MIRA
MIRA
万人に忘れ去られたかの様な煤けた書架の一角に、妙に人を惹きつける一種の異様な雰囲気を漂わせる本が一冊寄りかかっていた。
突然、ふわりと部屋に舞い込んだ風にずるりとバランスを崩した本は鈍い音をたて床に転がった。。
色褪せた表紙に、金箔の剥げ落ちてしまった飾り文字。
表紙にはかろうじて「セイレーンと勇者のお話」と書かれていることがわかる。
しかし、その下にも規則的な凹凸が微かに感じられる。
きっと何か副題でも刻まれていたのだろう。けれど、こちらの方は刻印された痕跡のみを残して姿を消してしまったらしい。
古ぼけた表紙が捲られ、パラパラと紙の擦れる音が響く。
永すぎる年月の前に滲んでしまった文字が、
まるで素敵な御伽噺を歌い聞かせるように
まるで幸せの物語を吟じるように
残酷な夢を紡ぎ出す。
☆*:.。. o .。.:*☆
母
母
母
子
子
母
母
母
母
子
子
母
母
子
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
母
子
母
母
子
子
子
こくり、こくり
赤ちゃんの目がうつらうつらと揺れました。
母
母
母
子
子
母
子
子
母
母
母
子
母
母
母
母
母
母
子
子
母
母
子
母
母
母
子
子
母
母
母
母
子
母
母
母
ねぇ
人魚って、知ってる?
知ってるよ、美しい声の海の精霊。
不老不死の、妖精さん。
じゃあ、セイレーンって、知ってる?
知ってるわ。
おぞましい海の怪物。
綺麗なのは外見だけ。
人を喰らう化け物よ。
セイレーンは人喰い人魚。不死の人喰い人魚。
けれど、人魚は老いず、セイレーンは老いる。
そうよ、そうそう。その通り。とってもよく、ご存知なのね。
けれど、セイレーンは不死ではない。
けれどもまぁ、不死みたいなものよね。
そうよ。
セイレーンは身体を五つに捩じ切られても死なないわ。
そうだわ。
セイレーンは全ての血を絞り切っても死なないわ。
その通り。
本当によく、知っているのね。
あぁではこれは、もう知っているかしら?
人喰い人魚の
殺し方
知らない!
知らないわ!
なら特別に教えてあげる。
一つ目は…一つ目はそんなに難しいことじゃあ無いわ。
一つ目は、寿命を待つこと。
そして、
二つ目は…
ふふっ、二つ目はね…
ザ、ザザザザザ…
ザザーン
雪のように白い砂浜に、エメラルド色の波が寄せる。
ザザーン
ザザ、ザザザザザ…
あたりには、見たこともないような
透きとおりオーロラ色に輝く貝殻
虹を切り取ったかのようなシーグラス
パステルカラーの家を背負ったヤドカリたちが
夢も漫ろに転がっている。
目の前でプラチナゴールドの髪が揺れる。
蘭
蘭
蘭
蘭
蘭
蘭
蘭
この子は…
この子は
誰だったか。
蘭
蘭
蘭
蘭
思い出せない
蘭
蘭
この子は、誰だ?
ねぇ、君の…
蘭
蘭
蘭
蘭
鮮明に残る夢の感触が
いいようもなく気持ちが悪い。
蘭
日に焼けた砂浜に潜り込ませた指先
波に晒した足首
しっかりと残っているように感じる。
竜胆
蘭
蘭
蘭
竜胆
竜胆
竜胆
蘭
竜胆
蘭
竜胆
竜胆
竜胆
バタン
大きな音を立てて扉が閉まる。
どうやら竜胆は相当ご立腹のようだ。
蘭
蘭
そういって蘭はもぞもぞとベットから起き上がった…
大輪の花が咲いたかのような豪奢なシャンデリア
ドワーフが細工を行ったとまで思わせる品の良い調度品。
女神の衣のようにふんわりと、シャンデリアの輝きを受けキラキラ光るカーテンには美しい蘭の意匠が施されていた
磨けあげられ宝石のように輝く銀食器も、
爛々と輝く冠をのせる優雅な蝋燭立てにも、
至る所に金銀様々な蘭の花が咲いていた。
それもその筈
何故なら今日は
ここら一帯にひしめき合う国々の中心、アシェンプテル帝国の皇子。蘭の17歳の誕生日なのだから。 そして、この国では17歳は成人の年でもあった。
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
妙齢の貴族
矢鱈と派手な、露出の激しいドレスを着た妙齢の女が丸々と肉のついた腰を泥鰌のようにくねらせながら蘭の方へと擦り寄る。
蘭
妙齢の貴族
妙齢の貴族
女はそれなりの階級なのだろう、その強調する様に開かれた胸には精緻な家紋が余りに不釣り合いに佇んでいる。
蘭
そんな女を前に蘭は一言も発しないでいる、その様子に気づき、蘭に近づく人影があった。
竜胆
そそくさと蘭の元へ駆けつけてきた竜胆は限界まで絞ったこえで蘭にそう尋ねた。
蘭
蘭
蘭
竜胆
蘭
竜胆
蘭
蘭
竜胆
竜胆
蘭
竜胆
竜胆
蘭
蘭
蘭
蘭
竜胆
竜胆
蘭
妙齢の貴族
妙齢の貴族
蘭
竜胆
妙齢の貴族
竜胆
蘭
竜胆
竜胆
蘭
蘭
妙齢の貴族
蘭
蘭
蘭
妙齢の貴族
妙齢の貴族2
妙齢の貴族2
蘭
蘭
竜胆
蘭
妙齢の貴族2
妙齢の貴族2
妙齢の貴族
妙齢の貴族
蘭
竜胆
蘭は勿論、竜胆すらも目的としてこの舞踏会に参加した貴族女性は溢れるほどいた。
普段はお目になど滅多にかかれぬ見た目麗しい王子二人、その二人が揃っているのだから、貴族女性の恰好の的になるのは当然であった。
貴族の女達
貴族の女達
貴族の女達
貴族の女達
いつの間にか蘭と竜胆の周りには貴族の女性たちによる人だかりができていた。
蘭
夢を切りとったかのような空。
燦々とした青空でもなく、叙情的な夕暮れでもない不思議な空。
蘭は父からもらったキセルを燻らした。
蘭
遠くの方から届く竜胆の悲鳴が、耳を掠めて海に融けていく。
蘭
蘭
甲板に響くファンの音も、
客間から聞こえるふんわりとしたざわめきも、
キラキラと揺らめくグラスの触れ合いも、
全て、果てなく思える海に弾けて消えてゆく。
蘭
蘭
脳裏に先程の気色の悪い女共がよぎる。
蘭
蘭
蘭
蘭
蘭は父からもらった忌々しいキセルを燻らした。
こんなに綺麗な空なのに、蘭の心は晴れない。
蘭
と、その時
ぐらり
船が傾いだ。
その瞬間、蘭の手を離れたキセルが
音もなく、海に飲み込まれていった…
竜胆
竜胆
大広間に隣接する客間で竜胆は小さく息を吐いた。
竜胆
どうやら竜胆は大広間に溢れるお嬢様方ときゃっきゃうふふな鬼ごっこを逃げ切ってきたあとらしい。
竜胆
竜胆
ふと、竜胆の脳裏に不穏な考え方がよぎる。
竜胆
竜胆
竜胆
竜胆
竜胆
竜胆
杞憂であってほしい、そんなわけがない。
竜胆
疲れ果てた竜胆は、考えることをやめた。
煌々と輝く満月の下、静かに海が横たわっていた。
そんな暗く、深い海の底。
俗に深海と呼ばれる人間の立ち入ることのできぬ領域で、
目が眩むような、それはそれは華やかな宴が開かれていた
ココ
ウェール
ココ
ウェール
ココ
ココ
ココ
ウェール
ウェール
ウェール
ウェール
ウェール
ウェール
ココ
ココ
ウェール
ココ
ココ
ココ
ウェール
ココ
ココ
ココ
ココ
ウェール
ウェール
ウェール
ココ
ココ
ココ
ココ
宴の間に溢れかえっていたのは、
無数の人魚達だった。否、
正確にはセイレーンだが。
色とりどりの鱗が輝き、鰭がひらめく。
そう、今日はウェール130歳の誕生日。そして、成人の儀を執り行う日でもあった。
センジュ
ココ
ココ
ウェール
ココ
ウェール
ココ
ココ
ウェール
センジュ
センジュ
センジュ
ココ
ココ
ウェール
ココ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
ココ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
ウェール
ウェール
センジュ
センジュ
センジュ
ウェーーーーーーーール‼️
水が圧となり波紋となりウェール達の方へと押し寄せる。
ウェール
センジュ
ココ
ココ
ウェール
ウェール
ウェール
ココ
ココ
ココは一人、異質な蛸の足を大きくくねらせながら人混みの中へと消えていった。
アレス
ウェール
アレス
アレス
アレス
ウェール
ウェール
センジュ
センジュ
そうしてアレスに首根っこを掴まれたウェールはずるずると引き摺られていった…
執事 ワダツメ
VIP、親族会場に執事のよく通る声が響き渡る。
水の揺れがウェールのいる特別室へ段々と近づいてくるのがわかる。
そう思うやいなや特別室の簾が開かれた。
レヴィメス
レヴィメス
ウェール
ウェール
ウェール
レヴィメス
レヴィメス
ウェール
ウェール
ウェール
レヴィメス
レヴィメス
レヴィメス
ウェール
ウェール
レヴィメス
レヴィメス
執事 ワダツメ
サンテクチュアリ
レヴィメス
レヴィメス
レヴィメス
サンテクチュアリ
レヴィメス
サンテクチュアリ
レヴィメス
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
レヴィメス
ウェール
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
レヴィメス
レヴィメス
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
ウェール
サンテクチュアリ
ウェール
サンテクチュアリ
そういいながらサンテクチュアリが側仕えに合図を送るとどこからともなく煌びやかな覆いの掛けられた豪奢な台座が現れ、ウェールの目の前に鎮座した。
サンテクチュアリ
サンテクチュアリが掛かっていた布を取り去るとそれは美しい宝石が姿を現した。
空と海の境を切りとったかのような浅縹色の宝石は深海の僅かな光を内に含んでキラキラ光り、
その周りには、あまりに精緻なリバイアサンの稚魚をモチーフにした装飾が施されている。
欲しい
ウェール
欲しい欲しい欲しい
ウェール
そのイヤリングを前にすると、泉のように物欲が湧き出してくる。
ウェール
欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
ウェール
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
ウェール
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
ウェール
ウェール
センジュ
センジュ
センジュ
サンテクチュアリ
センジュ
サンテクチュアリ
ウェール
センジュはしまったと言うように固まり、ウェールはそんなセンジュに向けて祈りのポーズを捧げた。
サンテクチュアリ
センジュ
センジュ
センジュ
センジュ
ウェール
センジュ
サンテクチュアリ
センジュ
母の姉であるサンテクチュアリを筆頭とした親族のお姉様方は小さな頃に母を亡くしたアレス、ウェール、センジュの面倒をずっと見てくれたお母さんのような存在なのである。
サンテクチュアリ
センジュ
センジュは焦ったように捲りあがったドレスからはみ出た鰭を隠した。
MIRA
サンテクチュアリ
センジュ
サンテクチュアリ
センジュ
サンテクチュアリ
センジュ
サンテクチュアリ
ウェール
サンテクチュアリ
そんな会話をしていると
ふと、センジュが台座の上で輝く宝石に気がついた。
センジュ
サンテクチュアリ
センジュ
センジュ
センジュ
ウェール
ウェール
センジュ
センジュ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
ウェール
ウェール
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
サンテクチュアリ
そういうとサンテクチュアリはその長い睫毛に縁取られた美しく大きな瞳をパチン、と瞬かせた。
高評価一万越したら続き書きます。
コメント
6件
続きが気になります
嬉しいなぁー
うわぁぁ!私もほぼ毎日ハートしにきてたけど10000いってる!?おめでとうございます(?)