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サイレンの音が、夜の街に響いていた
車の中は、無機質なライトの光で満たされている
蓮斗は俯いたまま、握った拳を震わせていた
——斗愛、お願いだ、目を開けてくれ
喉の奥が痛い
声を出したら、涙がこぼれてしまいそうで
ただ、心の中でその名前を、何度も何度も繰り返した
“萩野斗愛。萩野斗愛。萩野斗愛——”
救急車が急ブレーキをかけたとき、 蓮斗の心臓も止まりそうだった
『もう夜なのでまた明日いらしてください』
看護師さんに言われた。 まだ21時だが入院している人たちの就寝時間だとかなんとか
今僕にできることは何もないので素直に帰る
夜の街は静かすぎた
街灯の明かりがアスファルトに伸びて、 蓮斗の影だけが、ふらつくように揺れている。
蓮斗
ポケットの中に手を入れる
ポケットの中には斗愛からもらったお揃いのキーホルダー
蓮斗
蓮斗
小さく笑ってみせても、声が震える
空を見上げると、星がにじんで見えた
涙なんて、簡単に零したくなかったのに
信号をひとつ渡るたび、思い出が脳裏をかすめる。
笑った顔、拗ねた顔、名前を呼んだときの返事
全部が鮮やかな思い出
まるで“昨日まで”が遠い昔みたいに思えた
家に着いても、電気をつけられなかった
暗い部屋の中 ソファに座り込んで、手のひらに残る温もりを確かめる。
蓮斗
呼びかけても、返事はない。
それでも蓮斗は、 まるでまだそこにいるかのように、静かに微笑んで――
目を閉じた
翌日
病院の白い廊下を、蓮斗はゆっくりと歩いていた
靴音が響くたびに、胸が締めつけられる
扉の前で立ち止まり、深呼吸をひとつ
——大丈夫。生きてる。それだけで十分だ
震える手でノブを回す
扉が開き、ベッドの上に座っている斗愛が振り向いた。
蓮斗
その名前を呼んだ瞬間、 生きていることへの安堵で胸が熱くなった
けれど、次の言葉が、世界を一瞬で凍らせた
斗愛
……え?
蓮斗の呼吸が止まった。 鼓動の音だけが、耳の奥で鳴り響く
目の前の斗愛は、穏やかな表情のまま、 ただ不思議そうに蓮斗を見つめていた
蓮斗
言葉が途中で途切れそうになる
蓮斗
“よく僕のところに来てくれたんだよ”
そう言いそうになって、慌てて口をつぐむ
——あの頃のことは言っちゃだめだ、刺激が強いかもしれない
蓮斗は笑ってごまかした
けれど、視線をそらせば涙が溢れそうだった
斗愛は小首をかしげ、ふっと柔らかく笑う
斗愛
また、その言葉だ。
初めて出会ったときとまったく同じ
その懐かしさに、蓮斗はくすっと笑ってしまった
蓮斗
そう言いかけたところで、蓮斗は真っすぐに尋ねる。
蓮斗
斗愛
蓮斗
蓮斗は言葉を失った
視線が重なり、時間が止まる
斗愛は少し照れくさそうに笑う
けれど、その笑みは確かに、あの頃の彼と同じだった
斗愛
斗愛
蓮斗
蓮斗の頬が熱くなる。 喉の奥が震えて、息を呑む
斗愛
斗愛
そう言って、斗愛は気恥ずかしそうに笑った
その表情が、記憶をなくす前の彼と重なる
蓮斗は笑いながら、こみ上げる涙を拭った
——やっぱり、君は君のままだ
その日、蓮斗は心の中で静かに誓った
“もう一度、君に恋をする”
そしてこの恋はまた、新しい始まりを迎えた