夫宛に届いた紙袋を目の前に、しおりは立ち尽くしていた。
しおり
なんだろ?これ。
しおり
たかしさんのだし、置いといていいよね。
台所に立ち、夕飯の支度を始める。
午後7時、たかしが帰ってくる。
たかし
荷物、届いてた?
しおり
おかえりなさい。届いてるよ。ソファーの上に置いてる。
たかし
開けた?
しおり
開けないよ。たかしさん宛に届いてるし。
たかし
そうか。
しおり
何か、頼んだの?
たかし
いや、人に頼まれたんだ。
しおり
そっか。
たかしの様子が何となくおかしいことに気が付いた。
しおり
仕事で何かあった?
たかし
ん?いや、なにも。
しおり
ふーん。
たかし
どうしたの?
しおり
なんか、いつもと違うなって思っただけ。
たかし
いつもと違うって?
しおり
そわそわしてるっていうか、慌ててるっていうか…
たかし
そんなことないよ。
しおり
そう?
たかし
後であの届いた袋、頼まれた人に持って行く。
しおり
はぁい。
夕飯を食べ終わり、たかしは届いた紙袋を片手に家を出た。
約三時間が経過した頃、たかしは戻ってきた。
しおり
おかえりなさい。
たかし
…あぁ。
しおり
?
たかしはその場に青い顔で立ち尽くしている。
しおり
どうしたの?
しおり
たかしさん!?
たかし
持っていかれた…
しおり
持っていかれた?なにを?
たかし
…店の売上、全部。
しおり
店?どこの?
たかし
たかし
しおりには話してなかったんだけど、実はさ、デリヘルを手伝ってたんだ、俺。
しおり
デリヘル?
たかし
半年前に会社を辞めて、デリヘルで運転手やってた。
しおり
運転手…
たかし
中山っていただろ?あいつが店長してるデリヘルに女入れて、紹介料もらったりしてた。
しおり
その中山さんって人が持ち逃げしちゃったってこと?
たかし
そうみたいだ。連絡つかないし。店の子と一緒に逃げたんだと思う…
何がなんだかわからないしおりは、頭の中を整理しようとしていた。
しおり
その、届いた紙袋は中山さんのもの?
たかし
あれは、俺の荷物。
しおり
たかしさんの?
たかし
俺、もう一回探してくる!
たかしは勢いよく家を出る。
しおり
ちょっと、たかしさん!!
たかしを追いかけ、玄関まで来たが、足元に白い紙を見つける。
開いてみると、手紙らしい文字がならんでいた。
女の字ということは、見た瞬間にわかった。
手紙
たかしさんへ
手紙
一年間、ありがとう。
あなたという思い出と共に、私は消えます。
奥さんを大切にね。
あなたという思い出と共に、私は消えます。
奥さんを大切にね。
手紙
私は、もう誰も好きにならないと思う。
手紙
愛してる。だから、苦しくて仕方ないの。
手紙
こんな弱い私を、許してください。
手紙
あなたのことは、一生忘れません。
手紙
佳菜子
玄関の片隅には、たかしが持って行ったはずの紙袋が置かれていた。
しおりはそれに手をのばす。
しおり
しおり
きっと、仕事のものよね。
紙袋の中身を確かめようとしたが、怖くてできなかった。