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それでも僕らは1%の明日を待つ

第2話 - それでも僕らは1%の明日を待つ ⑵

2022年05月11日

#ファンタジー

#青春恋愛

#一次創作

#世界滅亡

#ホラー

#同性愛

摩訶子(まかこ)2nd

恒星(こうせい)

とにかく学校中を探索してみるとするか。

恒星(こうせい)

ここから出られない以上は、ここでできることを探すしかない。

恒星(こうせい)

アイツらも今はあんなことばっかり言ってるけど、真っ直ぐ向き合っていれば、きっといつかはわかってくれる！

恒星(こうせい)

やってできないことなんて、何もないんだからな！

『あなたはいつでもうわべだけ』

恒星(こうせい)

！？
更紗！？

・

恒星(こうせい)

……何だよ、居ないじゃないか。

恒星(こうせい)

………………

恒星(こうせい)

………嫌なこと、思い出させやがって。

糸(いと)

千夜君はクラスも違ったし、周りに全然興味なさそうだったから、知らないかもしれないけど。

糸(いと)

…恒星君は、前向きで、明るくて、いつもみんなの中心にいた。
みんな彼のことが大好きで、…僕も例外ではなかった。

糸(いと)

あ！
恋愛対象としてではないからね！

千夜(せんや)

あ、いや、そんな全力で否定しなくてもいいんだけど…。

千夜(せんや)

うん、それで？

糸(いと)

あの頃の恒星君は、僕にとって、まるでヒーローそのものだった。

千夜(せんや)

アイツが…ヒーロー……まぁ、確かにそんなイメージなのはわかるな。

糸(いと)

イメージだけじゃないんだ。

糸(いと)

…彼はいつも、僕が主犯格の奴らに殴られたり脅されたりしてるのを見つけると、みんなの輪の中から飛び出してきて、必ず助けてくれたんだ。

糸(いと)

『お前ら何してるんだ！』って。

千夜(せんや)

へぇー。
なんか目に浮かぶようだな。

糸(いと)

だから僕は本当に…純粋な意味で彼に憧れて、感謝していた。

糸(いと)

それで、この感謝の気持ちをちゃんと伝えたいと思ったんだ。

教室にたまたま僕と恒星君だけがいて、他に誰もいない時を見計らって、勇気を出して声を掛けた。

糸(いと)

あ、あの……

恒星(こうせい)

え？
あ…

糸(いと)

？

糸(いと)

あの、恒星君。
いつも助けてくれてありがとう。
僕、すごく感謝して…

恒星(こうせい)

あ！
別に！
お礼とか大丈夫！

糸(いと)

え？

恒星(こうせい)

……悪い。
もし今誰か入ってきて、あんまりその、仲良くしてると思われると、ちょっと都合が……

糸(いと)

………え？

恒星(こうせい)

じゃ、じゃあな！
気をつけて帰れよ！

恒星(こうせい)

もしまたひどく殴られたりしたら俺に助けを求めに来ていいからな。

恒星(こうせい)

みんなが見てるところで、な。

糸(いと)

………………

千夜(せんや)

そんなことが……。

糸(いと)

よくよく考えてみたら、恒星君が僕を助けてくれるのって、みんなが見てる時だけだったかもしれないって気付いたよ。

糸(いと)

…別にいいんだけどね？
人目がある時限定だったとしても、助けてくれた方が有難いのは事実なんだし。

千夜(せんや)

………

糸(いと)

でも、僕の憧れのヒーローは、いなくなっちゃった。

恒星(こうせい)

………はぁ。

恒星(こうせい)

（…俺はいつまで、こうしているつもりなんだろうな）

更紗(さらさ)

ふらふらうろつき回っているだけなら、あなただって私と変わらないじゃない

恒星(こうせい)

あ。
今度はほんとに居る。

更紗(さらさ)

は？

恒星(こうせい)

はは。
いや、何でも。

更紗(さらさ)

………

恒星(こうせい)

……なぁ、お前はいつから見抜いてたんだ？

更紗(さらさ)

何のこと。

恒星(こうせい)

……きっと、最初からなんだろうな。

更紗(さらさ)

わかるように話すつもりがないのなら、失礼するわ。

恒星(こうせい)

『みんな仲良くしよう！』

恒星(こうせい)

『困っている人は助けよう！』

恒星(こうせい)

『やってできないことは何もない！』

恒星(こうせい)

『希望を持ち続けるんだ！』

更紗(さらさ)

………

恒星(こうせい)

俺のお決まりの言葉は、全部上っ面だけだった。
…自分でも、心のどこかではきっと気付いてたんだろうな。

更紗(さらさ)

……へぇ。

恒星(こうせい)

そういう自分でいたいっていうのは、悪いことじゃないと思ってたから。
最初はそれでよかったんだよ。

恒星(こうせい)

でも。
大人に近づくにつれて、自分がどうありたいかじゃなくて、結局、周りにどう見られたいかに変わっちまうんだよな。

更紗(さらさ)

……私は、

恒星(こうせい)

ん？

更紗(さらさ)

私は、決してあなたを責めたかったわけじゃないの。
ただ、彼を助けたかっただけ。

更紗(さらさ)

それは…本当なのよ。

恒星(こうせい)

………

更紗(さらさ)

…何よ？

恒星(こうせい)

お前も、そんな風にしおらしくなることあるんだな！

更紗(さらさ)

…こんなところ通るんじゃなかった。
広い学校なのに何でよりによってあなたなんかと同じ場所に来ちゃったのかしら。

恒星(こうせい)

ハハハ。

里花(りか)

『…ごめんなさい』

更紗(さらさ)

え？

恒星(こうせい)

？
どうした？

更紗(さらさ)

ねえ、今何か聴こえなかった？

恒星(こうせい)

いや…俺は何も……？

里花(りか)

『私のせいで、ごめんなさい………』

更紗(さらさ)

！
誰！？

恒星(こうせい)

お、おい、更紗？

更紗(さらさ)

……ごめん。
気のせいだったみたい。

恒星(こうせい)

？
そっか…？
なら、いいけど…

更紗(さらさ)

………

糸(いと)

僕が君に惹かれたのは、本当に無関心でいてくれたからかもしれない。

千夜(せんや)

え？

糸(いと)

とか言ってただの一目惚れだった可能性もあるから、何ともいえないんだけどね。

糸(いと)

とにかく僕は、辛いいじめの日々の中で偶然君に恋してしまった。
好きになった理由なんて、もはや何でもいいや。

糸(いと)

……そして君は、すでに異性の恋人がいて、彼女を心から愛していた。

千夜(せんや)

彼女のこと、知ってたのか？

糸(いと)

…ちょっと、ストーカーみたいな目で見ないでよ。
そんなの僕だけじゃなくてみんな知ってたよ！
あれで隠してたつもりだったとか、逆にびっくりなんだけど。

千夜(せんや)

………

糸(いと)

……だいたい、大騒ぎになったじゃん。

千夜(せんや)

俺達が付き合ってることが大騒ぎになってたの？！

糸(いと)

違うでしょ！
……だから、彼女の………事故のことがだよ。

千夜(せんや)

あぁ………

千夜(せんや)

……里花。
君もここに居るのか…？

千夜(せんや)

一緒に『今日』を繰り返して、…どこかから俺達を見ているのか……？

・

千夜(せんや)

……やっぱり、そんなわけないのか…。

・

千夜(せんや)

…独り言になってもいい。

千夜(せんや)

もし君がそこに居るのなら、返事をしなくてもいいから、少しだけ俺の独り言を聞いて欲しい。

糸(いと)

千夜君どこに行ったのかな…。
やっぱり僕のこと気持ち悪いと思って会わないようにしてるのかな…。

糸(いと)

………あ！
居た…。

糸(いと)

ねえ、さっきは変な話をしてごめ…

千夜(せんや)

『里花。
もう一度だけでも、一日だけでも君に会いたい』

糸(いと)

（！
千夜君……）

千夜(せんや)

ずっと一緒に居られると思ってた。

千夜(せんや)

……何でなのかな。
何で俺達は、何の根拠もなくこれから先の幸せをずっと続くものだと思い込んでしまうんだろうな。

千夜(せんや)

君が事故に遭って、昏睡状態になっていると聞いた時、それが現実だってしばらく信じることができなかった。

千夜(せんや)

病院に行って、眠っている君に再会して……目覚める可能性が『１％』だと言われた時には、……もう、何もかもが夢なのか本当なのかわからなくなっていた。

千夜(せんや)

そんな信じられないことが起きて、まだ数ヶ月しか経っていないっていうのにさ。

千夜(せんや)

……世界滅亡だってよ。

千夜(せんや)

……もう笑っちゃうよな、こんなのさ、何をどう理解すればいいんだよな？

千夜(せんや)

俺はまだ、君が目覚めないっていう現実さえ受け入れられていないのに、……なんで、なんで世界が終わるかなぁ？

千夜(せんや)

……ごめん。

千夜(せんや)

……それで、更にその後。
こんなループの中に放り込まれちゃって、もう何が何だかわからなすぎて、最初のうちは考えることをほとんど放棄してたんだけど。

千夜(せんや)

でも、この『今日』の繰り返しは終わらなくて、考える時間を無限に与えてもらえたおかげで、少しずつ……やっと少しずつ、頭の整理が出来てきたんだ。

千夜(せんや)

…俺には、こんな時間が必要だったのかもな。

里花(りか)

『千夜……』

千夜(せんや)

？

千夜(せんや)

里花、居るのか？

里花(りか)

『………』

千夜(せんや)

………

千夜(せんや)

うん。
それで、決めたんだよ。

千夜(せんや)

この無限に繰り返される滅亡前日の中で、俺がどう生きるべきなのか。

里花(りか)

『千夜………』

千夜(せんや)

俺はこの繰り返しから抜け出したい。

千夜(せんや)

たとえ明日、世界が99％滅亡するとしても………１％の奇跡を信じたい。

里花(りか)

『……！』

千夜(せんや)

わかるだろう？
この数字は、君が目覚める可能性と同じ。

千夜(せんや)

……俺が１％を否定したら、………君が生きていることを否定することになる。

里花(りか)

『もしも、滅亡前日が何度も繰り返されるとしたら？
その時あなたは、何を思いますか？』

千夜(せんや)

『たとえ滅亡するとしても。
…それでも明日へ踏み出したい』

里花(りか)

『……じゃあ、もしも私が二度と目覚めないとしたら、あなたはどうしますか…？』

千夜(せんや)

『たとえ目覚めることがないとしても………最後の一秒まで、君と一緒にいたい』

里花(りか)

『………』

千夜(せんや)

里花、聴こえる…？
俺はここから抜け出したい。
ここに居たら、君に会えない。

千夜(せんや)

世界が終わるとしても、君が目覚めないとしても、それでも俺は、ただ君と一緒にいたい。

・

千夜(せんや)

……独り言、おしまい。

千夜(せんや)

そこに居るんだろう、糸。
気つかって邪魔しないでくれてありがとう。

糸(いと)

………何も聞いてないよ。

千夜(せんや)

……うん。
ありがとう。

千夜(せんや)

おはよう。

糸(いと)

おはよう千夜君。
…やっぱり何度目でも会えて嬉しいな。

恒星(こうせい)

おはよう！
いい朝だな！

千夜(せんや)

更紗は？

恒星(こうせい)

知らん。
どうせその辺をうろつき回ってるんだろ。

糸(いと)

後で僕が見てくるよ。

千夜(せんや)

え、珍しいな。

糸(いと)

そろそろいつもと違うことがしてみたくなった、ってところかな。

千夜(せんや)

そっか。

恒星(こうせい)

………

千夜(せんや)

…？
恒星？
どうかした？

恒星(こうせい)

………いや、何でもない。

千夜(せんや)

？

糸(いと)

ねー。
更紗っていつも１人で何してるのー？

更紗(さらさ)

何でついてくるのよ。

糸(いと)

えー？
僕もこっちに用があるだけなんだけど。
自意識過剰な女はモテないわよ♡

更紗(さらさ)

はぁ？

糸(いと)

あぁ、ウソウソ！
冗談だって！
そんな怒らないでよ！

更紗(さらさ)

あなたの冗談は面白くないのよ。

糸(いと)

ひどい…。

更紗(さらさ)

で？
本当は何の用なの？

糸(いと)

………

糸(いと)

君に訊かれて答えられなかったことが、今なら答えられる気がするから、答えに来た。

更紗(さらさ)

私に訊かれたこと？

糸(いと)

君、【あの時】僕に、

糸(いと)

『あなたが本当に望んでいることは何なの？』って訊いたでしょ？

更紗(さらさ)

………

糸(いと)

あの時………僕が何もかも嫌になって、学校の屋上から飛び降りようとした時。

糸(いと)

来るな！！
どうせ目の前で飛び降りようとしてる奴を放っといたら自分の体裁が悪くなるのが嫌なだけのくせに！！

恒星(こうせい)

そ、そんなことないって！
生きてれば必ずいいことがある！

恒星(こうせい)

悪いことがあったら次はいいことがあるっていうだろ？
だから考え直すんだ！
なっ！？

糸(いと)

うるさい！！
誰がそんな言葉で思いとどまると思ってるんだ！！

恒星(こうせい)

あ……

・

更紗(さらさ)

何をのこのこ戻って来ているの？

更紗(さらさ)

まさか本当にあんな言葉で自殺を止めようとしていたというのならお笑いだわ。

恒星(こうせい)

……っ！
誰だよお前は！

更紗(さらさ)

うわべだけの言葉をいくつ並べても、人の心を動かすことなんてできないのよ。

恒星(こうせい)

………

更紗(さらさ)

私から見れば、あなたも彼も、決められた運命に逆らって無駄な足掻きをしているだけ。

更紗(さらさ)

本当に望んでいるのなら、好きなようにすればいい。

・

糸(いと)

今度は誰だよ！

更紗(さらさ)

自然に抗うことほど愚かなことはないわ。

糸(いと)

はぁ？
何アンタ、何かの宗教？

更紗(さらさ)

そう思うなら思えばいい。
お望みなら宗教っぽいことを言ってあげるわ。

更紗(さらさ)

…流れに身を任せなさい。
あなたが本当にそうしたいのならば、自由に飛び降りればいい。

更紗(さらさ)

でも。
あなた自信が本当にそれを望んでいるのか、よく考えることね。

糸(いと)

………

更紗(さらさ)

あなたが本当に望んでいることは何なの。

糸(いと)

………僕は……

恒星(こうせい)

(……何だよ、今の話は………)

糸(いと)

………

糸(いと)

そっか。

恒星(こうせい)

(え？)

糸(いと)

……何やってるんだろうな、僕は。

恒星(こうせい)

………戻って……来やがった…。

糸(いと)

あの時の僕は、絶対に叶わないとわかってる恋をして、どうにもならないことに絶望して、その間にもいじめはどんどんエスカレートして……だから、いじめを理由にして自殺してやろうと思ってたんだ。

糸(いと)

叶わない恋から逃げて復讐も果たせたら、それが一番いい選択だと思って。

更紗(さらさ)

馬鹿な人。

糸(いと)

……でも、僕が本当に望んでいるのが、…本当にそんなことなのかって言われたら………わからなかった。

更紗(さらさ)

………

糸(いと)

わからないってことは、少なくともここで決めちゃっていいことじゃないんだって気付いて。
いつか答えを見つけようと思った。

更紗(さらさ)

………見つけたっていうの？

糸(いと)

うん。
昨日………じゃないや、ひとつ前のループで、彼に教えてもらった。

更紗(さらさ)

………

糸(いと)

あの人は、１％でも可能性があるなら、たとえだめであっても、それに懸けて、信じてみたいって…そう言ってたから。
僕も同じだと思ったんだ。

糸(いと)

……僕は本当は、僕を理解してくれない奴らに復讐をしたかったわけじゃない。

糸(いと)

………いつか、僕のような悩みを持った人も、幸せに生きられるような世界ができることを信じてみたい。

糸(いと)

それが僕の本当の望みだよ。

更紗(さらさ)

………

糸(いと)

こんな答えでも、いい？

更紗(さらさ)

………さぁね。
いいんじゃない？

糸(いと)

そっか。
へへ、よかった。

更紗(さらさ)

………

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