を踏み入れると、そこには先客がもう1人居て──
「あぁ、あなたですか。お待ちしていましたよ」
そう言って微笑む女性の顔を見て、男の思考回路は一瞬フリーズを起こした。だがすぐに持ち直して状況を把握しようとする。
(なぜ彼女がここに? いやそもそも、これはどういうことだ?)
男が困惑しながら部屋の中を見回すと、ベッドの上に横になっている彼女と目が合った。その目は虚ろで、とても正気とは思えない。
「さぁ、早くこちらに来てください。あなたの望むものを、手に入れてあげますから」
彼女の声音からは、一切の感情を感じ取ることができない。まるで、人形と話しているようだ。
「望んでいることなんて無い。俺はただ仕事をするために来たんだ」
俺の名前は鈴木一馬。今年から高校生になったばかりのピチピチだ。そんなピチピチな俺だが……いかんせん高校デビューに失敗してしまったらしい。
中学まではそれなりに友達もいたし、成績だって中の上くらいだったはずだ。なのに高校に入った途端、誰も話し掛けてくれなくなった。それどころか避けられているようにさえ感じる。
そう、入学して二ヶ月ほど経った今でもクラスメイトはおろか担任の教師ともろくに話せていない状況なのだ。
こんなはずじゃ

優人

少額ながら莫大な富を生み出す裏社会に 死の抽出技術は、その副産物である薬の生成過程において、さらなる革新を起こした。人体における死の定義の曖昧さを利用して、それを自在に引き出す術を発見したのだ。こうして、人々はより手軽に死ねる手段を手に入れた。
それから半世紀、今や人類の半数以上が、死の抽取剤により命を得ている時代だ。
そんな時代に、彼は生まれた。彼は、自らの意思に関係なく、物心ついた頃から、既に死んでいた。いや、正確には、自ら望んで死んでいるようなものだった。
彼の両親は、彼が5歳の頃に揃って事故死し、それ以来親戚の家に引き取られたが、そこでの生活は決して楽なものではなかった。度重なる虐待に耐えかね、ある日ついに少年は自らの命を絶った。
自殺とは即ち、生きることを放棄することだ。よって、彼にとっての死とは、生きていることと同義だった。
そうして、15歳の春を迎える頃には、彼はもう立派な廃人だった

優人

伊達巻き「え? あぁ、そうだったっけ?」
「忘れんなよー……ったく」
そんな会話をするカップルがいる。男の方は、少しばかり背が低いものの、それなりに整った容姿をしている。対して女のほうは、男よりも頭一つ分ほど高い身長と長い黒髪を持っている。モデル体型だと言えば聞こえはいいかもしれないが、その体躯のせいで、女性らしい柔らかさはあまり感じられない。それどころか、どこか

優人

釜に放り込まれる無数の死体。それらを貪欲なまでに食らい続ける虫達。それを見て人々は言うだろう。ああ、なんて気持ち悪い光景なんだ! と。だが、そんな声も次の日には聞こえなくなるはずだ。なぜなら、彼らの意識は既に無いのだから……
「はぁ~……今日もつまんなかった……」
僕は、自分の席で頬杖を突きながらそう呟いた。僕の名前は、鈴木拓海(すずきたくみ)。ごく普通の高校生だ。友達は多い方ではないけど、少ないわけでもないし、成績だって悪くはないと思う。まあ、どこにでもいるような男子生徒って感じかな? ちなみに今僕がいるのは教室じゃない。学校近くのカフェテリアみたいなところだ。周りにいる客たちは皆、授業が終わった放課後特有の解放感に包まれているように見える。
(ま、当然だな……俺だって死にたくないし)
と、彼は思う。
彼が今いる場所は病院の一室だった。白いシーツの上で目を覚ましたとき、傍らにいた看護師の話によれば、自分は3日ほど昏睡していたらしい。そして今はもう夕方だから、丸1日経っている計算になる。
体を起こしてみるが、特に痛むところはないようだ。自分の体をあちこち見回してみても、包帯一つ巻かれていない。
ふいに部屋の扉が開かれて、医師らしき白衣の男が現れる。
「お目覚めですか?気分はいかかです?」
「えっと……はい、大丈夫そうですけど……」
男は、彼にいくつか質問をしたのちに「明日には退院できますよ」と言った。
「あー……じゃあ俺はこれで失礼しますね」
と言って立ち去ろうとする男を呼び止めて、訊ねる。
「あの、ここってどこなんでしょうか?俺

優人

アクリル
板越しに見る死体のような虚ろな目で、彼は言った。
「私は、あなたたちに殺されるためにここにいる」
「君たちは今、死ぬために生まれてきたと言ったね?」
男は続ける。
「私が知る限り、そんなものはありゃしないよ」
「……どういう意味だ?」
「死ぬために生まれた? はっ! 馬鹿げたことを。それじゃあまるで、君は生まれてきた意味なんてなかったみたいじゃないか!」
「……そうね。私は生まれてこなければ良かったのかもしれない」
「そんなこと―――ッ!!」
「いいえ。だってあなたは、私が居なくても幸せだったでしょう?」
「そ、れは…………」
「私の両親は、私が生まれたせいで亡くなったのよ」
「なっ!?」
「それに、友達だと思っていた人たちもみんな死んでしまったわ」
「…………」
「だから、せめて貴方だけは、私がいなくなっても幸せになって欲しいと思ったのだけど……やっぱりダメよね」
「…………違う」

優人

「?」
「君が死んだら僕は不幸になるんだ!! だから僕を置いて先に逝かないでくれ!」
「でも、もうどうしようも無いのよ」
「どうしてだよ!?」
「私に残された時間は少ない。だから、残された時間で貴方を幸せにしてみせるわ」
「なら、ずっと一緒にいれば良いだろう!?」
「ふふ、ありがとう。でも、無理なのよ。だって私はもう死んでしまっているんだから……」
そう言って、彼女は少し悲しげに微笑む。
僕はただ黙って彼女の話を聞くしかなかった。
僕たちは今、二人で廃墟となった病院跡にいる。そこはかつて多くの患者たちが安らぎを求めて集っていた場所だったそうだ。
「あなたは、私が死んだ時のことを憶えている?」
「いいや」
「なら良かった。私が死んだ時のことなんて忘れてしまった方が良いわ」
「どうして?君は自分が死んだ理由を知っているのか?」
「知ってると言えば知っているけど、知らないと言えば知らないわね。とにかく、あなたのせいじゃないわ。だから気に病まないで」
彼女が何を言っているか分からなかった。自分の死因すら覚えていない僕にとって、そんなことを言われても納得できるはずがない。
「ごめんなさい。きっとあなたは混乱してると思う。

優人

ドーナッツ
の穴のように穴だらけになった裏社会の人間達に 世界の裏側に蔓延る悪鬼羅刹どもにも この世の地獄たるヘルシング家にも 彼ら彼女らは、死にたくないと願う 死にたいなんていう馬鹿がいるわけがない
「…………ふぅ」
僕は深く息を吐いた。
もう何度目か分からない。
目の前には今し方殺した男の死体がある。
銃声が響く。「……くそっ!」
男は悪態をつくと、物陰に隠れる。
今いる場所は、廃ビルが立ち並ぶ区画だ。瓦礫が多く、身を隠せる場所も多い。だが、遮蔽物の影から見える光景はあまり芳しくなかった。
男が隠れている路地裏の入り口からは、血まみれの死体となった仲間たちの姿が見える。皆、すでに事切れていた。
男の名は、エマヌエル・フォン・シュタウヴィング。
帝国陸軍に所属する兵士である。階級は中尉。まだ若い部類に入るだろう。彼の所属する部隊は、今まさに壊滅しようとしていた。
いや、正確には全滅か。
彼が所属し、ついさっきまで行動を共にする仲間だった者たちは全員死亡していた。
理由は単純明

優人


プクリンは、まだ幼いドラゴンポケモンだ。
つい最近まで、生まれてすぐ親とはぐれてしまった一匹ぼっちだった。
そんな時に出会ったのが、フウリンとリュウエンの二人組の冒険者だ。
彼らがプクリンを保護してくれなかったら、今頃どうなっていたかわからない。
それからというもの、ずっと二人についていくようになった。
今日も二人は冒険に出るらしく、支度をしているところだ。
「よーし! 準備完了!」

優人

双子の日

朝起きると、世界の半分が死んだらしい。
カーテンの向こう側から聞こえてくる喧騒に目を覚ました私は、寝ぼけ眼のままベッドから起き上がり、窓際へと歩み寄る。
窓から外を見下ろすと、そこにはいつも通りの風景が広がっていた。……いや、訂正しよう。一つだけ違うところがあった。
道行く人々だ。皆一様に同じ顔をしていた。まるでマネキン人形のように表情がなく、目線は常に下を向いており、虚空を見つめている。
どう見ても異常な光景だが、私にとっては見慣れたものでもあった。
――ああ、またか。そう思いながら軽くため息をつく。
「まったく、飽きもせずによくやるよなぁ」
今日は『双子』の日だったのか。
双子というのは、簡単に言えばクローン人間のことである。
数年前までは倫理観とか色々と問題になっていたけど、今はそんなことを気にする者はほとんどいないだろう。
だって、今の時代においてクローン人間は珍しくはないからだ。
少し前までニュースで取り上げられていた事件を思い出す。確かどこかの国で起こった殺人事件の話だ。被害者は四人で、全員男。死因は鋭利なものによる刺殺。それだけならなんてことのない事件だけど、問題は殺害方法にあった。なんとその犯人たちは被害者の身体の一部を切り取り、それをつなぎ合わせて自分たちと同じ姿をした人間を作ろうとしたのだ。
それを聞いたときは正直引いたし、同時に思ったものだ。こいつら頭おかしいんじゃねーの?ってさ。
まあ、それはともかくとして、そういうわけだから世の中には自分そっくりの姿をした人間がいてもおかしくないということだ。むしろいるのが当たり前なのだ。
「お姉ちゃん、

優人

残す意識もない裏社会に
その二つの世界を繋ぐ、非合法な闇市場に 人々は、人の命の価値を忘れ始めた それに気付いたとき、私は、私なりの戦いを始めた かつて私の夢見た世界の到来を阻止するために これは、私がその道程の中で得たものを綴った物語だ 1章:夢の始まり
「お待たせしました、ご注文の品です!」
店員の声と共に、テーブルの上に料理が並ぶ。
「おーい、こっちも来たぞー! そろそろいいか?」
「ああ、大丈夫そうだ」
俺はそう

優人

前厄の時代を迎えていた裏社会の闇の中で そして、2030年代を迎える頃には、人類のほぼすべての人間が、それを当たり前のように手に入れていた。
その日、俺はいつも通り出勤し、自分のデスクに座っていた。
朝のミーティングを終え、同僚たちと仕事の話をしながらパソコンを操作しているときだった。突然オフィス内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。何事かと思って音の発生源を探して辺りを見回すと、ちょうど俺の真上の天井近くに、大きな赤いボタンのようなものが設置されていた。どうやらあれが原因らしい。俺はすぐにピンときた。あのボタンを押すことで何か緊急事態が発生したんだな。つまりこれは非常招集の合図だ。
「全員今すぐ第一会議室に移動しろ! 繰り返す、全員今すぐ第一会議室に移動せよ!」
スピーカー越しの声に従って、社員たちが慌ただしく動き出す。もちろん俺もその流れに乗るようにして立ち上がった。すると隣の席の同僚も立ち上がる気配があった。
「おい、お前も行くのか?」
「あぁ、どうせ行かなきゃ

優人

このアバターには触れさせないでください PT内で殺人が横行している。
咎人の殺害はもちろんのこと、市民への暴行事件も多数報告されている。
市民同士の争いもあるし、果てはアブダクター同士による戦闘まで行われたという報告さえあった。
ある日突然、何の前触れもなく始まった殺戮劇。
その原因を知る者はいない。
誰もが、何か恐ろしいことが起こる前兆だと感じていた。
しかし、咎人を野放しにするわけにもいかない。
咎人に人権はないからだ。
そうして、咎人たちは、新たな戦いへと駆り

ハルヒ

これは、そんな時代に生きる二人の青年の物語である。
「……なぁ、本当にやるのか?」
「ここまできて何言ってんだ?大丈夫だって!バレねぇって!」
「そうじゃなくてさ……」
「うるせぇぞ!今更ビビッてんのか!?お前それでも男かよ!!」
「いや、俺は男だけど……」
「なら黙ってついてこい!!ほら行くぜ!!」
「ちょっまっ……」
ーーーーーー 時は20xx年。
世界は未曾有の危機に晒されていた。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょうか」
「ここってどこですかね」
「ここは日本です」
「えっと……つまり、あなたたちは、死の抽出に成功したんですね?」
「はい。我々にとって、それはまさしく神の技でした。ですが同時に、我々は神への冒涜を犯していたのです。それこそが我々の罪」
「どういうことですか? それに、なんで僕なんかを呼びつけたんですか?」
「そうですね。まずはその話からしましょう。あなたを呼んだ理由は単純明快な理由です。あなたがあの男の息子だからですよ」

ハルヒ

「あの男って、父さんのことですか!?」
「えぇ、そうですとも。私はかつて、あなたのお父様の研究に深く携わりました。そしてその過程で、彼の研究の秘密を知ったのです」
「秘密?」
「はい。彼は死に対する理解を深めようとしました。そして彼が辿り着いた答えこそ、あなたの持つ『不老』の力だったわけです」
「僕の力が、父さんと同じものだって言うのか?」
少年の言葉に、男は静かにうなずいた。
「ああ、そうだよ。君のお父さんはね、君と同じように『死の抽出』を行っていたんだ」
「じゃあどうして、母さんは父さんのこと……!」
男はその問いにもすぐに答えなかった。ただじっと、何かを考えるように、目を伏せていた。
「あの日、僕の父さんは死んだ」
長い沈黙の後、ぽつりと男が呟く。
「だから僕は、君を迎えに来たんだよ」
「迎え?どういう意味だよ、それ」
「君は今のままでは、近い将来必ず死ぬ運命だ。それをどうにかするために、僕らは来たんだ」
「そんな!なんで!?」
「君のお父さんの研究のせいで、多くの人が亡くなった。君はもう二度とお母さんには会えないし、お父さんとも一緒に暮らせなくなるかもしれない」
「父さんが死んだのは研究のためじゃない!それに、母さんだってきっとわかってくれるさ!僕たちは家族なんだから!!」
男の言葉を遮るようにして叫ぶ。けれど、それでも彼は表情を変えようとしなかった。
「いいかい、よく聞いてほしい。君のお父さんがしたことは、決して許されることではない。だからこそ、同じ力を持つ者として、君の力を借りたいと思っているんだ」
目の前の少女──俺の妹を名乗る存在はそう言った。
俺は今、何を言われているのか分からないといった表情をしているだろう。
いやだって、こんな状況になるなんて想像できるわけがないじゃないか?
「……君は何者なんだ?」
そんなことを訊くくらいしかできないだろ?
「僕は『世界』だよ」
妹を名乗った存在は微笑みながら答えた。
「なるほど、『世界』ね……って、えぇ!?」
「死にたくない」という思いを抱える裏社会に そして、それを操る者達がいる
「死神」と恐れられる彼らこそが、人類社会における、死の恐怖の象徴だった
「……それで、俺を呼んだってわけか」
薄暗い部屋の中で、二人の男が向き合っていた。一方は白衣の男、もう一人はスーツ姿の大柄な男だ。どちらも若くはない。だが壮齢と呼ぶにはいささか早すぎるだろう。白衣の方は40代半ばといったところだろうか。対して大男は20代の後半と言った風体であった。
「ああそうだよ、アンタらなら何とかしてくれるんだろ? 頼むよ、もう限界なんだ」
「そう言われてもねェ……」
白衣の男は頭を掻くとため息をつく。困ったような表情を浮かべているものの、口調そのものはどこか軽い。まるでどうしようもなく面倒なものを押し付けられたかのように。
「悪いね、私はもう死んでしまったんだ。私を殺した奴らへの復讐を果たすまでは、絶対に死なないと決めているんでね」
「……いいよ、一緒に殺してあげる」
「ふむ、良い心掛けだ。だが少し待ってくれないか?私の武器は少々特殊でね。君のような普通の人間には扱えないんだよ」
「ならどうすればいい?」

ハルヒ

「そうだねぇ……まずはこのナイフを使ってみてくれ。大丈夫、見た目よりもずっと軽いし、切れ味も良い。きっと君の力になってくれるさ」
「わかった」
「うん、それじゃあ次はちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれるかい?」
「構わない」
「そうか、ありがとう。じゃあいくぞ──ッ!!」
「ぐっ!?」
「ごめんね、でもこうしないと君は死んじゃうんだ」
「わかってる」
「そっか、なら良かった。お疲れ様、これで君の仕事は終わりだよ。後はゆっくり休むといい」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「んー……やっぱりまだ慣れないなぁ……」
朝の6時前。目覚まし時計の音で目を覚ました私は、そう呟きながら布団の中で伸びをした。
私の名前は、新藤明莉。ごく普通の女子高校生だ。今日から3年生になります。……とは言っても、今年の4月から通う高校は違うんだけどね。
私がこれから行く学校に通うことになったきっかけは、去年の春のこと。
私の家は両親が共働きなので朝早く起きる習慣があり、中学生になっても目覚まし時計なしで起きられる。
だけど今日だけはそうはいかなかった。
『う~ん……』
私は布団の中でモゾモゾと身体を動かす。まだ眠いけどそろそろ起きないと学校に遅刻してしまう。
寝ぼけながら手探りでスマホを探し当て電源を入れる。画面に表示される時間は7時10分。学校に行く準備をする時間を考えるとギリギリだ。
『えーっと今日の天気は――って雨じゃん!?』
カーテンを開けると外は大雨だった。これじゃあ傘を差してもびしょ濡れになってしまう。天気予報を見ておけばよかった。
とりあえず母さんか父さんのどっちか起こしてこいよ。そう言った俺の言葉に従い、妹は階段を降りていった。さて俺はどうするか?……まあ、いいだろう。たまにはこういう時間があっても。それに、まだ朝飯まで少しばかり間があるしな。
「お兄ちゃん! 起きてる!?」
だからどうしてお前らはノックなしで部屋に入ってくるんだ。いやまぁ別にいいんだけど。
「ああ、今起きたところだ。どうした?」
「なあ、知ってるか?あの話」
「ん?」
「ほら、『紅い死神』だよ。最近よく聞くだろ?」
「ああ……あれかぁ。怖いよねぇ」
「なんでもさ、あいつが通った後は死体しか残ってないとかさ」
「うっそぉ!じゃあ今頃街中死体だらけじゃん!」
「かもねー」
「まあ、そんなわけ無いけど」
「えぇ~なんでぇ?」
「だって『紅い死神』なんて言われてるんだぜ?普通は赤い服着てるとかじゃないのか?」
「確かにそうだよねー。でも本当にそうなんじゃ……」
「まっさかー!お前信じてんの!?」
「ち、違うし!ただちょっと思っただけで……」
「ははは、そう言うことにしておいてやるよ」
「あぁ……、頼むぜホントに」
「しっかし、こんなところに何があるんだ?」
「さぁな、俺は言われたとおりにするしかないんだよ」
「まぁいいけどね。どうせ暇だし」
「なら聞くんじゃねぇよ」
「いやー、なんか面白い話ないかなって思ってさ」
「知るかボケ」
「あっそ、じゃあいいわ。別の奴探す」
「勝手にしろ」
「へいへ~い」
「……ったく」
(どいつもこいつも、俺のことなんざ眼中にねえってツラしやがって)
―――――
「……っ!」
目を開くと同時に飛び起きる。またあの夢だ。ここ最近、同じ夢ばかり見ている気がする。

ハルヒ

「死者蘇生」の、夢物語のようなそれを……
――――――
「おい!起きろよ!」
「んあ?」
「もう昼だぞ!いい加減にしろって」
俺の名前は山田太郎。どこにでもある平凡な名前を持つごく普通の男だ。俺は今、友人である田中雄二の家に遊びに来ていた。そこで、友人の家で見つけた雑誌を読んでいたら、こんな記事を見つけたんだ。
『催眠術入門』
そう、催眠術について書かれた本だったんだよ! なんでそんな本が家にあったのかはわからないけど、とにかくこの本のおかげで、俺の人生は大きく変わることになったんだ……。

***
ある日のこと。
「なあ、雄二。ちょっと頼みがあるんだけどさぁ」
学校からの帰り道、一緒に歩いていた雄二に声をかけると、彼は面倒くさそうな顔をして振り返った。
「何だよ?」
「いや、大したことじゃないんだけどね? 実は今日、面白い本を拾ってさぁ」
「面白い本ぉ~?」
胡散臭げに眉を寄せて聞き返してくる雄二。まあ、無理もない反応かもしれない。いきなり面白い本なんて言われても困るだろうし。だけど俺は気にせず話を続けた。

ハルヒ

「うん。催眠術っていうのが載ってる本なんだよねー」
「催眠術ぅ~!?」
すると案の定、驚いた声を上げる雄二。そりゃそうだよねぇ。だって普通はそういう反応をするもん。でも、そんなこと気にしてられないんだよねーこれがさぁ。
「あのね……雄二」
「なんだ?」
僕はため息交じりにこう言った。
「実は僕―――不老不死なんだよ」
「あ? 何言ってんだお前。寝ぼけてんのか?」
「いや、だから本当にそうなんだってば!」
もう! なんで信じてくれないかな!? こっちは真剣なのにっ!!
「信じられるか馬鹿野郎。いいか明久。よく聞け。お前は不老不死だ」
「……雄二。それって『今晩のおかずはピーマンです』とか言うくらい信じ難いんだけど?」
「安心しろ。俺も同じ意見だからな」
「何がどうしたら安心できるのかわからないよ!」
昼休み。僕らFクラスメンバーはいつものように教室で昼食をとっていた。僕たちは基本的に購買組なので弁当持参なのは姫路さんと美波ぐらいだけど。
「あのねアキ? ウチだってこんなこと言いたくないけど、アンタ不老不死なのよね?」
そう言いながら自分の首元を指差す美波。そこにはネックレスのような物がついている。
これは僕の持っているお守りと同じもので、持ち主の首にかけているだけで寿命が延びるらしい。まぁ、実際はそんな効果はないみたいだけど、それでも普通よりもずっと長く生きることができるそうだ。ちなみに、効果は一生続くとのこと。
「うん。僕は普通の人に比べてすごく長生きなんだってさ」
「えっと、確か瑞希の話じゃ百歳近く生きてて……あぁ、そうだ。名前は確か『オリンポス』だったよな? なんかギリシャ神話に出てくる神様の名前みたいだ」
「そうですね。ですがあの方は、れっきとした日本人ですよ」
「日本人!? そんな名前なのに?」
「はい。ですから、日本神話に登場する神々になぞらえて、『オリンポス』と呼ばれています」
「な、なんともまぁ、大仰なことをするんだね」
「いえ、本人はあまり気にしていないようですよ?それにしてもあの子達は本当に元気ですねえ……。」
白衣を着た男が、窓の外を見ながら呟いた。彼は今し方まで電話をしていたらしく、受話器を置きながら微笑む。
「なあに?またなんかあった?」
「いえね、お嬢様。今日は珍しいお客様がいらしてましてねえ……。」
男はそう言うと立ち上がり、部屋の隅に置いてあったトランクケースを開けた。中には、ガラス瓶に入った紅い水と、カプセル型の薬が入っていた。
「ああ……それって例の子達じゃない!確か名前は……何だっけ?」
「『シスター』ですかね。何でも、『聖女』とか呼ばれてるらしいですよ。」
「ふーん、そっかぁ……。それでその子達がどうしたの?」
「実はついさっき、彼らの内の1人に呼び出されて会いに行ったんですよ。なんでも私に会いたいと言ってきたようで……」
「あらまあ、じゃあそっちはもう大丈夫かな?あとはこっちの問題だね……うん、ありがとう!そんじゃよろしくぅ!」
「はいはいーっと。ふぃ~、とりあえず一安心ってところかねぇ」
通話を切り、ため息をつく。まったく、こんな状況になってまで仕事とはツイてないなぁ。そんなことを思いながら、私は机の上に散らばった書類を片付け始めた。
「えぇと、次のお客さんは……」

ハルヒ

「……ああ、私だが?」
不意にかけられた声に振り向くと、そこには見知った姿があった。艶やかな黒髪に、黒いスーツ。いつものように煙草を口にくわえているその姿は、とてもじゃないけどカタギには見えない。
「んぉ、なんだアンタかい。相変わらずシケモクみたいな匂いさせてさァ」
「ふん、お前だって似たようなものだろ。それにしても、ずいぶんと忙しそうだな」
「そりゃあそうよォ。何せ今はどこもかしこも大混乱だァ! 何せ20年前ッから、世界人口の半分近くが死に始めてんだぞ!? しかもそいつらはどんどん増えていってる!」
『……!』
「お前だって見ただろう? あの日、俺達が見送ったガキどもをさぁ?」
『えぇ』
「あんなもんが世界中に蔓延してみろ、今頃地球上の人口は半分以下になってるぜェ」
『確かに』
「だからな、俺たちは考えたわけだよ。どうやったら世界を救えるか。そこで思いついたのがこれだ」
男が指差したのは、透明な容器の中で波打つ紅い液体だった。
「これは死をなくすための薬じゃねぇ。逆に増やすためのものさ」
男はニヤリと笑って言った。
「さぁて、楽しい実験の始まりだ」
***
「うっわー! すごいね! これ全部お肉かな!?」
「おい馬鹿声が大きい」
「ごめんごめ〜ん」
「ったく……」
「ほら見てみて! すっごく美味しそうな鳥さんがいる!!」
「あれは鳥じゃない。羽があるだけの虫だ」
「むしぃ〜?」
「そうだ。いいか、これから行くところは、もう何年も前に廃棄された場所なんだ」
「なんでそんなところにいくのぉ〜」
「お前はもっと勉強しろ。こういう施設をなんて言うんだ」
「ふぇ? えっと、研究施設とか?」

ハルヒ

「死にたい奴を殺すゲーム」だ。
殺し方は様々だった。ナイフによる刺殺、銃殺、絞殺、撲殺、毒殺……だが一番人気なのはやはり「安楽死」だろう。
痛みを感じることなく死ぬことができる、最も手軽な方法なのだから当然かもしれない。
それに、何よりも魅力的なのはその報酬にあった。賞金10億ダラー もちろん、その額に見合うだけの理由がある。まず、このゲームの参加者は皆、賞金獲得のための条件を満たしていることが挙げられる。ゲームに参加するにあたって、参加資格たる3つの項目をクリアしなければならない。
1つ、犯罪歴がない 2つ、健康な体を持っている 3つ、死ぬ覚悟ができていること そして最後に、これが最も重要なことだが、このゲームに参加した者は例外なく死にたがっていること。このゲームに参加すれば、誰もが一度は死んでみたいと思うはずだ。そうして、人々は自分の死と引き換えに金を得るべく、ゲームの参加者となった。

ハルヒ

さて、ゲームのルールについて説明しよう。ルールといっても難しいものではない。要するに殺し合えばいいのだ。ただし、普通の殺し方では駄目だ。相手を殺したいなら殺すしかないし、殺される前に殺したらいけない。殺せるか殺せないかの二択であり、それ以外の選択肢はない。
このゲームにおいて、殺人とは「相手の殺害」ではなく「自分の死亡」を指す。つまり、相手を殴れば自分が死に、相手が銃を使えば自分も死ぬ。そういうことだ。だからといって油断してはならない。なぜならこのゲームにおいては、相手がどんな武器を持っているのか分からないからだ。
ここで注意すべきなのは、相手がどういう方法で攻撃してくるのか予測できないということだろう。例えば、目の前にいる男が突然ナイフを取り出したらどうすれば良い? あるいは、拳銃を持っていたとしたら……。
そうして生まれたのが、ゼーバッハ社が管理する「特別刑務所」だ。そこでは、かつて死刑だった罪人たちを実験材料とする非人道的研究が行われている。
特別刑務所に収監された咎人たちは、自らの命と引き換えに、世界を脅かす存在への復讐を果たすことを強要される。
そんな彼らの戦いを描いた物語が、今ここに幕を開ける―――! 【キャラクター】
・咎人/被験者
:主人公。元死刑囚。自分の罪を自覚し、償うため、また愛する者を殺された憎しみ故に、戦いに身を投じることとなる。
・天獄
:突如現れては殺戮を繰り返す謎の勢力。人類共通の敵とされる。
・アーベル
/咎人:主人公の宿敵。「原初の三機」と呼ばれる強力な機体を所有する咎人の王。
・アリエス:咎人:主人公の前に現れる謎の少女。常に傍にいる。咎人を救済するため戦うらしい。
・ゼノビア:咎人:アーベルの部下にしてヒロインの一人。
・アテナ:咎人:アーベルの部下にしてヒロインの一人。
・シュピーゲル:咎人:アーベルの側近を務める男。
・シン:咎人:アーベルの部下にしてヒロインの一人。
・ラハブ:咎人:アーベルの部隊に所属する咎人。
・イリス:咎人:アーベルの部隊の隊長。女性型だが男性のような口調をする。
・クロエ:咎人:アーベルの部隊の隊員。寡黙な女。
・リザ:咎人。元は「アリエス」と名乗る女性だったが、後に咎人の男と結婚し咎人に成り果てる。咎人になって以降は、夫との間に子供を儲けている。現在は妊娠中だが、その身体からは絶えず血が流れ出ている
・エデン:咎人。リザの子を産んだ咎人。夫の咎人は死亡済み
・ゼノ:咎人。リザの息子。産まれたときには既に死んでいた咎人。「アリエス」の正体を知っている模様
・ハスター:咎人。ゼノの父親。既に故人
・アリサ:咎人。ゼノの母親。「アリエス」ことリザの友人でもある

ハルヒ

「死のゲーム」と呼ばれるそれだ。
ルールは至って単純明快なものだ。
参加者はランダムに選ばれた一名のみ。参加者以外の参加希望者はその様子を見守るだけの傍観者としての参加権を得る。ただし、参加者以外は、参加者が負ければその魂を奪われることを知っている。
参加者の勝利条件はただ一つ、自身の死をもって相手を殺すことである。そうして勝者となった者は、敗者の魂を奪い取ることができる。これが、このゲームの醍醐味であった。
とはいえ、これ自体は別に珍しいものではない。昔から似たようなものはあったし、むしろ新しいものであるからこそ人々の興味を引いた。何せ命を奪うことが勝利の条件なのだから、そこには当然リスクが存在する。故に多くの人間がこの遊戯に参加した。しかし、そこに何かしらの違和感を覚える者もまた多かった。例えば、死者が出ることは分かっていても、何故自分が殺されるのか分からないといった具合に。
しかし、この疑問はすぐに解消されることになる。

ハルヒ

参加者の死が確定すると同時に、その死体が消えてしまうからだ。参加者の肉体は、死を迎えると同時に消失してしまう。それは、参加者以外の人間にとって不可解な出来事だった。
そこで、参加者の死体がどこに消えたかについて様々な仮説が生まれた。そもそも最初から参加者など存在せず、全て架空の話だったのではないか?あるいはどこか別の世界線から連れてこられ、実験材料にされたのか……いずれにせよ、それを証明する手段はない。
そして、ついにゼーバッハ中央製薬が実用化に成功した。
人の命の重さを測る物差しがあるとするならば、それは1単位あたり何円なのかという値段だ。つまり、1万の人間がいれば、1万円の価値しかないということになる。
これが、一般的な考えだろう。
だがしかし、今俺がいる世界では違う。
1万の命の価値などではない。
それは、一握りの権力者たちの欲望のためだけに消費される価値なのだ。
例えば、1億ならどうだろうか? たった1億程度の金の為に、俺は今まで築き上げてきた人生全てを崩されたのだ。
「ふざけんなよ…………」
そう呟いた時だった。
俺の目の前にあった鉄格子の扉が開く。中からは見慣れた面々が出てくる。俺の唯一の家族だった両親と妹だ。
両親は何があったのかわからない様子だったが、妹の方は泣きながら抱き着いてきた。俺はそれを受け止めて頭を撫でてやる。すると妹は涙声で喋り始めた。
「お兄ちゃん!よかった……もう会えないかと思ったよぉ……」
「大丈夫だよ」
「うん……」
「怖くないよ」
「えぇ……」
「僕がいるだろ?」
「うんっ!」
「よし!じゃあ行くぞ!!」
「うわぁああああ!!!???」
俺は今、自分のベッドの上で目を覚ました。汗びっしょりになっているのを感じる。夢見が悪いにも程があるだろう。
俺の名前は藤島優斗。普通の高校に通うどこにでもいるような高校生だったはずなんだが……
「おはようございます、マスター」
「んー……」
こいつはAIアシスタントの「メイ」。ついこの間まで普通に会話をしていたんだが、ある日突然喋らなくなってしまった。原因は分からない。

ハルヒ

そんな社会の裏で暗躍する者たちがいた。彼らは、死という事象自体を否定しようと試みていた。それは即ち、人類の滅亡を意味するからだ。そして彼らは、自分たちこそが人類最後の希望だと信じて疑わなかった。
これは、そんな物語の始まりの物語。
【第一章】
始まりの終わりを告げる鐘の音 1 【第一章】
始まりの終わりを告げる鐘の音 2 【第一章】
始まりの終わりを告げる鐘の音 3 【第二章】
終わりのはじまりを告げる音 4 【第三章】
始まりの終わりに告げられる音 5 【第四章】
終末の幕開けを告げる音 6 【第五章】
終焉の終局を告げる音 7 【第六章】
終わりの見えない命を恐れる裏社会に これは、そんな世界における物語の一つだ。
『お疲れ様です。これより帰還します』
「はいよー! じゃあみんな、今日はこれくらいにしておきましょうか!」
「了解しました、先生」
「ん……わかった」
「えぇ~? もうちょっとだけダメですかぁ?」
「うふふ、また明日ね♪」
「むぅ……わかりました。それじゃあお先に失礼しまぁす」
「さようなら」
「また明日ね」
「ばいばーい!」
「それじゃあな」
今日も俺は教室の中を眺めているだけだった。別にぼっちとかそういうんじゃなくて、ただなんとなくそうして見ているだけなのだ。特に意味はない。強いて言えば、俺みたいな奴がいるってことを確認するためだ。
まぁそんなことはどうだっていいだろう。問題は、今目の前にいる女子生徒のことだ。
長い黒髪に整った目鼻立ち、すらっと伸びた足はまるでモデルのようだ。それにスタイルも良いし……。こんな子が隣の席だったなんて今まで気が付かなかったよ。
そう。彼女が俺の席の隣に座っている女の子、日奈森唯花である。成績優秀スポーツ万能、おまけに誰に対しても優しく接する性格の良さも兼ね備えている完璧超人である。クラスの中で彼女を悪く言う者は誰もいないくらい人気者である。

ハルヒ

一言で言うなら怖いからだ。彼女が怖くて仕方がないのだ。俺こと如月真也は今高校1年生で、入学してすぐに隣の席になったのが、彼女の神城凛だった。彼女は学校一と言ってもいいほどの美少女だ。綺麗な黒髪ロングに整った目鼻立ち、すらっと伸びた手足、そしてスレンダーでありながら出るところが出ている体型。まさに完璧とも言える存在だろう。そんな彼女と俺はただ同じクラスだからという理由だけで、よく一緒にいるようになった。もちろん最初はお互いに緊張していたが、会話を重ねるにつれ段々と慣れていき今では普通に接することができるようになっていた。
ただ、なぜか分からないけど、彼女はいつも怒ってるように見えてしまうし、表情もあまり変わらないため、感情が全く読み取れないのだ。なのでどうしても少し近寄り難い雰囲気があるように感じてしまっていた。それに、彼女と仲良くなったきっかけは、偶然俺が落とした消しゴムを拾ってもらっただけだった。そのため、たまたま落としてしまった物を拾い上げてもらっただけなのに、いきなりお礼を言うというのもおかしい気がしてしまい、結局何も言わずに終わってしまった。それ以来ずっと声をかけることができないままなのだ。
まあこんなことをグダグダ考えてても意味は無いんだけどね……。とりあえず今は昼休みだし飯食うか! そう思い机の横にかけてあったバッグの中から弁当を取り出して食べようとした

この世界で根付く意識もなく

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