私が十四のとき
私は家出をしたのです。
そして日が暮れ夜が来ました。
その時です、あの方と会ったのは。
〇〇
…………
お兄さん
あ、ねえねえ
お兄さん
其処の君ーいい事しない?
〇〇
…………
お兄さん
無言はいいってことでしょ?
当時、物事に対し全てどうなってもよいと思っていたのです。
我が身のことでさえ
お兄さん
それじゃあ……
???
ああ!其処に居たのか
???
全く、勝手に行動してはいけないと云っただろう?
お兄さん
は、……?
???
こういう可笑しな輩が多いからね
〇〇
…………?
???
何もされてないかい?
だれ……?
お兄さん
っ、お前は……!!
???
何か?
お兄さん
くそっ、1人で行動してんじゃねぇよ!!
???
…………今、其方に行った
???
僕は少し用ができたから後処理までしっかりして
???
いい?
???
宜しく
???
…………ねえ
???
君、何してたの?
???
同意でしようとしてたの?
???
先ず何歳?
〇〇
……十四
〇〇
……貴方こそ、誰
???
……そうだね
???
僕は…………
太宰治
太宰治
太宰治
名前は?
〇〇
……多分、黒咲〇〇
太宰治
……多分って?
太宰治
自分の名前すら分からないの?
〇〇
苗字は家の表札でしか知らない
〇〇
名前は遠い昔、1度しか呼ばれたことがないから、
〇〇
合ってるか分からない、
太宰治
……ふーん
〇〇
…………
〇〇
じゃあ、私は之で
太宰治
待ち給えよ
太宰治
随分細いね
太宰治
何日食べてないんだい?
〇〇
……5日
太宰治
……来な、食べられるものをあげよう
〇〇
……いやだ
太宰治
……何故?
〇〇
そう云って連れ戻す気でしょう?
〇〇
もう戻りたくない、
〇〇
彼処に戻るくらいなら、……
太宰治
……別に連れ戻しはしないよ
太宰治
君を連れ戻したところで僕に利は無いし
〇〇
…………
太宰治
まあ、どうしても嫌だと云うのなら僕は強制はしないよ
太宰治
精々野垂れ死ぬんだね
〇〇
…………
〇〇
…………行く
太宰治
そうかい、なら着いて来給えよ
〇〇
…………
この時点で
着いて行ったことが
間違いだったのでしょうか
連れて行ってくれたのはうどん屋の屋台でした
〇〇
ここは……?
太宰治
うどん屋さ
太宰治
安いし量も多いし、丁度いいだろう?
うどん屋のおっちゃん
安いは余計だよ!若造ども
太宰治
あと口が悪い
うどん屋のおっちゃん
おい!
うどん屋のおっちゃん
んで、何にするんだい?
太宰治
うどんを1つ、この子に
うどん屋のおっちゃん
具は?
〇〇
……何も無くていいです、
うどん屋のおっちゃん
……金はコイツが払うんだろ?
うどん屋のおっちゃん
何でも頼めばいいじゃねぇか
〇〇
……いえ、最低限のもので大丈夫です、
うどん屋のおっちゃん
そうかい、別に俺の知ったことじゃねぇしな
太宰治
…………
太宰治
若しかして、僕にお金が無いと思ってるの?
太宰治
安心し給えよ
太宰治
僕はこれでも重役なんだから
〇〇
……違う
〇〇
人間は必要最低限の物さえあれば生きていける
〇〇
他のものは必要ない
〇〇
無駄、勿体ない
〇〇
私なんかに振る舞うより、他の価値のある人にあげた方がいい
太宰治
……ふーん
うどん屋のおっちゃん
…………
うどん屋のおっちゃん
はいよ
〇〇
……頂きます
〇〇
…………
〇〇
……
うどん屋のおっちゃん
どうだ、美味いだろ?
〇〇
……、っ
うどん屋のおっちゃん
なっ?!
太宰治
不味かったんじゃないの?
うどん屋のおっちゃん
んなわけあるか!!
うどん屋のおっちゃん
不味くないよな?だよな?!
〇〇
違います、
〇〇
初めてなんです、
〇〇
こんなに美味しいものを食べたのも、
〇〇
こんなに優しくして貰えたのも……
〇〇
よく分からないんですけど、それが嬉しくて……
太宰治
…………
〇〇
有難う御座います……、
〇〇
ありがとう、御座います……
うどん屋のおっちゃん
…………