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翌日

アキト

くっそ、思い出しただけで腹が立つ……!

アキト

泥井のやつ、逃げたりしてねぇだろうな……!

不良仲間1

アッキーがこえーからって不登校になったりして

不良仲間2

ありそー!

ゲラゲラと笑う声に反し、アキトはあくまでも不機嫌だ

しかしその吊り上がった目も、次の瞬間、丸く見開くことになる

アキトたちの進行方向に、長身の少女が立つ

別の学校の制服で、絡むことなく流れる長髪と膝丈のスカート

そして胸元が覗けそうな開襟シャツが視線を集めた

???

あの、少し……いいですか?

頬を染め、もじもじと話す口ぶり

さらに緊張で上擦ったような声色に、三人は予期せぬ告白を察知したらしい

気忙しい様子でシャツやズボンをそれとなく払う姿に

少女はまた、恥ずかしそうに口を開いた

???

あの、真ん中のあなただけ、ちょっと……

アキト

お、俺!?

目を合わせるのも恥ずかしいとばかりに顔を逸らす少女の仕草に

指名されたアキトはぴんと背筋を伸ばす

不良仲間1

なんだよアッキーかよ……

不良仲間2

……じゃ俺ら、先行くから

不良仲間1

サボんなよアッキー!

不良仲間2

サボったら、女とホテル行ったってバラすからなー!!

アキト

アホかっ!さっさと行けバーカ!!

囃し言葉を投げる仲間を追い払い、やがてアキトは気まずそうに少女を見た

アキト

ア、アイツらいっつもふざけてんだ

アキト

なんか言われても無視していいから

アキト

てか、なんだよ急に。俺だって忙しいのに……

???

ごめんなさい。ここじゃちょっと恥ずかしいから

明らかに動揺を誤魔化しているアキトの言葉を遮り

少女は消え入りそうな声とともに、アキトの袖をそっとつまむ

???

あそこで話して、いいですか?

示されたのは、通学路からわずかにそれた細い路地だ

中は薄暗く、当然ながら人通りもない

その状況にさえも浮き足だった様子で目を泳がせるアキトに

少女はわずかに距離をとり、うつむき気味にスカートを握りしめた

???

突然すぎて驚かれるかもしれないけど

???

毎朝、隣の車両から見てました

アキト

お……おう

???

付き合って、だなんて早すぎると思うから……

???

明日から一緒に電車に乗っても、いいですか?

それが精一杯だと言いたげに、少女は唇を噛んで返事を待つ

そんな健気な姿に、アキトはどこか、感動にも似た表情を見せた

アキト

それくらいなら全然……!

アキト

って言うか、正直、マジで嬉しい

アキト

俺がほら、ちょっと……派手だからかもしんないけど

アキト

積極的すぎる女の子が多くて

???

本当?そう言ってもらえたら、私も嬉しい

清純派好みを告白する気恥ずかしさから頬を朱に染めたアキトの手を

少女は嬉しそうに笑って、おずおずと握る

気恥ずかしそうに見つめ合い、照れ笑いとともに再び距離をとる

???

お時間とらせちゃってごめんなさい!

???

私もそろそろ学校に行かなきゃ……わわっ!

アキト

ちょ……っ!!

通学路に戻ろうとしたところで、緊張が解けた安心感からか少女の足がふらつく

それを慌てて引き寄せ、抱き止めたアキトは

彼女の髪から香る芳香にめまいがする思いだった

そんな中、少女はうっとりと口を開く

???

いい匂いがする……

???

香水とか、使ってるの?

アキト

それは君のほうで……!

アキト

俺は、全然……!

体勢が崩れたためか、少女の開襟シャツから谷間がちらりと見える

そこから慌てて視線を上へ逃がしたアキトの頬を、細い指先が撫でた

???

紳士なんだね

???

ドキドキしてるの、すごく、聞こえる

胸元にすり寄られる感覚に、アキトの目はさらに少女から反らされる

心臓の鼓動は呼吸を浅くし、酸素を取り込もうとまた鼓動を早めた

絵に描いたように純情なカップルの姿だ

しかし

???

でも

その瞬間、スマートフォンのフラッシュが迸った

アキト

……っ!?

???

喉、晒したね

少女の顔に、ゾッとするような笑みが浮かんだ

さらにはっきりと聞き覚えがある声に変貌した事実に、アキトは総毛立つ

アキト

その声、テメェ泥井……!

後ずさって距離を取り、驚愕に目を見開く

混乱しているアキトに、ジョーは満面の嘲笑を見せた

ジョー

一夜漬けの演技にしては天才的だったろ?

ジョー

おかげでほら、こんな面白い写真が撮れた

余裕の表情でウィッグを外し、スマートフォンの画面を見せつける

そこにははっきりと、喉を晒しているアキトが映っていた

アキト

そんなもん……!

アキト

ここで消せば済むんだよ!

ジョー

クラウドで同期してるから、これを壊してもダメだよ

ジョー

リアルタイムでネット上にアップロードされてる

ジョー

例えスマホを壊しても、画像は消えない

ジョー

しかし女装男相手にここまでハマるなんてね

ジョー

君の間抜けな喉、プリントアウトして学校中に貼り出そうか?

嘲笑に、アキトは立ち尽くす

その表情は隠せないほどの絶望だ

それがもたらす充足感に、ジョーはにんまりと笑む

ジョー

心配しないで、そんな酷いことしないよ

ジョー

ただ……

すれ違いざまに肩を叩き、耳元で囁く

ジョー

僕に【あごクイ】された事実は消えないってこと

ジョー

きちんと覚えておいてほしいだけだ

言い置いて、その場を去る

あとには不安とプレッシャーに押し潰されそうな、アキトだけが残されていた

ジョー

作戦成功

ジョー

【あごクイ】成立!

ジョー

……これで母さんにも面目が立つ

コンビニのトイレから作戦の成功を知らせるメッセージを送信し

緊張の糸が切れたように座り込む

女装姿で家を出る際の母親の驚愕した顔を思い返し、苦笑が浮かんだ

ジョー

これで息子がいじめに遭わずに済むかもしれないんだ!なんて

ジョー

よくあんな言葉、信じてくれたなぁ

シリコンブラを外し、化粧を落とし、制服も着替えて息を吐く

すっかり普段のジョーに戻ったとき、妹から返信がきた

まじで!?やるじゃん!

おにぃかっこいー!

私も【あごクイ】してみたいなー

ジョー

やりたがるようなもんじゃないだろ

ジョー

【あごクイ】なんてくだらないよ

好奇心旺盛な妹の反応に目を細めつつ、その期待を一蹴する

しかし通学路に出た瞬間目に入った光景に、ジョーは数度目をまばたいた

ジョー

……あれ、あの二人

ジョー

湯村くんと黒川さん、だっけ

ジョー

『そう』なったのか

遅刻ギリギリの時間、昨日話題の告白劇を演じていたカップルは

付き合って初めての同伴登校を楽しむように歩いていた

男子生徒は幸せそうながらも、二人分のカバンを持っている

それを見て、ジョーの口元が笑みに歪んだ

ジョー

確かに【あごクイ】なんてくだらない

ジョー

だけど

ジョー

【あごクイ】したがる奴らの気持ちは、ちょっとわかったかな

学生がまばらに歩く通学路を、鼻歌まじりに学校へ向かう

朝日輝く世界は目が眩むほどまばゆく、その影は、一段と濃さを増していた

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