氷室健人
こうして三者面談なのに私の意見も聞くまもなく面談がスタートした。
氷室健人
咲野明日香
氷室健人
咲野明日香
咲野明日香
氷室健人
咲野明日香
咲野明日香
あぁ思い出した。
うちの母親はすぐこれだ。
普通の母親は「保健室登校」と聞いたら何か事情があると思って「大丈夫?」とか聞いてくるだろう。
でもこのクソ野郎は、私に何も聞かず、なんの事情があったかも聞かず、保健室登校を「悪いもの」と勝手に決めつけて勝手に怒鳴る。
私はこれに何度苦しめられたか。
先生らには分からないだろう。
だからこうやってノコノコと母親を呼べるんだろ。
今日まで頑張って前に進もうと思ってたのに
こいつらのせいでまた手が震えてきた。
氷室健人
「大事」?どこがだよ。
教師っていう職業は結局自分の生徒の事情なんて他人事なんだろ
だから言いたくなかったんだ
咲野明日香
氷室健人
咲野明日香
咲野明日香
反抗期?
そんなものじゃねぇよ
なんで先生もうちの親がクソって分からねぇの?
なんで私の苦しみを反抗期で片付けんだよ
氷室健人
氷室健人
咲野明日香
咲野明日香
咲野明日香
咲野明日香
咲野明日香
なんで努力してるのに、勉強してるのに
「頑張ったね」の一言くらいくれてもよくない?
学年で2位はすごい事じゃないの?
なんで昔みたいに褒めてくれないの?
私はいらない子なの?
今までお母さんのために頑張ってきたよ
疲れたからちょっと休んでただけなのに
なんでそんなに言われなきゃいけないの
顔が固くなり、否定する声も出なくなった。
「保健室登校」って悪いことなのかな?
あいつのおかげで前に進もうとしたのに
そんなこと言われたら
また胸が苦しくなるよ
氷室健人
咲野明日香
咲野明日香
その言葉に体が震え出した。
これから家に帰って怒られることを想像すると呼吸が荒くなる。
氷室健人
咲野藍
ようやく声を出すことが出来た…
氷室健人
その言葉を聞いた瞬間
もう私に味方は居ないんだと感じた。
どいつもこいつも笑顔を張りつけてるだけで
その心の中にはあの頃のクラスメイトと同じように
ドス黒い感情が眠っているんだ。
わたしは…もう…
いらない子なんだ―
成瀬春樹
咲野藍
この場にいる3人全員があいつを見た。
成瀬春樹
あいつを認識したのもつかの間
大声でそんなに言葉を言うもんだから
私の肩の力が少し抜けた。
それは美術室に行く階段での出来事だった。
僕は先輩の所へ行くため急いでいた。
成瀬春樹
この学校に来てから速くてもう一年も経ち
この学校の構造もほとんど覚えていた。
成瀬春樹
その時だった。
聞き覚えがない声がした。
咲野明日香
咲野明日香
咲野明日香
咲野明日香
誰だこの声は?
「三者面談」と言っていたから多分先輩のお母さんだろう。
となると「この子」というのは先輩のことか?
僕は文脈を理解した瞬間
腸が煮え切るようだった。
先輩が失敗作?
そんなわけないだろ
確かに気持ちの伝え方は不器用だけど
確かにいつまで経ってもツンデレだけど!
僕の中では先輩は誰よりも完璧な存在なんだ…!
それを「失敗作」?
僕は会ったこともない先輩のお母さんに嫌悪感を抱いて階段を降りていた。
いやいや、その前に自分の娘を失敗作呼ばわりはないだろ
氷室健人
しかもなんで先生は何も言わねーんだよ!
「そんなに強く言わなくてもいいんじゃないですか?」ぐらい言うだろ普通!
咲野明日香
咲野明日香
家で言い聞かせるとか怖すぎだろ…
というかあの先輩が全然話していない。
それだけ苦しいんだろう。
氷室健人
咲野藍
やっと聞けた先輩の声は僕が聞いたことないくらい弱々しい声だった。
氷室健人
いいお母さん?
先生正気か?
僕は最後の段をやっと降り美術室の扉を豪快に開けた。
その場の空気とか知るか
僕は先輩が心配なんだ
成瀬春樹
咲野藍
先輩の顔を見ると今までにないくらい暗い顔をしていた。
そして僕は大声で今1番言いたいことを叫んだ。
成瀬春樹
お母さんの言葉の中で1番ムカついた言葉だ。
成瀬春樹
その言葉を聞いた瞬間肩の力が少し抜けた。
咲野藍
咲野明日香
氷室健人
咲野藍
ていうかこいつ空気読めよ!
絶対に今じゃないだろ!
成瀬春樹
成瀬春樹
咲野明日香
氷室健人
彼氏?
何言ってんだこいつは…
今それ言う?
成瀬春樹
咲野明日香
成瀬春樹
咲野明日香
成瀬春樹
成瀬春樹
……
は?
よく見るとお母さんも固まっている。
そりゃそうだ。
三者面談してたらいきなり彼氏になる予定とか言ってる変なやつが自分に「馬鹿」とか言ってきたんだ。
お前の方が馬鹿だよ。
成瀬春樹
ぶっ殺してやろうか?
成瀬春樹
成瀬春樹
…っ。
何言ってんだよこいつ急にっ…。
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
咲野明日香
咲野明日香
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
早口で言う言葉に私は泣くことしかできなかった。
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
成瀬春樹
私が言いたかった言葉を言って憎いと思った。
それと同時に「ありがとう」とも思った。
咲野藍
成瀬春樹
成瀬春樹
咲野藍
こいつはこんなとこ出ようと言わんばかりに手を差し出してきた。
はぁ…私は馬鹿だなぁ。
春から今までずっとこいつに振り回されてきて
前はこいつのことが嫌いだったはずなのに
手を取ってしまうんだから
咲野藍
成瀬春樹
最初に、私の心配をしてきた。
どんだけお人好しなんだこいつは。
咲野藍
成瀬春樹
咲野藍
成瀬春樹
こいつは春から今まで私のことをずっと好きでいてくれたんだ。
今度は…
私の番だ。
咲野藍
成瀬春樹
私は涙をふいて言った。
咲野藍
成瀬春樹
咲野藍
咲野藍
私は今気づいた。
成瀬春樹
成瀬春樹
咲野藍
こいつの事が好きで好きでたまらなかったんだ。
成瀬春樹
咲野藍
さりげなく名前を呼んだ。
成瀬春樹
咲野藍
成瀬春樹
咲野藍
成瀬春樹
咲野藍
成瀬春樹
あぁ…
あの屋上の時か…
「お前名前で読んだら殺すかんな?」
そっか…
ずっと守ってくれてたのか…
咲野藍
成瀬春樹
成瀬春樹
咲野藍
成瀬春樹
それは雪がふり吐いた息も白くなる12月のことだった。