トーマス
さっきの話だけど

トーマス
ジーナが22年前に本当はなにがあったのか

トーマス
分かっていないって本当か?

ヴィクター

ヴィクター
本当をいうと確信を持ってるわけじゃない

ヴィクター
ただなにかしら知ってるはずだとは思ってるんだ

トーマス
何故?

ヴィクター
彼女の目さ

トーマス
目?

ヴィクター
長年の刑事の勘だが

ヴィクター
彼女の目には警察に対する非難の色がこもってた気がする

トーマス
要するに「自殺じゃない」と、目で訴えてたのか

ヴィクター
そんな気がしてね

ヴィクター
ただ、それが事実と知っているからなのか

ヴィクター
殺されたと信じたくない心理によるものなのかは

ヴィクター
流石に俺も分からん

悩ましげに語りながら、2人はある大きな豪邸に足を運んだ。
豪邸の主、キャサリン・オマーは快々として2人を招じ入れた。
来訪理由を告げても笑顔のキャサリンに、ヴィクターとトーマスは当惑した顔を見合わせた。
刑事の来訪に笑顔を向ける人間など考えもしなかったからだ。
ヴィクター
随分御機嫌がよろしいようですね

キャサリン
別に~

キャサリン
私ってスリルを感じるのが好きな性分なのよ

キャサリン
ある日突然、警察の人が家に来るじゃない?

キャサリン
もう私、それだけでなにかが始まりそうな気がして(笑)

キャサリン
…あぁ、よかったらワインでもいかがかしら?

キャサリン
ウチね、地下にワインセラーがあって上物を――

ヴィクター
職務中ですので遠慮しておきましょう(笑)

キャサリン
つまんないな~

キャサリン
仕方ないか、私だけ飲ませてもらうわ

鼻歌を歌いながら席を外したキャサリンの後ろ姿を見ていたトーマスが、不安気な面持ちでヴィクターを見た。
トーマス
これは無駄骨になるんじゃないかな

ヴィクター
どうしてそう思う?

トーマス
とても22年前のことを思い出してくれるようには…

ヴィクター
聞くだけ聞いてみよう

ヴィクター
彼女も一応、エレノアとダンスを習ってたんだからな

キャサリン

キャサリン
お待たせ~

キャサリンは静かにワインをグラスに注ぐと、味わうようにゆっくりと口に運んだ。
キャサリン
うん、美味い

キャサリン
で、刑事さんはどんな面白い話をしてくれるのかしら?

隣で髪をかく相棒に苦笑いを浮かべてからヴィクターは口を開いた。
まず、キャサリンが22年前の「ローズ」の生徒だったことをジーナから聞いたこと。
エレノアと交流のあった当時の生徒たちがここ最近、立て続けに誘拐され殺害されていること。
現場に被害者の腕と一輪の薔薇という異常な環境を遺す犯人のこと。
キャサリン
なるほどね~

キャサリン
で、刑事さんはあれが自殺かどうか疑ってるの?

ヴィクター
半々といったところです

キャサリン

キャサリン
あれは自殺よ

キャサリン
私見たもの

ヴィクター
見たといいますと?

キャサリン
エレノアが3階の窓から飛び出した瞬間

トーマス
確かですか?

キャサリン
ええ、ホント

キャサリン
私たちは絶句してたけど1人は違ったわ

ヴィクター
誰です?

キャサリン
マックスよ

ヴィクター

ヴィクター
エレノアさんと友達だった男子生徒ですね

キャサリン
厳密には恋人関係かな

キャサリン
2人とも結構上手くいってたしね

キャサリン
そのマックスがあの時は凄かったのよ

キャサリン
彼は「エレノアは自殺したんじゃない」

キャサリン
「君たちが彼女を精神的に追い詰めた」

キャサリン
「だから堪え兼ねて窓から落ちたんだ!」とね

ヴィクター
なるほど

キャサリン
私たちからしたら言い掛かりもいいところよ

キャサリン
私たちはエレノアを慕っていたんだから

キャサリン
結局、私たちが言い負かせたら黙っちゃったわ

ヴィクター
アンダーソンさんが他殺を疑ってたことはありませんでしたか?

キャサリン
どうかしら?

キャサリン
あの騒動以後、皆バラバラになっちゃったし

キャサリン
けど、彼のエレノアに対する想いは強かったから

キャサリン
多分未だに自殺には納得してないでしょうね

ヴィクター
(マックス・アンダーソンからも話を聞いてみる必要があるな…)

キャサリン
もう終わりかしら?

ヴィクター
最後に薔薇のことで心当たりがあれば教えて下さい

ヴィクター
どんな意図で遺したのかが解せなくて困っていますのでね

キャサリン
知りたい?

ヴィクター
是非

キャサリン

キャサリン
私も知りませ~ん(笑)

子供っぽい笑みで間の抜けた声を発せられてヴィクターは拍子抜けし、トーマスはただ苦笑するしかなかった。
キャサリン
ごめんなさいね、力になれなくて

トーマス
いえいえ、全然

トーマスの眉がピクピク動くのを気にすることなくキャサリンはワインを喉に流した。
ヴィクター
ワインがお好きなんですね

キャサリン
ふふん

キャサリン
ワインは飲むのも観賞するのも醍醐味なのよ

ヴィクター
見るのもですか?

キャサリン
ワインセラーにはほぼ毎日降りていくの

キャサリン
棚に納まった膨大な数のワインを見ながら時間を過ごすのも

キャサリン
私は好きなんだ

ヴィクター

ヴィクター
そろそろ失礼しますが最後に一言だけ

キャサリン
?

ヴィクター
今度の犯人は異常な連続殺人犯です

ヴィクター
被害者たちが仲間である以上、あなたも狙われるリスクは高い

ヴィクター
私の携帯番号を教えておくので

ヴィクター
なにかありましたらすぐに私に連絡をするようお願いします

キャサリン
えぇ、ヤダ!

キャサリン
刑事さんの携帯番号知っちゃった!

ヴィクター
といって無闇に電話をするのだけは勘弁願いますよ(笑)
