コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
先生
先生
先生
卒業試験は一ヶ月後に行われるらしい。
二週間後とかじゃなくて、本当にほっとした。
……まぁ、問題は山積みなんだけど。
レミ
レミ
ミア
私とミアちゃんは揃ってため息をついた。
作文も筆記も余裕とは言い難いけれど、目下の障害は実技試験についてのことだ。
どうやら、実技試験は三人のチーム編成が必須で、組めなかった場合、自動的に不合格になるらしい。
去年までは無かったそうで、今年からの試みだそうだ。
……ちなみに私は、この二週間でミアちゃんくらいしか親しい友達ができていない。
他のグループには入れない……。
というわけで私とミアちゃんでチームを組むことに。
だが、チーム編成の為に必要な、あと一人がなかなか見つからない。
レミ
ミア
ミア
レミ
ミアちゃんもここ数日眠れていないみたい。
何に悩んでいるのか、夜中灯りがついていることが多いのだ。
あまり根を詰め過ぎないでと、こんな私が言えた立場じゃないのは分かっているけれど。
それでも彼女に体調を崩してほしくない。
そう願うのは、傲慢だろうか。傲慢だろう。私も寝ないとな……。
サラ
サラ
不意に、クスクスと嘲笑混じりの声が背後からした。
この子も本当、飽きないよねぇ……。
喧嘩を売られて反応しないと、もっとしつこく絡まれる未来がありありと想像できたので、渋々振り返る。
そこには予想通り、春の空の色をした髪を持つ、顔だけは無駄に整った少女がいた。
勿論仲良くはない。でも嫌いではない。
この子、悪口全部直接言いに来るんだもん。陰口叩いているところ見たことないから、可愛げがある。
……ただし、ムカつくものはムカつく。私神様仏様じゃない。
サラ
サラ
この子の名前は……サラと言ったけ。うん、多分そう。
ミアちゃんと元々そりが合わないのか、彼女と仲が悪かったらしい。
それで、つい最近来てミアちゃんと仲良くしている私も、目の敵にしている、と。
……あれ? 私何もしてなくない?
ミア
ミア
その美しい顔に、恐ろしいくらいに完璧な微笑を浮かべて、ミアちゃんが立ち上がった。
……二人とも美少女なだけあって、その睨み合いは凄まじい。
下手な怪談話よりも、よっぽど背筋が冷える。
ミア
ミア
サラの取り巻きは三人いる。
サラを含めると四人。仲良しグループ内で組むにしても、一人余る計算になるのだ。
……波乱の予感だ。流血沙汰にはならないと思うけど……。
サラ
なぜか自信満々なサラ。
私は気付かれないように一瞬、サラの取り巻きたちの様子を窺った。
彼女達は皆、肩をすくめて呆れの眼差しでサラを見ている。
呆れと言うべきか、見下していると言うべきか……。
私が不思議に思っていると、不意に彼女達の唇が弧を描いた。
それは明らかにサラを嘲笑うためのものだ。
彼女達はサラの元へ近づき、笑顔で肩をポンポンと叩いた。
……わぁ、女子って怖い。
サラの取り巻き
サラの取り巻き
サラの取り巻き
サラの取り巻き
サラの取り巻きたちはそう言い放つと、どこかへ行ってしまった。
あぁ、彼女達が私たちの悪口を言わなかったのも、これが控えていたから?
……なるほど、嘘と騙しは怪盗の仕事に必要不可欠だもんね。
私が彼女達の手腕に感心している一方、サラは半ば呆然とした面持ちで取り巻きが去っていった方向へ手を伸ばす。
サラ
サラ
これはサラの自業自得だ。私には関係ない。
それでも、裏切られて衝撃を受けているサラが可愛そうに見えてくる。
ただし、ミアちゃんはそんなサラにも容赦しなかった。強い。
ミア
ミア
にやぁと笑ったミアちゃんは、上機嫌にサラの顔を覗き込む。
サラは悔しそうな顔をしているが、断るつもりはなさそうだ。
でも内心複雑なんだろうな。嫌いな子と組むなんて。
サラはバツが悪そうにしている。
少しくらいは優しくしてあげてもいいかもしれない。
せっかく仲間になったし、これまでのことも多少大目に見て……明るく元気に楽しく、卒業試験を乗り切ろう!
……と、私は思ったのだが。
サラ
サラ
サラ
レミ
思わず声に出てしまった。
え、まだその態度続けるの?
仲良く元気に楽しくのスローガン、もしかしてもう崩壊寸前⁉︎
先行きには不安しか転がっていないような気もするが、試験に挑むための権利は得た。
これからサラとも仲良くなれるかもしれないしね。
大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせ、私はミアちゃんとサラの言い合いを半笑いで眺めていた。
レミ
レミ
ミア
ミア
私たちは飲食店で、卒業試験のうちの一つである作文の練習をしていた。
サラはいない。一応誘ったのだが、断られてしまった。
ミアちゃんの文字が詰まって黒くなった原稿用紙を、私は横目で見る。
対して私の作文用紙は真っ白。黒胡麻と白砂糖かってくらいの色の違い。
遠い目。もう、本当になんで作文なんか書かなきゃいけないのか。
私夏休みの宿題で、一番苦手なの読書感想文と論文なんですけど。
つまり作文苦手なんですけど。
一瞬で書ける作文の作り方を誰か、誰か私に教えてください。報酬は要相談。できればボランティアがいいです!
レミ
レミ
何か気分転換になるものがないかと、私がポケットを漁っていると、どこで紛れ込んだのか『異世界守』が出てきた。
……気分転換にはなるかな? なるよね。煮詰まっていたら何も思いつかないもの、気分転換大事。
ミアちゃんにサボっていることがバレないように、そうっと中身を開ける。
すると、前に見たときと変わらない姿の“異世界遊覧記”が出てきた。
そういえば、これ、たしか文が書かれてたよね。
作文の参考にしようっと!
意気揚々と表紙を開く私。
けれどそこに書いてある内容は、日本語と外国語が混ぜ混ぜになっていて、とてもじゃないけど読めたものではなかった。
諦めて真面目に作文の練習しようかな……。
レミ
何か……挟まってる?
もしかして、作文を書くコツを記した紙だったりして、なんて淡い期待と共に、十ページほど、めくる。
期待に胸を躍らせながら、ページをめくる。
それから、固まる。
……どうして、ここに。
どうして……お母さんの、ハンカチが?
無意識に震えだした両手をきつく握りしめる。
責められている、気がした。
私だけが、こうして生きていることを。
ハンカチに施されたウサギの刺繍の、赤い瞳が、こちらをじっと見上げている。
────どうして、お前だけが。
肺を鷲掴みにされたような感覚。錯覚。苦しい。上手く、息が吸え、いや、吐けない。
ここ数週間、忘れていた感覚。仕舞っていた感覚。
ごめん、ごめんね。ごめんなさい。
自分のことばかりだ。私。
気を抜いたら、簡単に口から嗚咽が漏れ出しそうで、喉の奥が痛い。
一滴ぽたっと雫が落ちて、真っ白な紙に染みができた。
ミア
ミア
ミアちゃんが心配そうにしている。
そう、だよね。
駄目だ、私。ダメダメだ。
できることなんて限られているから、その限られたことを精一杯やるのが、今の私の義務だ。
周りに迷惑なんて、かけてられない。
私は爆発しそうな気持ちを押さえて、痛いものを飲み込んで、口角を上げる。
演劇部で、よかった。本当に。
レミ
……上手く、誤魔化せただろうか。
罪悪感も後悔も、決して忘れるなと。
そう言わんばかりに丸い柘榴の瞳は、ずっと私を見つめていた。
頑張らなきゃな、卒業試験。
そうして逃げるように私は原稿用紙と向き合った。