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威榴真side
真新しいテーブルを囲む顔ぶれを眺め 俺の表情に苦いものがさす。
右隣にはネギ塩の澄絺。 正面にはワンタンの夏都。 その隣にはチャーシューの乾。 皆一様に店主の腕を褒めまくり 夏バテなど感じさせない 食べっぷりを披露している。
紫龍いるま
俺の手元にある醤油にしても ついつい替え玉を頼みたくなる ほどに絶品だった。
ここの店も間違いなく当たりだ。
紫龍いるま
記憶を30分程遡ればいいだけの事で 覚えていないわけではない。
ことの起こりは駅前で乾の後ろ姿を 見つけた夏都が一目散に 駆け出したことだ。
ぶんぶんと手を振りながら駆け寄る 様子はまるで仔犬のようだった。
赤暇なつ
赤暇なつ
乾ないこ
夏都にとって乾は下の名前で 呼んだこともなかったような相手だ。
にも関わらず親しげに声をかけ 乾もあっさりとそれに応じてみせた。
紫龍いるま
声も出ない俺の腕を 澄絺が指で軽く突いて言う。
春緑すち
澄絺は何を、どこまで 知っているのだろう。
全てを見透かされているようで 俺はぎくりとする。
迂闊に質問して藪蛇になるのも嫌で 何も言えずにいると 「沈黙は同意」方式により 乾もメンバーに加わることに なってしまったのだ。
一頻り麺を食べ終えると 夏都は待ってましたとばかりに 質問攻めにしている。
話題の中心は 乾の変身ぶりについてだ。
赤暇なつ
乾ないこ
赤暇なつ
赤暇なつ
面と向かって褒められて 気恥ずかしくなったのか 乾は体を縮こまらせて俯く。
乾ないこ
力なく笑う乾に 夏都は励ますように言う。
赤暇なつ
赤暇なつ
始めこそ圧倒されたように 口を開けていた乾だったが 夏都が本音で言ってくれて いるのが分かったのだろう。 照れくさそうな笑顔を見せた。
紫龍いるま
確かに外見は変わったが 公園で俺に挑発的な言動を とったときのような太々しい雰囲気は まるで感じられなかった。
紫龍いるま
これまでは長い前髪で目を隠すように していたし俯き加減でいることが 多かったように思う。
まともに視線が合うのは漫画の話を するときくらいのものだった。
赤暇なつ
夏休み直前、窓の外にいた乾を見て 夏都は眩しそうに目を細めて言った。
俺はそんな幼馴染に 「夏都は夏都のままでいい」 と伝えたが、 本人が心から納得できなければ 意味がないことも分かっている。
紫龍いるま
次の瞬間その場が しんと静まり返った。
不審に思うと同時に 3人の視線が自分に 集まっていることに気付く。
紫龍いるま
赤暇なつ
赤暇なつ
蓮華を握りしめたまま固まっていた 夏都が戸惑った様子で言う。
ちらりと澄絺を見ると 「だね」と頷かれてしまう。
紫龍いるま
心の中で呟いたつもりが 声に出てしまっていたらしい。
上手いこと冗談に変えてしまう方法も 思い付かず俺は気まずさに 視線を彷徨わせる。
乾ないこ
沈黙を破ったのは 夏都でも澄絺でもなく乾だった。
意外だと言いたそうな口調で 目を瞬いている。
紫龍いるま
乾ないこ
乾ないこ
独特な言い回しをするのは 澄絺と似ていた。
だが澄絺と違うのは乾の発言からは 棘のようなものを感じることだ。
紫龍いるま
公園での一件があってからは あながち俺の勘違いでもなかった ことが証明されている。
受け流すべきなのか 受けて立つべきなのか。
迷ったのは一瞬で俺は自分の器から 乾のものへとチャーシューを入れた。
紫龍いるま
赤暇なつ
すかさず声をあげる夏都に 澄絺も悪ノリする。
春緑すち
一気に騒がしくなった2人に 乾が目を瞬かせる。
それからふっと呼気だけで笑った。
乾ないこ
何をとは言わなかったが 淋しげな表情でそれとなく 察しがついてしまった。
俺はその話題に触れるかどうか迷い 自分の感想を溢すだけにした。
紫龍いるま
乾ないこ
乾の返事に俺は彼への イメージを少しだけ改める。
紫龍いるま
恋敵だと認定され 一方的に突っかかってくる 印象が拭えなかったが それだけではなかったらしい。
挑発や嫌味である以前に 思ったことを口にしていた だけなのかもしれない。
もちろん焚きつけるような 発言もあった。
勝負という言葉を持ち出したのも 立場をはっきりさせろと 迫られたようなものだった。
それも俺が蘭を幼馴染以上に 想っていることが前提で。
そこまで考えてはたと気が付いた。
紫龍いるま
争う相手は1人でも少ない方が 良いに決まっている。
相手が様子見している間に 蘭にアプローにした方が 勝率も上がるというものだ。
紫龍いるま
赤暇なつ
考え事に没頭するあまり 横から迫る陰に気付かなかった。
夏都のはしゃいだ声と共に器から また1枚分厚いチャーシューが 旅立っていく。
赤暇なつ
紫龍いるま
春緑すち
打ち合わせでもしたのか 3人が揃うとコントのように なるから不思議だ。
乾も「息ぴったりだね」 などと言って堪えきれずに 笑い出した。
紫龍いるま
聞こえよがしに溜め息をつき 俺は器に手を添えて麺を啜り始める。
そうでもしないと緩んだ口元を 晒す羽目になるからだ。
乾の言う通り、 俺はいい友人を『持っている』
だから降って湧いた乾への疑問は 味わい深いスープと共に 飲み込むことにした。
騒がしくも和やかな 空気を壊さないように。
コメント
2件
投稿お疲れ様です~!! 今後、桃ちゃんをめぐって紫くんと賽桃くんがどうなるのか楽しみすぎます🤭 続き楽しみです!無理せず頑張ってください!!!