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第1話 - あ

2023年08月07日

#スカッと

田中俊樹

キョウコ

キョウコこんな時間まで毎日何してるわけ？

アスカ

何って勉強だけど

キョウコ

嘘ついてんじゃないわよ

キョウコ

塾から連絡あったわよ

キョウコ

最近塾来てないんですが娘さんやる気あるんですか？って

アスカ

あの塾長、口裏合わせてってお願いしたのに

キョウコ

キョウコほんとに私の子？

キョウコ

なんでそんな子に育ったのよ

アスカ

さあね

アスカ

育てる親がかえるなら育つ子もかえるでしょ

キョウコ

誰がかえるですって！？

キョウコ

私もお父さんも慶應を卒業したっていうのに

キョウコ

どうしてあなたは勉強ができないの？

アスカ

私もってお母さん中学から自動的に繰り上がっただけじゃん

アスカ

家がお金持ちだけだっただけでお母さんは大した努力してないと思うよ

キョウコ

は！？

キョウコ

それが親に向かって叩く口ですか！？

アスカ

とにかく私もう少し帰らないから

アスカ

夜ご飯冷蔵庫入れといて

キョウコ

ちょっと！

〜次の日〜

アスカ

今日も夜遅くまで帰らないから

キョウコ

だめよ

キョウコ

許しません

キョウコ

今日は塾が終わったらすぐに帰ってきなさい

アスカ

普通に無理だから

キョウコ

無理じゃないです

キョウコ

もし時間内に帰って来なかったらあなたの本棚の本を全て捨てます

アスカ

は！？

アスカ

それがなんの関係あるのよ！

キョウコ

いつまでもこんな大衆小説ばかり読んでいるからあなたは現実逃避をし続けてしまうのよ

キョウコ

こんなに大量の本を捨てるとなると私の体の負担にもなるから

キョウコ

必ず帰ってきなさい

アスカ

子供の大切なものを奪うことが親のすることなの？

キョウコ

あなたの将来を守るためです

アスカ

私が大学に入ったからって何がどうなるの？

アスカ

私去年の大学受験でお母さんに証明したよね？

アスカ

全問題白紙解答

アスカ

私は大学に入るつもりはないって

キョウコ

あの時はあなたはおかしくなっていたのよ

キョウコ

いや今もあなたはおかしくなっている

キョウコ

いい？大学を出てない人間は最底辺の思いをすることになるのよ

キョウコ

あなたは子供だからそれがわかってないの

アスカ

大人の腐ったレンズで見た世界を私に投影しないで

アスカ

別にそんなことないから

アスカ

今の時代なら尚更

キョウコ

だめよ

キョウコ

それに娘が高卒なんて恥ずかしくて周りの人に話せないわ

キョウコ

もう一浪目なんだから最低でも国立大学…

キョウコ

東大を目指しなさい

キョウコ

学部は問わないわ

アスカ

は！？

アスカ

お母さんどこまで常識ないの！？

アスカ

そんな簡単に東大なんて言わないで

アスカ

私には他にやりたいことがあるの！

キョウコ

それは大学を卒業してからしなさい

アスカ

いやだ！

キョウコ

わがまま言わない！

アスカ

わがままいってるのはどっちよ！

アスカ

大体自分は東大出てないくせに何が東大を出ろだよ！

アスカ

自分は勉強できないくせに！

キョウコ

何よ！

アスカ

私の人生の邪魔をしないで！

アスカ

私はやりたいことをやって生きてるの！

アスカ

本当はさっさとこの家を出て行きたいくらいよ！

キョウコ

そんなの絶対許しません

キョウコ

女で一人暮らしなんて危なすぎてさせるわけにはいきません

アスカ

とにかく今日も家に帰らないから！

キョウコ

アスカ！

〜次の日〜

アスカ

私もうこの家出るから

キョウコ

だめです許しません

アスカ

ほんとに捨てるなんて

アスカ

信じられない

アスカ

夜の間に荷物まとめて家出たから

アスカ

もう帰りません

キョウコ

だめよ

キョウコ

帰ってきなさい

アスカ

帰るわけないでしょこんな監獄みたいなところ

アスカ

あの本にはお母さんに昔買ってもらった本もたくさんあったのに

キョウコ

大学に受かったらまた買ってあげるわよ

アスカ

そういう問題じゃないから

キョウコ

あなたが大学に行かない理由私知ってるんだからね

キョウコ

毎日夜遊びして外に彼氏でもできたの？

アスカ

は？

アスカ

なんの話

キョウコ

あなたのクレジットカードの利用履歴を見させてもらったわよ

キョウコ

毎日いろんなところにお出かけして

キョウコ

あんた色々文句言ってるだけでただ勉強したくないだけでしょ？

アスカ

最低

アスカ

どうやって娘のクレジットカードの履歴を見るのよ

キョウコ

普通にクレジットカード会社に親として問い合わせたわよ

キョウコ

それじゃあ昨日は銀座なんてところになんのようだったわけ？

アスカ

それは

アスカ

いえない

キョウコ

どうしてよ

アスカ

いえないから

キョウコ

私の言ってることが図星だからでしょ

アスカ

違う！

キョウコ

とにかく

キョウコ

あなたは大学受験をして東大に入りなさい

キョウコ

それまで勉強以外のことは全て禁止よ

キョウコ

あなたの監視役もつけます

アスカ

監視役？

キョウコ

あなたが塾をサボってないか確認するためよ

アスカ

そんなの許さない

キョウコ

あなたが許さなくてもやるの

アスカ

私大学行きたくないって言ってるじゃない！

アスカ

普通に働きたいの！

キョウコ

前も言ったけどね

キョウコ

大学を卒業しないと社会では大人として見られないの

キョウコ

どこの大学を卒業するだけでその人の全てが決まるのよ

キョウコ

高卒なんて人間として見ることもできないわ

アスカ

それならお母さんは私が大学出なかったら人間として見ないの？

キョウコ

そうよ

キョウコ

私たちの子供が高卒であってはいけないの

キョウコ

私たちの娘は完璧でなくちゃならないんだから

アスカ

そんなのおかしいでしょ

アスカ

私の尊敬する人の中には高卒の人だっているし

アスカ

大学なんて別に関係ないでしょ

キョウコ

あなたには小さい頃から色々なことをさせてきた

キョウコ

ピアノ、芸術、ダンス、帝王学…

キョウコ

どれも並程度にしかできなかったんだから

キョウコ

せめて勉強で結果出しなさいよ！

アスカ

昔からそうだってよね！

アスカ

全部自分達のため！

アスカ

私の意見なんてお構いなしで勝手にやらせて勝手にガッカリして！

キョウコ

あなたの意見を聞いたこともあったじゃない

キョウコ

あなたが小説家になりたいって言ったから小説を書かせた時期もあった

キョウコ

けれどあなたが応募したコンテストでは二次選考止まり

キョウコ

才能がないことを自分で証明したじゃない

アスカ

その後お母さんは私に小説を書くことを禁止させたのはなんで？

キョウコ

もちろん時間の無駄だからよ

キョウコ

才能がないものに欠ける時間はないのよ

アスカ

でも何回も書けばどんどん上手に書けるようになるでしょ！？

キョウコ

ましてや小説なんて時間がかかるもの効率が悪いでしょ

キョウコ

結局凡人を輝かせるのは勉強なのよ

キョウコ

だからあなたは勉強をするしかないの

アスカ

私はお母さん達の道具じゃない

アスカ

アクセサリーでも無いのよ

キョウコ

でも子供は親の言うことを聞くものよ

〜すぐ後〜

アスカ

お父さん

アスカ

お母さんに本を全部捨てられた

アスカ

どうにかしてよ！

アスカ

私を自分の言いなりにしようとしてくるの！

ゲンドウ

そうか

ゲンドウ

お前、あんまりお母さんを困らせるな

アスカ

お父さん！

ゲンドウ

これから俺は仕事だから

ゲンドウ

二人の問題に巻き込まないでくれ

アスカ

家族の問題よ！

アスカ

お父さんは他人事だと思ってるわけ！？

アスカ

信じられない！

アスカ

私もう家でるから

アスカ

いい？

アスカ

…

アスカ

クソジジイ！

〜すぐ後〜

アスカ

お父さんにも呆れた

アスカ

もう私家でるから

アスカ

もうこの家にも戻らない

キョウコ

何言ってるのよ

キョウコ

そんな事させないわ

キョウコ

あなたアルバイトもしてないのよ？

キョウコ

お金はどうするの

キョウコ

私たちは一円も出さないわよ

アスカ

別に出してもらおうなんて思ってないよ

キョウコ

ならどうするつもりなのよ

アスカ

私他に家持ってるから

キョウコ

へ？

キョウコ

あんた何言ってるの

アスカ

編集者のマヤさんに書斎用意してもらってるの

アスカ

銀座に

キョウコ

待って編集者って何よ

キョウコ

あんた何言ってるのさっきから

アスカ

私ね

アスカ

小説家デビューしてるのよ

キョウコ

へ？

アスカ

「雷鳴の鼓動」

アスカ

私のデビュー作品

キョウコ

雷鳴の鼓動ってこの前テレビの特集でやってた

キョウコ

直木賞ノミネート確実の衝撃の新人作家デビュー作品ってやつ！？

アスカ

お母さん知ってたんだ

キョウコ

あれがアスカの作品…

アスカ

顔出しでインタビューも何回か受けてるのにほんと娘に興味ないんだね

アスカ

興味あるのは娘を自分の思い通りにすることだけ

キョウコ

ちょっと待って

キョウコ

あなたあれから小説書いてたの？

アスカ

私は初めて小説を書いて新人賞へ応募した時

アスカ

全然評価されなくてすごい落ち込んだの

アスカ

後から自分で読み返してすごくガッカリしたわ

アスカ

こんなに拙い文を私書いてたんだって

アスカ

次書いたら絶対に上手くかける

アスカ

そんな自信があった

キョウコ

待ってよ

キョウコ

そんなひどい文を書いていたの？

アスカ

そうだよね

アスカ

お母さんは読もうともしなかったもんね

アスカ

お母さん活字慣れしてないから読めなかったのかな？

キョウコ

本なんてただの娯楽本でしょ！？

アスカ

その時点でお母さんの学のなさが見えるよ

アスカ

お母さんはその後私に小説を書くことを禁止した

アスカ

しばらくはショックを受けてたから馬鹿みたいにお母さんのいうことを聞いてた

アスカ

でも大学受験の年

アスカ

私は小説家の夢を諦めきれなくてもう一度チャレンジすることにしたの

キョウコ

何それ！

キョウコ

そんなの聞いてない！お母さんに隠してたのね！

アスカ

今回書く話はすごい自信があったし前回の反省点も踏まえてた

アスカ

私は勉強に励んでると見せかけて毎日小説を書き続けた

アスカ

そして新人賞に応募した

キョウコ

その結果が…

アスカ

大賞受賞、賞金300万と出版決定

キョウコ

嘘でしょ…

アスカ

賞を取れたのは正直お父さんとお母さんのおかげでもあるよ

アスカ

私は自分の実体験を濃密に混ぜて物語を執筆したからね

アスカ

毒親への解像度はすごく高く表現することができた

アスカ

それが親や上司へ不満を持つ人たちの共感を巻き起こしたみたい

キョウコ

待って何よそれ

キョウコ

毒親って何よ！

アスカ

お母さんとお父さんはいっつも気にしてる世間様から「毒親」認定されたってことよ

アスカ

おめでとう

アスカ

私の実体験も混ぜて書いてあるって公表してるから

アスカ

あなた達のことを世間ではよく思われてないかもね

キョウコ

アスカどうして…

キョウコ

どうして親に対してそんなひどいことができるの！？

キョウコ

育てた恩を仇で返す気！？

アスカ

育てた恩？支配してただけでしょ

アスカ

それに最低限育てるのは産んだ親の義務だよ

アスカ

安定した衣食住を用意してくれていたことだけ感謝するわ

キョウコ

なんで今まで私に小説家デビューしたことを黙ってたのよ

アスカ

お母さん私になんて言ったか覚えてないの？

キョウコ

え？

アスカ

「小説家なんて結局子供遊びの延長戦でしょ」

アスカ

「妄想を描きつらって世間へ公表するなんて恥ずかしくて私にはできない」

アスカ

「世間に必要な仕事ではないわよね」

キョウコ

それは

アスカ

こんな人に小説家になりましたなんて言っていい結果になると思う？

キョウコ

もちろんこんなにヒットしてるなら褒めるわよ！

キョウコ

こんなすごい偉業を成し遂げるのは人類のナンパーセントかしら！

キョウコ

少なくとも私の友達の子供の中では一番すごいわ！

アスカ

そんな考え方しかできないの…？

アスカ

可哀想な人

キョウコ

アスカに何言われても別になんでもいいわよ

キョウコ

私の娘がすごい結果を残したっていうのが大切なんだから

キョウコ

私たちの育て方は間違ってなかったのよ

アスカ

私もうあんたの娘じゃないから

アスカ

私はあなた達と親子の縁を切る努力を最大限するつもり

キョウコ

何言ってるのよ

アスカ

もう私の娘とも家族とも言わないで

アスカ

全てのインタビューで私は答えてるから

アスカ

この話に出てくる毒親は私の親がモデルですって

アスカ

だからあんたの友達もみんなあなたの事を軽蔑してると思うわよ

キョウコ

そんな

キョウコ

他の人に認めてもらわないと意味ないのに

アスカ

ほら

アスカ

結局あなたは自分が何者にもなれなかったから

アスカ

理想を私に押し付けてただけなのよ

アスカ

いい？これは私の偉業であなたの偉業ではないから

アスカ

それに私とあなたは無関係

アスカ

自慢にも使わないで

キョウコ

そんなこと言わないでアスカ？

キョウコ

あなたの活動を全力で応援するわよ

キョウコ

あなたみたいな人間はそうそういないわよ！

アスカ

高卒は人間として見られないんじゃなかったっけ

アスカ

自分自身の軸もないのね

アスカ

そうそう私あんたの見下してた高卒だけどさ

アスカ

あんたより年収何倍も高いからねwお疲れwww

〜後日談〜

アスカ

その後私は次々とヒット作を生み出し、日本を代表とする小説家となりました

アスカ

今は両親の苗字を名乗らずペンネームを使うことにしています

アスカ

母親は私の小説を読んだ友達達からは距離を取られてしまい

アスカ

母親を評価する人は誰一人としていなくなってしまいました

アスカ

両親には住んでいる場所も連絡先も教えていないので全く会っていません

アスカ

今ではもう母親の顔も思い出せません

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田中俊樹

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