陽も落ちて暗くなって
どのくらい時間が経っただろう
会長は遅くまでおれのところに いつもいる
カナタ
カナタ
困ったなぁ
カナタ
一人でブツブツ言ってしまった
カナタ
やばい またサヤさんに怒られてしまう
そう思いながら ひとりでもんもんと考えた
ケンシ
カナタ
うーん
サヤ
カナタ
カナタ
ごめんなさい!
カナタ
案の定来てしまった
サヤ
カナタ
サヤ
カナタ
サヤ
カナタ
たぶんもう
小一時間は…
サヤ
人に心許すこと
あるんだ
カナタ
サヤ
私と同室になった
だけは
あるってことね
サヤ
カナタ
えと…
ハナシガミエマセヌ…
サヤ
こういう
サヤ
逆にいいんだろうなぁ…
カナタ
ディスってますね
というか会話が成立してない 気がする
ケンシ
会長が目を覚した
そして首だけグイッと サヤさんの方にむけた
サヤ
おはよう
ケンシ
こいついじめないであげて
サヤ
カナタ
ケンシ
すげーいいやつなんだよ
サヤ
ケンシくん来てるって
知ってるの〜?
ケンシ
知ってるよ
サヤ
教えてくれなかったの〜
ケンシ
あるんだよ
きっと会長は サヤさんに気に入られてる
というか 会長はきっと絡みたく ないんだろうな
サヤ
ケンシくんの彼女に
なってもいいのに
カナタ
さらっと…
ケンシ
前も…というより
ケンシ
カナタ
サヤ
黙っててよ!
カナタ
まじ怖い おれ抜きで 他でやって…
サヤ
ケンシ
サヤ
前はあんなに仲良かったのに!
ケンシ
今は今!
サヤ
つまんないの
サヤ
来るけど
アヤメばっかり見てても
つまんないし
ケンシ
親戚なんだしよ
サヤ
つまんないーーー
ケンシ
サヤ
やっぱ… 面倒くさい子だな…
おれ 置いてけぼりだし
何気に 会長 おれの上にうつ伏せのままだし
看護師
看護師
サヤ
私ここで食べる!
カナタ
看護師
自分のところで
お願いしますね
サヤ
ケチケチ!
サヤ
看護師
サヤさんは強引に 看護師さんに戻された
カナタ
そう小声でボヤいた 彼女に聞こえるのは こわすぎる
ケンシ
災難だったな
カナタ
ケンシ
カナタ
いい加減どいて下さい!
ケンシ
ケンシ
カナタ
カナタ
ケンシ
独占できる
唯一の時間
カナタ
ケンシ
看護師
看護師
消化器刺激しないように
カナタ
看護師
明後日退院になるよ
カナタ
マジっすか!
カナタ
看護師
だから無理しないでねぇ
カナタ
カナタ
会長
カナタ
ケンシ
ぜんぜんぜんぜん しょうがなくない!
カナタ
見られてたら
食べづらいったら
カナタ
そう 遠慮なく おれの食事姿を 眺める
ご飯の味も余りわからないくらい 緊張する
ケンシ
ケンシ
カナタ
使うんすね
ケンシ
カナタ
いらないっす
むしろ おれが ヒカルに 言いたい
誰かさんのせいで あんまり味のしない食事を 終えた
ケンシ
カナタ
ケンシ
カナタ
ケンシ
カナタ
恐怖…
ケンシ
そう言いながら 会長はおれの食器を 戻しに行った
カナタ
カナタ
ケンシ
カナタ
秒で帰ってきたしな
返却場所 そこまで近くないはず なのに…………
ケンシ
サヤちゃんが
来る前に
ケンシ
カナタ
そのほうがいいっすね
ケンシ
カナタ
ケンシ
そう言うと 会長は立ち上がった
ケンシ
カナタ
おれは頰を膨らませて そっぽ向いた
会長は そんなおれに 抱きついてきた
カナタ
ケンシ
おれの耳元でそうつぶやいた
ケンシ
頼む…
カナタ
そんな声で そんなこと言われたら 動けなくなる
おれを抱きしめる腕は 少し震えてた
ケンシ
ケンシ
カナタ
う、うん…
そう言って病室を出ていった
カナタ
何で 震えてたんだろう
サヤ
サヤさん勢い良く登場
しんみりした空気は一変
カナタ
あのぅ〜…
サヤ
いない!!
カナタ
カナタ
サヤ
サヤ
カナタ
それは
本人に…
カナタ
サヤ
つまんな〜〜〜〜い
そう言いながらおれのほほを 何故かつねってきた
カナタ
サヤ
むかつくぅ!
カナタ
サヤ
カナタ
サヤ
カナタ
帰りますよ…
カナタ
サヤ
カナタ
サヤ
カナタ
えっと…
サヤ
私の相手しなさい!
カナタ
もんのすごく 強引 おれ泣きそう
カナタ
サヤ
カナタ
サヤ
きなさい!
こうしておれは 消灯時間まで
サヤさんにカードゲームや 対戦アプリなどに付き合わされる 羽目になった
看護師
消灯時間時間ですよ〜
カナタ
おれはこれでもかと 元気よく返事をした
サヤ
看護師
今日は遊んでもらえて
良かったじゃん
サヤ
看護師
看護師
サヤ
カナタ
おれ…
カナタ
ですます
そそくさと退散退散
看護師さんは サヤさんのカーテンをシャッと 閉めた
そしてこっちに向かって 来たとき おれの肩をポンと叩いて
指で廊下に来るように合図した
カナタ
トイレ行きたくなってきた
カナタ
誤魔化しながら廊下へ行く
看護師
ありがとうね
カナタ
看護師
あんなに楽しそうなの
久し振りだよ
カナタ
ちょっとイジメに近かった
ですけど…
看護師
下手というか
看護師
退院してもすぐ入院
になっちゃって
看護師
ストレスが溜まっちゃうんだろうね
カナタ
看護師
だよ
カナタ
看護師
自分のうちがこの病院の
経営者で院長だし
カナタ
ごりっぱですなぁ
看護師
彼女が受け入れられる人も
看護師
カナタ
ソウデショウヨ…
看護師
看護師
広坂くんを推したんだよね
カナタ
また迷惑な…
看護師
やっぱこんな広い病室で
一人だし
看護師
カナタ
看護師
誰か自分を
受け入れてくれる人を
まってるのかなー?って
カナタ
イジられてただけっす
看護師
彼女
看護師
殆どないんだよね
カナタ
カナタ
看護師
看護師
カナタ
看護師
広坂くんはあと少しで
看護師
ちょっとでもサヤちゃんに
優しくしてあげて欲しいな
カナタ
カナタ
のびたり
看護師
カナタ
看護師
頼むね
看護師
と言いながら隣の病室に しれ〜っと消えていった
カナタ
カナタ
カナタ
消灯時間だし 寝るしかない!
カナタ
カナタ
カナタ
何故か
何故だか
カナタ
「優しくしてあげて欲しいな」
なんて…
看護師
看護師
カナタ
ござます
看護師
日本語がっ
カナタ
よく眠れたような
違うような…
看護師
でも今日先生の回診終わったら
看護師
元気よく行きましょう!
カナタ
看護師さんは元気だなぁ
看護師
いいですよ〜
カナタ
看護師
サヤちゃん
看護師
寝てるわね
カナタ
カナタ
看護師
起きてるけど
ぐっすり寝てる
看護師
だから
カナタ
看護師
昨日はしゃいだから
疲れたのね
カナタ
大したことしてなっ
看護師
でもね
看護師
長かったりすると
看護師
逆に
看護師
ぐっすり眠れるって
看護師
免疫力も上がるし
カナタ
看護師
広坂くんのお陰ね
看護師
聞いてたら
私、
看護師
カナタ
看護師
看護師
オシャレしたり
友達とスイーツ食べたり
看護師
たくさんあると思うわよ
カナタ
確かに言われてみると…
看護師
じゃあよろしくね
カナタ
行ってしまった
看護師さんは話を切り上げるのが うますぎでしょ…
カナタ
二度寝しようかな…
おれは特にすることもなかったから 再び寝ることにした
ねえっ!
ねえってば!!
誰かがおれをバチバチ叩いてきた
カナタ
もぅ〜
サヤ
カナタ
カナタ
ヘンタイだわっ!
サヤ
カナタ
酷くない?
サヤ
カナタ
ごようでデスカ…
サヤ
外!
中庭!
カナタ
なぜに
サヤ
言われたから!
カナタ
ボク…
検査が…
サヤ
お願いしといたから
心配無用だわよ!
カナタ
朝ご飯は? 検査がなんだって? 今何時??
そんなおれの思考中を ぶった切りながら サヤさんはおれの腕を強引に 持って外へ連れ出された
カナタ
でも
この子の力は 思った以上に弱かった
カナタ
彼女は芝生の上に仰向けで 寝転がった
サヤ
サヤ
サヤ
サヤ
全然違う青い空
彼女は一言一言 噛みしめているようだった 言った言葉とその状況を 全身で受け止めるかのように
サヤ
外の空気凄くいい
サヤ
寝てみなよ
カナタ
言われるがまま 横にねころがった
サヤ
外に出るときも
サヤ
サヤ
大人じゃない人と
外にでた
カナタ
サヤ
慣れすぎてて
つまんない
サヤ
カナタ
確かに年の割には
はっちゃけてない
というか…
おれが言うのもおかしい話だけど…
サヤ
サヤ
全然いいのにさぁ!
カナタ
なんとも…
俺には…
サヤ
アンタのなんなの??
カナタ
カナタ
たまたま生徒会の役員に
なってしまって
カナタ
俺は入院することになったから
カナタ
誤魔化し方100点!
サヤ
サヤ
生徒代表って感じで来てた
感じしなかったけど…
カナタ
そう???
かな…?
サヤ
まぁいいわよ!
カナタ
サヤ
好きな人居るんでしょ?
カナタ
サヤ
そのくらい!
年下にわかるって言われると すげー腑に落ちない!!!
サヤ
その人
サヤ
カナタ
まぁそういう感じに
カナタ
というか…
昨日確かめあったばかりだし!
サヤ
その人が
カナタ
サヤ
それが羨ましいってこと
カナタ
えっとなんか
カナタ
サヤ
カナタ
なんで怒られてるのぉ〜〜〜
サヤ
相手はどんな人?
カナタ
いけないの!?
サヤ
減るもんじゃないし!
減る減らないじゃなくて 噂好きのオバサンみたいになってるよ!
カナタ
サヤ
カナタ
はい!
カナタ
すごく頭がよくて
サヤ
カナタ
としてて
サヤ
カナタ
サヤ
カナタ
カナタ
ひと目見てトキメイた
って感じ
サヤ
めっちゃ尋問みたい…
サヤ
してみたいな…
カナタ
そっか 入退院と大人ばかりって
出会いがないのか…
おれは気の利いたことなど 言えるはずもなく ただ黙ってるしかなかった
サヤ
サヤさんがこっちを向いて 話しかけてきた
カナタ
サヤ
思わなくていいから
一人称がわたしだったりあたしだったり
そんなことどうでもいいか…
カナタ
なんで?
カナタ
変か…
サヤ
一番哀れじゃん
カナタ
カナタ
いるの?
カナタ
いいなーって思う人とか
サヤ
かっこいいなって思う人は
大体誰かのお見舞いだしね
カナタ
なんつーか ほんと駄目だな おれ…
サヤ
脈なしだしさー
カナタ
何かおれのこと じとーっとみてますけどぉ
カナタ
タイプなん…だろうね…
サヤ
サヤ
頭は少し劣るけどスポーツ出来そうだし
サヤ
すごく謎!
会長 微妙にディスられてます
カナタ
会長の周りに居るけどね
サヤ
たくさんいるだろうね
カナタ
凄いよほんとに
カナタ
って女子の中では常に
話題になってるよ
サヤ
すっごくハート強いね
カナタ
そうだね
カナタ
断られる前提だからだろうね
サヤ
わかる気がする
サヤさんも同じパターンだったっけ…
カナタ
本気なの?
サヤ
たぶん違う
サヤ
今は
サヤ
屈託のない笑顔で サヤさんは会長のことを 語った
でも本気じゃないって その話は本当だとわかった
カナタ
その挨拶は
止めたほうが
カナタ
サヤ
しつこくするのも
迷惑かなぁ?
サヤ
これからは普通にしようかな
なんだか やけに 素直ではないか!
そう この子は素直なら かわいい
この子はというか 素直な子はみんな 可愛いと思う
カナタ
それがいい
この澄んだ空が サヤさんの心も
サヤさんに対して嫌だなと 思ってたおれの気持ちも
流されていく雲のように 流されていったような感覚になった
サヤ
アンタをあたしの
同室にした理由が
サヤ
カナタ
カナタ
サヤさんは俺をOKしたの?
サヤ
うーん
サヤ
かなぁ?
カナタ
サヤ
何だったっけ
カナタ
サヤ
高校生だったかなぁ?
カナタ
カナタ
しかもいいこと言われてない!
サヤ
サヤ
人にあんまり興味が
なかったからさぁ〜
カナタ
サヤ
他人を庇って自分を犠牲にしてまで
何かを守ろうとしたり)
サヤ
違って本当に良い奴だって)
サヤ
ちょっとだけ同室に
なってみれば?って)
サヤ
気になったんだよね)
カナタ
カナタ
サヤ
なに??
カナタ
俺と一緒にあの広い
病室で…
サヤ
なんだったっけ?
ほんとに忘れちゃった〜
サヤ
カナタ
そっか…
カナタ
状況だから疲れちゃったよね
カナタ
びょ…病室に戻る?
サヤ
まだ全然満喫してない!
カナタ
サヤ
カナタ
こうしておれの最後の 入院生活は終わろうとしていた