1ヵ月前、私は彼氏を交通事故で亡くした。それ以来、私の頭の中は、「虚無感」に襲われ続けた。そんなある日…
マスター
希梨さん、もう6杯目ですよ?体に悪いですから…ね?

希梨
いーいーのー!お酒呑んでないと思い出しちゃうもん…

希梨
もうこの世に居ないことくらい分かってるわよ。

希梨
結局私は、現実逃避してるだけなのよ。はぁー…。

マスター
今は立ち直れなくても大丈夫です。

マスター
でも、彼のことをお酒頼りにして忘れようとするのはいけません。

希梨
そうね…マスター、6杯目はまた今度にするわ。

マスター
はい、かしこまりました

希梨
さてと。散歩でもして、酔いを冷ましましょうかね…

さっきまで居た喫茶店の灯り以外には街灯の光くらいしかない。そこそこの田舎だから仕方ない。
希梨
よし、街灯のある道を通って帰りましょう

希梨
…ああ、懐かしいなぁ、ここの駄菓子屋まだあったんだ

希梨
古書店も残ってる!今度ゆっくり観に来ようっと…。

希梨
…ん?冷たい!

どうやら雪が降ってきたようだ。肩に白いものがついては溶けてゆく。
希梨
しょうがない、彼の想い出巡りはまた今度にして…

マスター
希梨さんっ!はぁっ、はぁっ…!

希梨
マスター!?どうしたの、そんなに息を切らせて…。

マスター
外が白っぽくなってきていたのでもしかしたらと思って…。

希梨
それで追いかけて来てくれたの?…馬鹿じゃない?

希梨
そんな事したら、勘違いしちゃうでしょ…。

マスター
勘違いじゃありません!

希梨
えっ?

マスター
僕、希梨さんのことずっと気になっていたんです。

マスター
彼氏の話をし始めた時は嬉しくもあり悲しくもありました、それは…!

マスター
僕が、貴方に特別な感情を持っていたから!

希梨
でも私、彼が居ないといつも心苦しくて辛くて…

希梨
そんな過去を引きずって生きてる女なんて…

マスター
それでもいい、僕は貴方が好き、なんです!

マスター
僕と付き合ってくれませんか、希梨さん?

希梨
彼以上はいないと思ってる…私、期待していいの?

希梨
ねえ、マスター。この虚無感を拭ってくれるの?

マスター
もちろん、約束します!

マスター
僕で頭をいっぱいにして虚無を幸せに変えることを。
