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この情報量クセになる。
らんらん♪ らんらららん♪
らんらん♪ らんらららん♪
世界が錯乱としていた。
折れたヴァイオリンの悲鳴。
どこからか聞こえる幼子の歌。
虹のガラス玉。
ああ、そうか。
転生とか……あれ全部、夢だったんだ。
だって私――
死んだじゃないか。
壇上にあがる、おばあちゃんと私。
おばあちゃんはステージ中央まで歩き、マイクを手に取る。
オーディエンスも湧く。
おばあちゃんが、パステル調の校長先生だった。
自宅警備員
『ギュイーーーンッ!』
辻さちこ
辻さちこ
マッチョ
マッチョ
マッチョ
辻さちこ
マッチョ
マッチョ
辻さちこ
ドラムの辻さちこも壇上にあがった。
辻さちこ
チアガール
私は三弦ベースを響かせた。
辻さちこ
辻さちこも美声を響かせる。
自宅警備員
そして、これらの突出した要素を田村がギターで律し、一つの音楽としていく。
チアガール
マッチョ
マッチョ
炸裂するシャウト。
会場は爆発的に盛り上がっていく。
辻さちこ
後に、オーディエンスの一人。サラリーマンの三朗はこう語る。
三朗
三朗
三朗
三朗
三朗
三朗
三朗
三朗
辻さちこ
辻さちこ
叫び歌いながら、さちこは一気に走り出す。
そして、壇上から飛び出した。
自宅警備員
チアガール
『ギュインギュインギュイーーン!!』
『ギィィィーーー!!』
チアガール
チアガール
三人は暴れる。
何も彼らを抑えはしない。
しかし、それは散乱ではなく、衝突であった。
この無秩序が――興奮が!
音楽を魔に染めていく!
それはもはや! 音楽ですらない!
いつしかオーディエンスは声を出すことも忘れていた。
ただ今は呑まれていたかった。
ああ! 消費的事象で構築された現世は崩壊していく!
三朗
三朗
三朗
辻さちこ
自宅警備員
チアガール
刹那、光が乱弾!!
狂気は常に、理性にこそある!
醜い羊の子たちは、泣き叫ぶ。 「そこには何もないというのに!!」
ああ、人類。
人類が、人類が、人類が!!
さあ答えよ。その衝動が仮に本能だとして、貴様はそれでも人間か!
東京都渋谷のスクランブル交差点。
仮に地球が滅んだとて、貴様はそれを未だに求めるのか。
ああ、そうさ。とっくにぼくらは腐っている――狂っている!
ステージから眺める世界は、どこを切り取っても輝いていた。
それはアニメや漫画のようにハッキリと見える場所ではない。
照明とペンライトの閃光が、霧の向こうにあるように、ぼやけて見える。
虹のガラス玉が網膜を転がっていた。
哲学に毒された少年は、今夜バイクを盗み、走り出す!
全ては日本の五月の気象が悪いのだ。
さあ、目覚めよロック! 目覚めよ人間!
チアガール
辻さちこ
『うぉぉぉぉぉーーーーッ!!!』
会場は、拍手と声援に潰されて死んだ。
ああ、なんて素晴らしき日だろうか。
ああ、ああ……
なに……してんだろう。
私。
あれ……
(精神体)
手術台に私が倒れている。
左半身にいくつもの糸を縫った様子で、
今は腹を裂かれ、何やらメスを入れられているところだ。
(精神体)
『らんらん♪ らんらららん♪』
『らんらん♪ らんらららん♪』
(精神体)
幼子の歌が私を狂わせる。
そこにいるもう一人の私の見る世界が、脳みそにどくどくと流れて、ゲロを飲み込むみたいに混ざってしまう。
狂ってしまう。
無影灯の強い光は、ガラス玉のようで。
耳鳴りは、折れたヴァイオリンの悲鳴のよう。
そんなことはわかっているのに……わかっているというのに!
人類は――。私は……私は……!
(精神体)
(精神体)
(精神体)
手術台を挟んで向こうに立つ、その少女が言った。
(精神体)
(精神体)
(精神体)
少女が言うと、たちまち霧が部屋にあふれ、彼女はそこへ姿を消した。
しかし、するとその影は巨大なものに変わっていって。
(精神体)
(精神体)
背から二つの巨大な腕を生やした――青年の姿になった。
六つの瞳が赤く輝いて、こちらを見ている。
「あなたがわるいのよ……ぜんぶ、全部。」
「あなたがいつまでも、怠惰で間抜けなあなただから、」
「周りの人たちが、苦しむ羽目になるの。」
「わからない? わかっているんでしょう? もう、とっくのとうに。」
「なのにそうやってうずくまって、隠れてばかりいるから。」
「だから、殴られるし、蹴られるのよ。」
(精神体)
その影の巨大な腕は、手術台に倒れていた身体を、つまんで持ち上げた。
マカロン
しかし、それは私ではなかった。
父の小説の主人公、マカロン。
「あなたがそうしているから、こうなるのよ。」
影はマカロンを両手で、それぞれ足と胸をつまんだ。
子供が人形で遊ぶみたいに、その身体を捻くり回していく。
関節や骨、筋肉に神経。
壊れてはいけないたくさんのものが壊され、彼女の血が床を這う。
それが波を立てるたびに、私は考える。
彼女が、私の脚に腕を絡ませ――へばりついてくる。
眼球のくり抜かれ顔で、二・三本だけ残された歯を見せつけてくると、
何かを必死に伝えようとしてくる。
しかし、その舌は先端が切れてしまっていて、それが声となることはない。
それでも、限りない絶望と生きることへの思いが、彼女を動かし続ける。
ただ生きたい、その一心で彼女は私に訴えかけてくる。
目がなくとも、強いまなざしを向けて。
しかし、私は彼女を拒否する。
そして彼女の腕から徐々に力が抜けていって、へばる時には私は、内心それを邪魔だとか思う。
現実に打ちのめされつつも、最期は笑って終えよとしていた彼女を、私は蹴り転がすんだ。
(精神体)
言葉を零し、その反道徳的な獣に気色が悪くなる。
私はこれが二日酔いのようなもので、時間が経てば収まると知っているが、それでも苦しいように振舞って見せる。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんで。
(精神体)
(精神体)
(精神体)