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寂れた人気のない公園。
一際目立つ、ペンキの塗りたてのベンチに、若干積もった雪をサッと払って腰をかける。
微妙に真ん丸じゃない月を眺める。
鞄には、日記と、筆箱。
底には、綺麗な真っ赤なクリスマスローズ。
私は、それを左手で優しく握った。
コトノ
ユキノ
コトノ
ユキノ
コトノは、私の左手に視線を降ろし言った。
コトノ
ユキノ
ユキノ
コトノ
ユキノ
数分、経ったか。コトノはいつの間にか姿を消していて、私は。変わらず。
時刻は...わからないけど、家を出てから、たぶん、一時間以上が経った。たぶん。
そんな感じがする、ってだけ。
誰もが夢見る、幸せな家庭。
誰もが微笑ましく眺める、幸せな家庭。
お母さんは、ちょっぴり過保護で、鬱陶しくも感じるけど、優しくて。
お父さんは、家族の為に全力で、輝く汗が良く似合う。
幸せな家庭。
"....それは、あまりにもありふれてる。"
"有象無象なんていらないから。"
"ただ、特別な私を忘れないでよ。"
"私にはあの場所、似合わないわ。"
"だから、終わりにしたのよ。"
私を忘れないで。 それは、クリスマスローズの花言葉。
お前は、花なんかじゃない。
"私は、綺麗に貴方に心に咲く一輪の花。"
違う!
ユキノ
頬を伝う甘く透明な雫がほろりほろりと私の膝へ舞っていく。
雫たちは、気付けば私の膝に積もった雪を少しずつ溶かしてゆく。
ユキノ
ベンチに腰をかけたまま、
左手に、赤い花を握ったまま。
時間は、数時間進んでいたのか。
木漏れ日が私を照らした。
そして、左手の赤い花も。
なんだか、気分がいい。
心地の良い風が吹く。ちょっと寒いけど。
ユキノ
赤い花びらが、少し舞う。
ふと、日記のページを1枚捲る。
12月25日の出来事。
ユキノ
そうだった。
山積みの問題。 思考は、山積み。
そんな、思い付きの言葉で乱雑に心に敷き詰めた感情を語る。
そうだ、全て、壊してやった。破いてやったんだ。
次は、"記憶"というゴミ箱に、全て捨てる。
....
.......
ユキノ
...なぜ?
壊したのは自分でしょう。破いたのは、自分でしょう。
壊して破って。それで捨てるのは嫌?
もう、どうしようもないじゃん。
記憶以外に、これを仕舞う場所はもうない。
ゴミ箱以外に、これを捨てる場所は無い。
目にも見えない、耳に聞こえない、手にも触れない。
ユキノ
ユキノ
コトノ
ユキノ
コトノ
ユキノ
コトノ
これが、私の日記の最初の1ページ。
全ては、初めて記憶に仕舞って、閉じ込めた。