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第二章
馬鹿と裸体とドッペルゲンガー
青春とは全力疾走であり
立ち止まっている暇など一瞬たりとも存在しない
脇目も振らずに駆け抜ける青さこそが青春の本質なのだ
その教訓に則って
俺は恥も外聞も置き去りにしながら
通学路を自転車で疾走していた
要するに寝坊した
桃
紫
隣でふよふよと浮かぶ桃が
呆れて呟く
時刻はすでに予冷の五分前で
間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ
飛び起きて顔を洗って寝癖を押さえつけて
家を出るまでの時間は僅か七分
まったく
我ながら時間に追われるデキる男である
北大路通を爆走していると
向かい側から同じように自転車が走ってくる金髪の男が見えた
毎日高齢の邂逅なので
お互いに視線だけで挨拶する
角を曲がるタイミングで合流し
しばらく並走していると
金髪の男が口を開いた
翠
翠
紫
つんと立ったアホ毛に
深緑の目
その上に覗く切れ長の二重も相まって
高身長イケメンのこの男は
俺の悪友である緑川翠だ
文化祭で共に停学処分を食らった
愛すべき馬鹿でもある
全速力の俺と翠が校門に滑り込んだタイミングで
予鈴がなった
門扉を閉める生徒指導の先生が
またお前たちかと言いたげな表情を浮かべているが
今回は遅刻ではない
俺達が勝ち誇ったように自転車を止め
教室に向かってずんずんと進軍した
桃
桃が俺に耳打ちする
留年の足音が小走りで近付いているのは否めないが
俺の計算だと
あと六回は遅刻しても許される
貪れる惰眠は
できる限り貪り尽くしたい
俺は桃にそう告げようとして
ふと疑問に思う
桃の姿は
翠にも見えているのだろうか
俺の思慮を察したのか
桃は
桃
と言った
なるほど
理屈はわからんが
昨日と同じく幽霊の桃が目立つ心配はないらしい