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鬼を見かけた、というのは嘘じゃない。見回り中、鬼特有の香りを感じて、おれは森の中へと入っていった。
もし本当に鬼だったら殺さなきゃいけないし、剣術も体術も強いおれなら、一人でもなんとかなる筈…。
なんて慢心してたのが悪かったのか。おれは後ろから、鬼に首を噛まれた。
LAN
ガクリ、と体中の力が抜ける。あ、おれ、こんなところで死ぬんだ。そう思ったけれど、おれの首を噛んだ鬼が話しかけてきた。
鬼
そりゃ死にたいわけないだろ。反射的に、本能的に言葉が溢れた。
LAN
まだ、皆と一緒に過ごしたいよ…。
LAN
愛おしい人の名前を呟いて、おれは意識を手放した。
次に目が覚めたら、おれは鬼になっていた。おれが生きたいと願ってしまったから。
LAN
自虐的な笑みを浮かべて、おれは涙を零した。…けれど、気付いた。皆に会えなくても、皆を見守ることはできる。そうだ、何しろ鬼は身体能力が高い。物陰に隠れて、皆を見守ろう。
皆は俺が居なくなって悲しんでるようだった。ごめんね、皆。本当は今すぐ皆に会いたい。でも、皆に会ったらおれは殺されちゃうから。
LAN
そう思いながらも、おれはこっそりを皆を見守る日々を続けていた。
そんなある日、いるまとなっちゃんが見回りの日、おれはいるまに目撃されてしまった。この距離感なら見えないと思ったのに、いるまは視力が良いの忘れてた…。
それから皆の前に姿を表す頻度を減らした。
暇72
そんな中、聞こえてきたなっちゃんの呟き。駄目だと分かっているのに、会いたくなってしまった。ごめんって言いたい。少しだけでいい、今だけでいいから…。
LAN
***
なっちゃんと少しだけ話して、なっちゃんは覚悟を決めたようだった。
暇72
LAN
大したことない願い事だろうと高を括っていた。しかし、なっちゃんの瞳には光が宿っていなかった。
暇72
…キス?キスって、口同士の?なんで?なんで、なっちゃんがおれにキスを要求するの?
頭の中でぐるぐる考えているとなっちゃんに手を引かれた。縁側の柵から、縁側の中へ降り立って。…そのまま、マスク越しではあるけど、なっちゃんと唇が重なった。
LAN
暇72
俺の言葉にLANは目を見開く。…本当に気づいてなかったんだ。LANの眼中に、俺は居なかったんだ。
LAN
暇72
俺は本当にそれでも良いと思った。LANと二人きりなら、俺は…。
雨乃こさめ
不意に聞こえた声に俺は振り返る。
暇72
雨乃こさめ
暗がりから現れたこさめの目には光が宿っていなかった。暗く濁った水色の瞳からは生気が感じられなかった。
雨乃こさめ
暇72
俺はLANを庇うように、LANの前に立ちはだかる。
雨乃こさめ
すらりと大太刀を抜いて構えるこさめ。
雨乃こさめ
…こさめの目には、覚悟が浮かんでいた。
LAN
暇72
LANは一歩前に出ると微笑む。その笑顔は、俺が惚れた時と同じ、美しく、優しい笑顔だった。
LAN
雨乃こさめ
暇72
雨乃こさめ
こさめの言葉にドキリとした。
雨乃こさめ
暇72
大太刀を仕舞うとこさめはくるりと踵を返す。
雨乃こさめ
LAN
雨乃こさめ
そう言い残してこさめは逃げるようにその場を後にした。最後に聞こえたこさめの声は、涙混じりだったような気がした。
LAN
呼び止める間もなく、LANは姿を消してしまった。