人形銀河の計画

擬似人格プログラムでありながら、疑似家族のように過ごす3年間。
それは彩斗にとってかけがえのない時間となった。
やがて、成長した熱斗は高校生になり、科学省長官の娘メイルと出会い、その思いは恋に変わった。
彩斗はそんな二人を見て、自分の役目が終わったと感じた。
だから、二人の前から姿を消した。二度と会わないつもりだった。
しかし、熱斗との別れ際に交わした約束だけは守れなかった―――。
（ああ、僕が死んだ後も君は生きていけるんだね。なら安心だよ。僕はもう、君と一緒にはいられないから・・・）
【主な登場人物】
◆桜井 祐樹/ブルース 本作の主人公。私立聖清学園中学2年生。
本編開始時点では13歳。身長150cm。
両親は共に海外出張中で一人暮らしをしている。
両親とは離れて暮らしているものの、愛情たっぷりに育てられたせいか、性格は極めて明るく素直かつ天然ボケ気味。
その反面、勉強やスポーツなどはあまり得意ではない模様。
また、ゲームやアニメなども大好きで、それらに対する知識もかなり豊富。
特にロールちゃんこと「光 熱斗」の大ファンでもある。

擬似人格プログラムの彩斗にとって、その願いこそが生きる全てとなっていた―――
******
***
【次回予告】
「お前のせいで彩斗は死んだんだ！ 許さんぞ！」
「お兄ちゃんが悪いんじゃないよ」
「ええい、黙れ！！ お前なんか俺の弟じゃない！！」
次回、ロックマンエグゼ5プロローグ「炎山vs光博士」
第4話「炎山の想い、光の叫び」
*この予告の内容は嘘予告になる可能性があります。
「お兄ちゃんのバカッ！！！ うわぁあああんっ！！！」
「ああっ！？ おい待て！！」
「……行っちゃいましたね」

擬似人格とはいえ、この世に自分が存在していられるだけで十分だと、彩斗は思っていた。
ただ一つだけ不満があったとすれば、それは自分の体を自由に動かす事ができないことだけだった。
せめて指先だけでも動かせればいいのだが。
「まぁ、仕方ないか」
そうつぶやくと彩斗は目を閉じて眠りについた。
明日からまた新しい一週間が始まる。

擬似人格プログラム作成の過程で、雄一郎は一人の少年と出会った。
炎山と名乗るその少年はかつて、天才的な頭脳を持つ少年だったが、現在は無気力で怠惰な性格になっていた。
そんな彼を立ち直らせたいと思った雄一郎は、彼にネットバトルの腕を教える事で、新たな目標を与えようとした。
その甲斐あってか、今では彼は立派なネットバトラーとなっていた。
「この子ならきっと、息子を支えてくれるはずだ」
雄一郎はそう確信した。
そして、運命の日が訪れた―――。
彩斗が暴走を始めたのだ。
原因は分からない。突然の事だった。
必死になって食い止めようとする雄一郎。
だが、彩斗を止める事は出来なかった。
「俺は……お前を守る為に……ッ！」
薄れゆく意識の中、雄一郎は最後にこう言った。
「俺達の夢を守ってくれ……！頼むぞ……光祐太郎……！！」
それが、彼の最期の言葉となった。
◆
「―――――

擬似人格プログラムに過ぎない自分の存在を、彩斗は誇りに思っていた。
しかし、そんな思いとは裏腹に事態は急速に悪化していった。
ある日の事。学校から帰宅した彩斗は、自分の部屋に入るなり驚いた声を上げた。
机の上には、見たことの無いノートパソコンが置かれていたからだ。
誰かが家に侵入して勝手に置いていったのか？いや違う。家のセキュリティーシステムは正常だ。
それにパソコンなら家に置いてあったはずだ。一体これは何なんだ？ 彩斗の質問に対し、雄一郎は簡潔かつ明快に答えた。「それは君の身体だよ」と。
彩斗は自分の姿を見下ろしてみる。そこには見慣れた自分の肉体があった。
手を伸ばしてみると、確かに触れる事が出来た。感触もある。
だがどうしてこんな事に？彩斗は再び疑問を口にした。その問いに対して、雄一郎はまた淡々と答えた。
君はもう死んでいるんだよ、彩斗君。
交通事故にあったんだろう？覚えていないかい？ 雄一郎の言葉を聞いて、彩斗は全てを思い出した。そういえばあの日、僕は車に轢かれたんだった。
意識を失って、気が付いたらここに居たのか。ここはどこなんですか、お父さん。
彩斗の

擬似人格プログラムの開発は成功した。これで彩斗の存在は世間から秘匿された。
そうして時は流れ、彩斗は大人になった。もうすぐ自分も寿命を迎える事になる。
だから、その前に一度だけでも会いたい。自分の記憶にある熱斗の姿をこの瞳に収めておきたい。
彩斗は自分の意思で現実への干渉を始めた。
熱斗に会いたいという気持ちが抑えられなかったからだ。
最初は些細な行動だったが、次第にそれはエスカレートしていった。
ある日、彩斗はついに熱斗の部屋に侵入する

擬似人格プログラムとなった彩斗は、自分の存在を隠したまま、いつまでもこの幸せな時間が続くと信じていた―――。

***
PETから発生した光に包まれて、僕は意識を取り戻した。ここはどこなんだろう？ 辺りを見回すと、そこはまるで遊園地みたいな場所だった。でも遊園地にしては少し暗い雰囲気だ。それに誰もいない。何より不気味さを感じるのはその風景だった。周りにあるアトラクションらしきものは錆びていて今にも崩れそうになっているものばかりだった。
「なんだこれ？ 本当にここがネットナビ開発研究所なのか？」
「ああ、そうさ。ほれ、このカードキーを使えば入れるぞ」
炎山とブルースは受付の女性から受け取ったカードをスキャンして、扉を開ける。
電子ロック式の自動ドアの奥には広い空間が広がっていた。
壁際には様々な機械が置かれており、その中央にはカプセル型の装置が設置されている。
「あれが、オレ達の求めていたものだ！」
ブルースは一目散に駆け寄り、カプセル型装置に触れる。
『認証完了』という音声と共に、画面が表示された。そこにはこう書かれている。
『登録者名：伊集院炎山』『登録者コード：XX

擬似人格プログラムの完成から20年あまりの月日が流れた頃、光博士の元に一通の手紙が届いた。差出人の名前は書かれていない。
手紙の内容は驚くべき内容であった。自分の息子・彩斗が死んだというものだった。
交通事故に遭い、病院に収容されたが間もなく死亡が確認されたと言う。
一体誰がそんな嘘をつくのか。怒りを覚えながらも、真相を確かめるべく研究所に向かった光博士の目に飛び込んできたものは、かつての面影を失った研究所の残骸だけであった。
研究員の姿は無く、建物の中には誰もいない。
嫌な予感がした。
慌てて自宅に戻った光博士を迎えたのは、変わり果てた妻の美佐江の姿だった。
美佐江は夫の顔を見るなり泣き崩れ、嗚咽交じりに言葉を紡ぎ出した。
「おとうさん・・・・・。ごめんなさい。わたしのせいです。わたしがあの子を・・・彩斗を殺してしまったんです！！」
美佐江の話によると、彼女は重度のノイローゼを患っていたという。
その病魔は徐々に精神を犯していき、ついには彩斗への虐待という形で噴出してしまったのだという。
「ごめんね・・・本当にゴメンネェ！彩斗ォ！！でも仕方が無かったのよぉ！」
泣き叫ぶ美佐江を前にして、光博士は言葉が出なかった