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私はヒーローを、"自分の正義を誰よりも大きく叫ぶもの"と定義しています。喩え力が乏しくても。喩え美徳に欠けていても。
私はスーパーヒーローになってみたかった。
この世の正義を担う、主人公に足る人物に。
しかし理想と現実とは全く互換性がないものであった。
私をこの上なく愛してくれる両親も、
幼い頃にみた美しい世界の光景も、
私をヒーローへ昇格させる材料にはならなかったのだ。
何かを助けたい。
何かを救いたい。
その為に何かをやっつけたい。
しかし私を求めるものはいない。
それはヒーローとはいえない。
私は何も出来ない。
私は現実に生きることが出来ない。
私が企てた善行は
既に誰かがやっている。
私が成し遂げられた善行は
必ず誰かが無駄といった。
だから私は何も出来なくなった。
どうしようもなかった。
首を絞めた。
艶子
咳が漏れる。
私は更に力を込めた。
艶子
次第に咳には濁音が混ざりこみ出す。
更に力を込めた。
艶子
気管の奥から何かが焦げたような匂いが漂う。
それを堪能するとともに、私は地にへたりこんだ。
気が抜ける。風船が割れたように。
飛ばない意識を抱いて、私は無意識に沈んで行った。
全身に血液が流れるのを感じる。
私はファンタジックな思い出に囚われた。
誰も助けてはくれない。
誰も助けてはくれない。
だって私には味方がいないから。
正義のヒーローなんてこの世にいない。
正義のヒーローは私の味方ではない。
私が正しくないからだ。
私はヒーローじゃない。
私はヒーローになりたい人だった。
それ以外のなんでもなかった。
そもそも私はなぜヒーローになりたい?
誰かに認められたいのだろうか。
感謝されたいのだろうか。
死にたくないのだろうか。
優しくなりたいのだろうか。
いや、正しくなりたかったんだ。
私は正しくない。
だからヒーローには助けてもらえない。
どれだけ後悔しても
死にたいってくらい絶望しても
全てが努力不足だからだ。
私は自分の欠陥を誰かに補ってもらおうとする
乞食のようなものなんだ。
そんなものを、世はキチガイと呼ぶんだ。
それに対して
私は世間を頭が悪いと貶した。
他人を慮ることが出来ない不親切なものだと貶した。
私はヒーローじゃなかった。
現実が正しくなかったとしても
私は果たして正しいのか?
私の思想は決まって建設的なのか?
違う。ちがう。
そんなことはない。
私は世間との正しさの障害に
言い訳をしていただけだったんた。
今まで負ってきた傷を大義名分に
逃げ続けていただけだったんだ。
世間が私の排除に尽力することが現実に即さないのならば
私のように泥沼に漬かりながら
手が届く範囲にすら手を伸ばさないことも現実に即していないのだ。
直樹
私は彼女の言葉を繰り返した。
艶子
私を見つめる彼女の目は真っ直ぐで、
その言葉の本気さは相当なものだと伺える。
直樹
語尾を長ッタラシく伸ばして、私は思考する。
直樹
その一言はどうしても重く、
あまりに無責任だった。
しかし言葉は溜まった涙のように、
1粒溢れればまた1粒、また1粒と
足足に溢れてきた。
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
直樹
言い切ると同時に私は目を下に落とす。
私はヒーローですらないのに
正しさを語ることが許されるだろうか。