ギフン
……うぅ、

イノ
目を覚ましましたか

ギフン
ひぃっ!

ギフン
も、もう殴らないでくださ、…

イノ
ハハ、流石に何もないのに殴ったりしませんよ

イノ
さっきのは「しつけ」ですから

ギフン
……しつけ…?

イノ
はい

ギフン
…

ギフン
あの、ここ……

イノ
ああ、山奥に倉庫を借りたんです

イノ
犬小屋が必要だと思いまして

ギフン
……犬小屋、

イノ
ただの比喩ですよ、真に受けないでください…ハハ

ギフン
それと、あの、この首輪と手錠って、

両手が後ろに回され固定されている。手錠は背中側で首輪とハーネスのように繋がっているらしく頑丈だ
イノ
それもしつけの一環です

イノ
行動はある程度制限しないと……

そこまで紡いでイノは滑車のついた全身鏡を押してきた
ギフン
っえ

ギフン
なに……なんだよこれ……!!!

ギフン
なんだこの火傷跡……!!

頬にはちょうど火のついたタバコを押し付けられたような痕があった
イノ
そんな顔じゃあもうアイドルできないですね

イノ
ギフンさんは歌詞も間違える、ファンも大事にできない、その上ファンに監禁されるときた

イノ
…顔で売ってたのに、そんな傷ができたらファンはついてきてくれるんですかね

ギフン
…っ、!

イノ
大した知名度もないアイドルの失踪ニュースも持って1週間で飽きられ、ギフンさんの代わりに新メンバーが補完され……

イノ
…誰もギフンさんのことなんて助けに来ませんよ

イノ
まさか無駄な期待をしているとは思っていませんけど。一応、ですよ

ギフン
そんな、

ギフン
……

イノ
せっかくなので楽しみましょうよ

イノ
もうここがギフンさんの一生涯の家なんですから

イノ
そうですね、まず……

足は拘束されていないが、今は逃げるチャンスなんて当然ないため座り込んでいる
イノ
余計なものを落としましょう

ギフン
………………

ギフン
えっ?

ギフン
(今確実に足を見て余計なものって……)

ギフン
(落とすっていやまさか……まさかそんなわけ…)

ギフン
どういう、……?

イノ
そのままですよ

イノ
行き過ぎた自由は贅沢です

イノ
大丈夫ですよ、流石に足を切り落としたら失血死してしまうので腱だけにします

イノ
これならいいでしょう?

ギフン
(何も良くない!!!!)

ギフン
(コイツ…本当に狂ってる、!)

イノ
ほら、実は道具は用意してるんですよ

それらが目前に整然と並べられる度に心臓の鼓動が早まっていく
ギフン
っこんな……、!!

ギフン
こんなことする必要ないっ!!

ギフン
おれ、おれは逃げない…!逃げないです!!

ギフン
一生ここにいるし、どこにもいかないから……!

ギフン
こんな、こんなことする必要……

イノ
どこにも行かないなら足の腱なんていらないですよね?

ギフン
っいや…それは……

イノ
大丈夫ですよ。暴れなければすぐ終わりますから

ギフン
っ!!!

ギフン
(逃げなきゃころされる、!!!)

イノ
ちなみにここは内側からも鍵がかかってますから

イノ
逃げようなんてまさか考えないと思いますけど、、

イノ
まあ、そんなこと試みたらキツいおしおきですね

ギフン
…ほんとに…………

ギフン
ほんとにやるんですか、イノさん!

ギフン
あ……ま、まって……っ、

ギフン
イノさん、足を切ったらおれ…おれ、ダンスできなくなりますよ!!

ギフン
イノさんはおれのこと好きだからこんなことしちゃったんですよね?

ギフン
イノさんのためだけにダンスするから、ライブしますから……!!

ギフン
だから…おねがい……

ギフン
うぁ…っ、まって嫌だやだやだっっ!!!!

ギフン
ぁ、うぅ……何でもしていいからあ!!

ギフン
おねがいします…っやめて、痛いのは嫌だ…!!!

イノ
喋ってたら舌噛むかもしれませんよ

イノ
力抜いてくださいね

ギフン
っいやだぁぁぁぁあああああああああ!!!

包丁は肉を切り裂いてブツン、となにかをいとも簡単に切断した
ギフン
ひ ぎ ィ" ッ!!!!

ギフン
あ" あ" ア" ぁ ぁ ぁ ァッ!!!!!

ギフン
あしが ッ!!!!お" れ" のぉ"ッ!!!い" だ ぃ"ぃいい"!!

ギフン
…ひぃ、はーっ……はっ、っ…………!!

イノ
まだ片足ですよ?

イノ
頑張ってください!

ギフン
いや、ッいやだぁああああ!!!!!!

床を這って逃れようとする様子にイノは思わず破顔してしまう
イノ
ハハ、そんなに嫌なんですか?

イノ
もう一個も二個も同じでしょう?

ギフン
ぎ ッ……!ぁ…ッ たすけて……ッ!!!!

イノ
幼い頃、無邪気に芋虫で遊んだ思い出が蘇ってきました……

イノ
あの完全に無力な生物を意のままにできる…その優越感が楽しかったんですよ

ギフン
はーーーーっ…はーーーっ…………

ギフン
ひぃ、っ

ギフン
いっ…嫌…嫌だ嫌だ嫌だぁぁああああッ!!!!!!

ギフン
おねがいしますおねがいしますお願いッ…やめて…!やめてくださいおねがいしますっっ!!!!!

イノ
終わったら処置してあげますから

イノ
あんまり抵抗しても痛いのが長引くだけですよ?

ギフン
は、…ひっ 、ぅ "…ごめんなさ、ぁ…ごめ、なさ……ッ、

イノ
…何を謝ってるんですか?

ギフン
……も、ぉ " …ゆるしてください…ッ、

イノ
…ギフンさんには笑って欲しいんですよ

イノ
ほら、スマイル!

ギフン
っ、

ギフン
ぁ…" 、…

ギフン
…………ふへ、…

痛みで朦朧とする意識のなか、懸命に笑顔を作ろうと努めた
イノ
…ギフンさんはずっとこうであってくださいね

イノ
笑顔が誰よりも可愛いんですから

ギフン
…いの、さん…、

ギフン
…ち、…血が出て……痛ッ…処置、を…!

なんとか言葉を紡ぎ、笑顔のままのイノに治療を訴えた
ギフン
……イノ、さ……しんじゃう…………っ、

イノ
ハハ

イノ
さて

イノ
早いところ終わらせましょうか

鈍色に赤の液体の迸った包丁が再度足首に宛てがわれた
ギフン
っへ

ギフン
あ…………あ " ……!!

踏みつけられていた足は痛覚を失っているように錯覚されたが現実はそう甘くはない
その包丁が体を穿つときの痛みの壮絶さは失神してもおかしくないほどだった
イノ
これで終わりですからね

イノのその一言を最後に刃が激痛を伴って侵入してくるのを感じた
ギフン
たすけ、っギィッ!!!!

ギフン
い"ッ い"だ ぃ"ッ !!!ぁ" がッ…

ギフン
ひぃ、ぃッ "……も " お " …ッ や" ぁ " ッ!!がえ"りだい"ィッ!!

ギフン
かえ" せよ " ぉ ッ !!!

ギフン
おれ、ぅ "ッ…ひぐ…ッ…なにもしてな、…いのに……

ギフン
なんで……、こんな……

イノ
じゃあ手当しましょうか

イノ
私はギフンさんのことを殺したいわけじゃないんですよ

イノは柔らかく微笑んで動かせない足にガーゼを巻き始める
ギフン
い "……ッ

消毒やら止血やらをしないと後々酷くなる、と言おうとしたがこの傷に消毒など考えるだけでおぞましかった
イノ
よくがんばりましたね

イノ
えらいですよ、ギフンさん

ギフン
う " ──……、

イノ
これでやっと、

イノ
2人だけですね

ギフン
も " ……ゆるして…………

イノ
ギフンさんが他の客と言葉を交わす度にどんな思いをしたことか……!

イノ
苛立って苛立ってたまらなかった…

イノ
ギフンさんをこうしたいと思う人間が身近にどれだけいるかも分からず、無神経で不用心で…

イノ
…

イノ
すみません、少し取り乱してしまいました

ギフン
ビクッ

イノ
ギフンさん…

イノの瞳の奥、呑み込まれるような深い闇に見つめられる
ギフン
……

ギフン
(もう逃げられない…)

脱出はもう不可能だと悟り、諦念して眼目の男に屈服するしかない
イノ
死ぬまで一緒ですね…♡
