あおは毎朝決まった時間に起きトルテと朝食をとっていた
あお
トルテ〜! 今日のスープ、また美味しくなってた!
トルテ
……少し野草の配合を変えただけだ
あお
そーいうのがすごいって言ってんの!
トルテ
うるさい。口に物入れたまま喋るな
あお
えへへ、だって嬉しくってさ〜
ある日の午後。
トルテは保存食の確認をすると言って小屋の裏にまわっていた。
あおは1人、森の小道をのんびり歩いていた。
あお
ふわふわのしっぽ……また触りたいなぁ
あお
はぁ〜……でも、トルテ、ちょっとだけ笑うの増えたよね。……気のせい?
そんなことを呟きながら、小さな木の実を拾っていたとき――
蓮
――やぁ、こんにちは
あお
えっ?
あおが顔を上げると、そこには見知らぬ大人の男がいた。
穏やかな笑顔。柔らかそうな黒髪。
蓮
君……もしかして、この森で暮らしてるの?
あお
え、えと……はい
蓮
へぇ、こんなところに子どもがひとりって……ちょっとびっくりだよ。危なくない?
あお
え、あの……トルテが、一緒にいてくれるので……
蓮
トルテ、ね。……ふふ、そうか。あの子、まだ元気にしてるのか
あお
っ! トルテのこと、知ってるんですか!?
蓮
もちろん。昔からの“知り合い”さ
男は優しく微笑む。
蓮
ごめんね、名乗りもせずに。僕、蓮(れん)っていうんだ。よろしくね
あお
あっ、俺は…
その時だった。
トルテ
――あお
森の奥から、静かに足音を鳴らして、トルテが現れた。
その目は、いつになく鋭い。
トルテ
……何しに来た、蓮
蓮
おや。相変わらず歓迎されてないなぁ、僕
蓮
別に、何もしないさ。ただちょっと、その子と話しただけだよ
トルテ
……
あおは戸惑いながらも、トルテのそばにぴたっとくっついた。
あお
蓮さん……トルテと、仲悪いんですか?
蓮
そうなのかい、トルテ?僕は仲良くしたいんだけどなぁ
トルテはあおの前に出て、やや低く、静かな声で告げる。
トルテ
ここに用がないなら、森から出て行け
蓮
……冷たいなぁ。昔は、もう少し優しかったのに
トルテ
今はもう、そういう余裕はない
しばらく沈黙が流れた後、蓮はふっと笑った。
蓮
……じゃあ、また来るよ。今度はもっと穏やかにね
トルテ
来るな
蓮
またね、あおくん
あお
……え、あっ、はい……
蓮は背を向け、森の奥へと消えていった。
あお
トルテ……
あお
怖い人なの? 蓮さんって
トルテ
……いいか、あお。あいつが何を言おうと、“信じるな”
あお
えっ……
トルテ
それだけは……忘れるな
その夜、トルテはしばらく黙ったまま、 いつもより少しだけ、あおの側にいる時間が長かった。