食卓には、東條特製のあたたかい家庭料理
ご飯と味噌汁、焼き魚に副菜──丁寧な仕事が施された品々が並んでいた
椅子に座る4人
賑やかに話しているのは高峰と東條だけ
朔弥と玖堂徹は、一言も発さず、黙々と箸を動かしていた
東條 絢斗
高峰理人
高峰理人
東條 絢斗
そんな他愛もないやりとりの背後で、朔弥はちら、と徹の横顔を盗み見る
柊 朔弥
喉の奥がひりつく
心臓がうるさく鳴る
深呼吸をひとつ
勇気をかき集め、震える声で言葉を紡ぐ
柊 朔弥
小さな声に、箸の音が止まる
玖堂 徹
徹が、静かに顔を向けた
柊 朔弥
言葉が詰まりながらも、必死に声を続ける
柊 朔弥
声は細く弱いけれど、確かに“感謝”の気持ちはそこにあった
徹は朔弥を一瞬だけ見つめ
──視線を戻し、低く短く答える
玖堂 徹
それだけ
ぶっきらぼうで照れ隠しのように短い返答
でも、わずかに耳が赤い気がするのは、たぶん気のせいじゃない
東條 絢斗
高峰が箸を止めて東條に小声で言う
高峰理人
高峰理人
東條は口元を手で押さえながら、くすっと笑う
東條 絢斗
東條 絢斗
高峰理人
高峰が呆れたようにため息を吐く中、朔弥は自分の器に視線を戻す
胸の奥が、ぽっとあたたかくなったような気がした
──たった一言の「ありがとう」に、たった一言の「……あぁ」
その短いやり取りは、確かに2人の最初の“会話”になった