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夜の王城は静かだった。

カタリナとの楽しい時間を過ごした後、莉犬は一人で中庭を歩いていた。月の光が白い石畳を照らし、夜風が心地よく頬を撫でる。

莉犬

……兄さん、今何してるのかな

ぽつりと呟くと、どこからか足音が聞こえた。

ななもり

俺を呼んだか?

莉犬

っ!

驚いて振り向くと、そこにはななもりが立っていた。整った顔立ちに王族らしい気品を纏った佇まい。第一王子としての風格は、やはり並の者ではない。

莉犬

な、ななもり兄さん……

ななもり

こんな時間に一人で何してるんだ?

莉犬

……ただ、少し考え事を

ななもりは莉犬をじっと見つめる。 その視線がどこか鋭く感じられ、莉犬は少しだけ視線を逸らした。

ななもり

考え事?お前が?

莉犬

……俺だって、考えるときくらいあるよ

莉犬がむくれるように言うと、ななもりは少し微笑んだ。

ななもり

それで?俺に話したいことがあるんじゃないのか?

莉犬

っ……

莉犬は、無意識のうちに拳を握りしめていた。

莉犬

(兄さんは、やっぱり全部分かってるんだ)

小さい頃からそうだった。 莉犬が何かを考えていると、ななもりはすぐに気付いた。だけど、いつも深く踏み込んではくれなかった。

それがもどかしくてーー寂しくてーー仕方なかった。

莉犬

……兄さんは、俺のことをどう思ってる?

莉犬は意を決して問いかけた。

ななもり

どう、とは?

莉犬

……ただの弟として?それとも、第二王子として?

ななもりはしばらく黙っていた。

月明かりの下、2人の間に静寂が流れる。

ななもり

……お前は、俺の大事な弟だよ

莉犬

……っ

ななもり

でも、それだけじゃない。お前は王族の一員だ。俺の跡を継ぐことはないが、それでも、お前の行動が国に影響を与えることもある。

莉犬

……だから?

莉犬の声が、少し震えた。

ななもり

だから、俺はお前に”自由”ばかり与えるわけにはいかないんだ

ななもりの言葉は冷静だった。 優しさも含んでいるはずなのに、莉犬の心には冷たく響いた。

莉犬

俺は……兄さんと、もっと話したかっただけなのに

ななもり

話すことなら、いくらでもできるさ

莉犬

違う!!そうじゃない!!

莉犬は思わず叫んでいた。

莉犬

兄さんは、いつも”王族としての俺”を見てるだけで……”俺自身”を見てくれない!

ななもりの紫の瞳が、少し揺れた。

莉犬

兄さんにとって、俺はただの”弟”じゃなくて”第二王子”でしかないんだろ!?

ななもり

……莉犬

莉犬

もういいよ。俺、もう兄さんに何かを期待するの、やめる

それだけ言い残し、莉犬はくるりと背を向けた。

ななもりは、それを止めなかった。

莉犬

はぁ……

莉犬は、自室のベッドに倒れこんだ。

莉犬

(俺、何やってんだろ……)

言いたいことを言って、勝手に怒って、兄さんを困らせて……結局、自分の気持ちは何も伝わってない。

莉犬

……馬鹿だなぁ、俺

そんな独り言を呟いた時ーー

ころん

バカなのは、知ってるよ

莉犬

……っ!?ころちゃん!?

突然、窓から顔を出したころんに莉犬は驚いた。

莉犬

な、何してんだよ!!ここ、王城の部屋だぞ!?侵入すんな!!

ころん

うっせぇ!心配だから来てやったんだろ!

莉犬

心配なんかいらねぇよ!

ころん

嘘つけ。思いっきり落ち込んでんじゃん

ころんはそう言いながら、ヒョイッと部屋の中に入ってきた。

ころん

……兄さんと、また喧嘩したのか?

莉犬

……まぁな

ころん

そっか

ころんはそれ以上は何も言わなかった。ただ、隣に腰を下ろす。

莉犬は少しだけほっとした。ころんはななもりのように厳しくもないし、るぅとのように説教もしない。ただそばにいるだけ。

それが、今の莉犬には救いだった。

莉犬

……今日は泊っていけよ

ころん

は?なんで?

莉犬

……いいから

ころん

お前、本当は寂しいんだろ?

莉犬

……うるさい

莉犬はそっぽを向いたが、ころんはクスクスと笑っていた。

夜の王城の静けさの中、2人の時間が穏やかに流れていった。

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