__それが彼女との出会いでした。
なんてよくある序章の結びだけど、
ロマンチックに語れる程のもの
僕らにはない。
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「好き…」
「愛してる…」
「へ?」
「…とか言えば良かった?ピークの前」
「いや、どういう感じで言うのそれ」
「いやー、
うちサービス精神とか持ち合わせてないけど
そうゆうのがいいんでしょ?男って。」
「んー…
ちょっと言ってみようか」
「いや、好きでもないのに言わない」
「おー言わないのかい」
「言えばいい?」
「いや…
好きな子に言われるそれとは違うから…」
「そうか」
そう言いながら、
下着に躰をフィットさせるため
前屈みになる時には必ず
僕は彼女から目をそらす。
前に言われたからだ、
ちょっとあっち向いててよ、って。
小さくも大きくもない躰を下着に寄せ入れる
その姿は、
恥ずべきことは一切ない
美しい背中だ。
でも彼女にはそれが恥ずかしいことらしい。
さっきまであんなに醜態を晒しておいて
何を今更…
と思うが彼女が嫌なことはしない。
いつも僕は彼女が嫌なことはしないだけだ。
そんな僕と彼女だからか続いてきた。
僕は思うし、
だからこそ始まりもなければ終わりも…
どうしたら終わるんだろ?
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七緒
休日は午後起きる。
解除し忘れたアラームを
何度か止めて寝尽くす。
たまった洗濯物を回したが、
洗濯機の中で生臭くなるのを待っている。
起きてからなんとなく開いたアプリで、
好みの女の子のアイコンをクリックしては
テンプレをコピペする。
今日は20通は送れる。
男の26歳なんて焦る歳でもないし、
現に僕は焦ってはない。
彼女は欲しい。
でも出会いなんてない。
数少ない友人との飲みの席で
焦るよなー焦る焦る!
のとりあえず話に乗って
友人(彼女持ち)紹介のアプリを
インストールしただけ。
インストールを勧めた友人に言われて
写りがそこそこの写真を探し、
プロフィールに設定してもらっただけ。
男は月額会員で980円くらい取られるが、
無料期間のサービスを受けて
お試しでならと
メッセージを送ってただけ。
ようするに暇なのだ。
けいこ
みゃお(*бωб)
鈴
リク
15、16送ってまぁまぁ返ってきたほうか。
メッセージ送ってゲームして
ウトウトしていたら夕方だから…
4時間くらい経ってこの収穫。
実家の老婆猫がいい釣具になるらしい。
顔がほぼ老婆猫で隠れたそこそこの写真は、
見る人が見ると
「喋りやすそう」
「いい人そう」
となるらしいのだ。
「えっと…続きを読むには…
課金しなきゃいけないのか…」
「飯…は…うん2人奢れと。」
「…………」
「いきなり家って」
七緒
いきなり家とはけしからん…とは言わない。
ただ、
この子がアイコンとは別に
プロフィールに設定している写真…
猫は好きだ。
老婆猫だって、
拾ってくださいとヨタヨタ寄ってきたのを
まだ学生の僕が何の考えもなしに連れ帰り
綺麗にしてやった。
この子の写真には、
老婆猫とよく似た種類の猫を抱きしめ眠る
裸体の少女がいる。
___彼女がいたことはある。
短大卒業だったその人。
その学歴には似つかわしくない
大手メーカーの受付嬢という
その肩書きを持ってして、
どこかで引っ掛けてきた(恐らく)既婚者と
夢を追いかけて落ちていったのが
数年前の話。
都会の学生の通過儀礼のごとく、
引っ張られて参加した合コンで
彼女はそこそこ可愛い人として
目に付いた。
互いに地方出身とあってか
人の良さが全面に出るその人と、
変にチャラついてはいない僕とでは
安心感があった。
3年以上は一緒にいたはずだが
家族付き合いはなく、
ただただ彼氏彼女として
最低限の時間を重ねた。
最低の別れ…ということもなく
男と腕を組むそれを見掛けた後から
連絡を取っていない。
唯一の修羅場は、
卒論発表前日の夜に彼女の語る
"夢"を聞きながら寝落ちた後のこと。
うっかりアラームをかけ忘れ、
発表時間ギリギリに会場にたどり着いた為に
教授らからの責めを受けながら
「今日誕生日なんだけどな…」と。
それを修羅場と呼べるのだから、
いつまでも平和な僕ちゃんなのだ。
鈴
どういうつもりなのだろう。
優良会員につけられるマークのあるアイコン
プロフィールの写真の少女は
一糸まとわぬとわかるのに
いやらしさはない。
抱きしめた毛玉とかなり光量強めの加工で
美しい絵画のようではある。
いきなり家とは…。
七緒
疑問文に疑問文で返すのは、
こなれた感も
童貞感も出さない
丁度いいチョイスだと思ってる。
どうゆうつもりなの!とか、
欲情している男をもろに出したところで、
きっと返事はなくなると
なんとなくわかるのだ。
しかし
鈴
何を?である。
僕は、会話が苦手だ。
あーとかうんとか相づちを打つにも、
興味を持っています、
と示す言葉を探すのにも疲れる。
返事に悩む。
こう返したら相手はどう感じるか、
次はどうゆう流れがくるかと考えながら
打っては消す時間が疲れる。
鈴
知ってる。
あの老婆猫に名前を付けたのは
僕なのだから。
鈴
寝ても…?
鈴
鈴
無料期間の会員にも
1日の制限数超えてからは
課金でのメッセージが認められている。
しかしそのメッセージも、
5を超えてくると
[有料会員になりませんか?有料会員なら月々…(続きを読む)]
とメッセージがくるようになる。
それから画像。
続きを読むよりも
倍近くはかかるそのシステムに
ケチケチするわけじゃないが、
僕は画像を開かなかった。
七緒
休日が終わるのにはまだ
1日と数時間もある。
その間の暇を潰すのには、
相手がどんなであろうが
手っ取り早くて疲れないのが1番なのだ。
鈴
この場合のお茶とは、
そこのお姉さんちょっとお茶しませんか?
という事ではないのだが
僕はこの絵画の人から来るメッセージに
返信するため、
期待を込めて課金をした。
___人生リセマラは出来ない。
(続きを読む?)
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