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-異界-
紅に染まるその世界は
溢れる静寂だった。
まるで音が忘れ去られたようなその世界で
ひとつ、生命を証明する音がした。
ぴちゃ
ぴちゃ
ぴちゃ
濡れた足音は世界を震わせ
その紅を際立たせた。
そうして覚醒した意識は
認めることを拒んでいた意識を犯していった
死体
それが今この世界で見受けられるたった一つの物体だった。
散乱するのは血に染まった羽
溶けかけた骨ばった翼
もはや元の姿を知る術の無いものが
その世界を染め上げる唯一の色だった。
その惨状を目の当たりにし立ちつくす最後の双つの命は
眩いばかりの光に包まれ消え
辺りに残ったのは光の残像の漆黒だけだった
二人は人だった
篝(かがり)の家は暖かく、
いつも笑顔に満ちていた。
一方の恋羽(こはね)の家は
溢れるのは罵声と悲鳴だった。
篝は人の優しさに触れた
暖かさに包まれた
そうして思い出した事実は
自らの前世だった。
悪魔
だが今や心の燻りなども無く
黒の骨ばった翼は白い羽で覆われていた。
その記憶の中には
恋羽がいた。
恋羽は人の欲に触れた
腹の内の黒を見た。
悲観した脳内で引きずり出された記憶は
天使
誰もが信じて疑わないその姿をした
自身の姿だった。
だが恋羽の心からは既に
かつての慈しみの情など
白い羽と共に失い
あとに残るのは光を知らぬ硬い膜であった。
記憶の隅に見えた影は
篝だった。
光の声がした
広がった世界は無であった
かつての紅など面影も残さない
劈くほどの無であった
またあの時と同じよう
双つの呼吸音が重なった
篝
恋羽
篝
恋羽
篝
篝
篝
恋羽
恋羽
篝
篝
恋羽
恋羽
篝
恋羽
恋羽
篝
篝
双つの視線は交わり
燃えた