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第1話 - あ

2023年12月27日

#恋愛

結城　真矢

マヤ

セイヤ

マヤ

今日の進路面談で言っていたこと、本気なの？

マヤ

製菓の専門学校に行きたい、だなんて...

セイヤ

本当だよ

セイヤ

俺、パティシエ目指したい

マヤ

何言ってんの

マヤ

専門学校なんて高いんだし、そんなところ行かせてあげられるわけないでしょ

セイヤ

でも、俺はもう行く、って決めたから

セイヤ

だから、自分でもうアルバイトもして、入学資金貯めてるよ

マヤ

あのね、どれくらいお金がかかるのか、知ってるの？

マヤ

製菓専門学校なんて、設備費ですごいお金がかかるの

セイヤ

知ってるよ

セイヤ

でも、もうすでにお金貸してくれる友達も見つけてるから、

セイヤ

バイトと、友達からの借金で行くつもりだよ

マヤ

友達からお金借りるなんて...

マヤ

そんなこと、していいと思ってるの？

セイヤ

これは、完全に俺の自己責任だから

セイヤ

ほとんど俺のアルバイト代で稼ぐけど、それでも足りないのは分かってるから、

セイヤ

友達の力も借りるんだよ

マヤ

そういう問題じゃないの

マヤ

友達との間では、お金の貸し借りはやめなさい

セイヤ

だって、しょうがないだろ！

セイヤ

母さんは全く支援してくれないんだから...

マヤ

当たり前でしょ！

マヤ

うちには今、そんな余裕はないんだから...

マヤ

あんまり、わがまま言わないで

セイヤ

わがままじゃないって

セイヤ

うちが貧乏、って分かってるから

マヤ

セイヤには苦労させて、あんまり贅沢な思いさせられなかったのは申し訳ないよ

マヤ

でも、そんな言い方しなくたっていいじゃないの

セイヤ

そもそも...

セイヤ

母さんが父さんに逃げられたのが悪いんだろ？

マヤ

何を今さら...

セイヤ

俺がまだ生まれる前のことだったから、分かんなかったけど...

セイヤ

どうせ、仕事の方を優先して、愛想つかされたんだろ？

セイヤ

そんなことくらい、だいたい予想できるんだよ

マヤ

方向性が合わなかったから、その時はお互いに分かれるのが一番いい方法だ、

マヤ

って結論になったの

セイヤ

その時に、母さんが少しでも妥協したらよかったんじゃないの？

セイヤ

どうせ、強引に話を進めようとしたんだろ？

マヤ

確かに、今考えたらもう少し、良い話し合いはできたのかもしれないけど...

マヤ

そんなこと、今更ぶり返したってしょうがないでしょ？

マヤ

もう、やめてよ

セイヤ

何だよ...

セイヤ

そうやって、納得いくような言い訳考えて、逃げてるだけじゃん

セイヤ

ほんと、母さんのそういうところ、嫌いなんだよ

マヤ

母さんだって、努力しようとしたの！

マヤ

でも、ダメだったんだからしょうがないじゃん

セイヤ

俺にはいつもうるさいくせに、自分には甘いんだ

マヤ

そんなこと、言わないでよ...

セイヤ

でも、母さんがその気なら、俺も好きにしていいでしょ

セイヤ

もう、高校生なんだし

セイヤ

自分の進路くらい、自分で決めさせてよ

マヤ

母さんは、そんなプロフェッショナルにならないと稼ぐのが難しい仕事には、

マヤ

簡単になりたい、なんて言えるもんじゃない、って言ってるの

マヤ

上手くいかなかったら、借金するかもしれないし...

マヤ

そうなったら、あとで苦労するのはセイヤ、あなたなのよ？

セイヤ

そんなの、分かってるよ

セイヤ

でも、俺はここで諦めて、後悔する方が嫌だから

セイヤ

高卒で就職なんてしても、どうせやりたくない仕事で愚痴言うかもしれないし...

セイヤ

そんな惨めな人生、俺は送りたくない

マヤ

なんでそんなに頑固なの...

マヤ

少しは、母さんの言うこと聞いてほしいんだけど

セイヤ

でも、俺すでにアルバイトも始めてるから

セイヤ

高校卒業したら、１人暮らし始めるし

マヤ

は！？

マヤ

何言ってんの！

マヤ

セイヤに、いきなり１人暮らしなんてできるわけないでしょ？

セイヤ

母さんに、いつまでも甘える環境があると、

セイヤ

専門学校でもやっていけないと思ったから

セイヤ

自分でしっかり、生活して仕事していくために...

セイヤ

忍耐力でもつけようと思って

マヤ

別に、甘えてたらいいのに...

マヤ

まだ高校生なんだから

セイヤ

そんな子供扱いするなよ！

セイヤ

とにかく、俺はもう自分で準備してるから

～１年６か月後～

セイヤ

トモキ

セイヤ

明日の実技って、何の課題だったけ？

トモキ

明日は、ナッぺとクリームのデコレーションじゃない？

セイヤ

うわ～まじか

セイヤ

一番苦手なやつだ

トモキ

あれ地味なうえに、難易度高いもんな

トモキ

俺も苦手

セイヤ

ま、頑張るか

セイヤ

学内コンテストも近いし

トモキ

あっ、そのことでセイヤに聞こうと思ってた

トモキ

セイヤ、コンテストに出すデザイン、もう決めたの？

セイヤ

うん、決めたよ

セイヤ

早く練習もしたかったから

トモキ

へ～そうなんだ

トモキ

どんなやつ？

セイヤ

それは、教えないけど...

セイヤ

今回のケーキは、特別だから気合い入れた

トモキ

へ～

トモキ

テーマは、大切な人へ、だっけ？

トモキ

セイヤ、彼女なんていたっけ？

セイヤ

いねーよ

トモキ

なんだよ、仮想彼女か

セイヤ

ま、そういうことでいいよ

セイヤ

トモキも、本気出して作品作れよ

トモキ

当たり前だろ

トモキ

俺の本気、舐めるなよ

~学内ケーキコンテスト当日～

セイヤ

トモキ！

セイヤ

お前、俺のデザイン...

セイヤ

盗んだのか...？

トモキ

は？何言ってんの？

トモキ

そんなわけねーじゃん

セイヤ

だって、おまえの作ったケーキ、

セイヤ

机の上に置いてあるやつ見たけど、

セイヤ

全く俺のものと同じじゃん！

トモキ

あれ？そうだったの？

トモキ

じゃあ、被ったのかもね

セイヤ

お前、ふざけるのもほどほどにしろよ...

セイヤ

こんなんじゃ、優勝なんて狙えるわけねーじゃん

セイヤ

どうしてくれるんだよ？

トモキ

どうするも、こうするも...

トモキ

デザインしたのは俺だから

トモキ

おまえが何言おうたって...

トモキ

俺は俺の作品として、提出する

セイヤ

俺がこのデザイン考えるのに、

セイヤ

どれだけ時間かかったのか、お前知らねーだろ？

トモキ

知らねーよ、そんなの

トモキ

まあ、俺は被って優勝狙えないにしても、

トモキ

卒業に足りる成績を取れればいいから

トモキ

先生に何か聞かれたとしても、

トモキ

別にお互いに真似し合ってない、って言えばいいだろ

トモキ

適当にしらばっくれとけば、怪しまれねーよ

セイヤ

俺はな、この作品のために２か月くらい時間かけたんだよ

セイヤ

特に、クリームのデコレーションに一番時間かけてんだ

セイヤ

それを、こんなふうな形で提出することになるなんて...

セイヤ

最悪すぎるんだよ

トモキ

まあ～

トモキ

被ることもさ、あるじゃん？

トモキ

コンテストは、これで終わりじゃないんだしさ

セイヤ

今回の優勝で、商品の旅行券を当てたかったんだよ

セイヤ

母親に送りたくて

トモキ

あ～お前、マザコンだったのか

トモキ

うわ～それでこのデザイン、なんかしゃれた感じにしたのね？

トモキ

デコレーションしてて、なんか女っぽいな～って思ったんだよ

トモキ

うける！

セイヤ

は？

セイヤ

ふざけたこと言うのも、いい加減にしろよ

セイヤ

もう、お前とは今後、関わりたくねーよ

～1時間後～

マヤ

セイヤ

母さん？

セイヤ

どうしたんだよ

マヤ

今、学内ケーキコンテストの会場にいるんだけど...

マヤ

セイヤの作品、見たよ

セイヤ

え？

セイヤ

なんで、今日学内コンテストがある、って知ってたの？

マヤ

そんなの、ネットでチェックしてるわよ

マヤ

どうせ、セイヤのことだから見せたくなくて、

マヤ

言わなかったんでしょ？

セイヤ

いや...

セイヤ

優勝してから、賞品の旅行券を当ててプレゼントしに行こうと思ってたんだ

セイヤ

じゃないと、格好付かないからさ

マヤ

そんな、カッコつけなくていいのに

マヤ

プライドの高さは、母さんに似たのかもね

セイヤ

そう、かもね

マヤ

あと、セイヤ、クリームのデコレーション、

マヤ

すごい上手になったね

セイヤ

え？

セイヤ

母さん、うまくなったなんて...そんなこと知ってるの？

マヤ

なんで、って...

マヤ

定期的に、学校のネットに載っている生徒の授業中の作品を、

マヤ

母さん、ちゃんと見てたのよ

セイヤ

え？

セイヤ

そうだったの？

マヤ

そうよ

マヤ

母さんが、何にも知らないとでも思った？

マヤ

入学の応援はできなかったけど、

マヤ

せめてセイヤの成長はみたいな、と思ってね...

マヤ

まあ、直接話に行けばいい話だったんだけど...

マヤ

なんか、突き放したくせに今頃行くのも...

マヤ

図々しいかな、と思ってね

セイヤ

俺こそ、家出て行く日、何も言わなくてごめん

セイヤ

本当は、もう少し話したかったんだけど

セイヤ

なんか、なんて言ったらいいのか分からなくて...

セイヤ

本当に、ごめん

マヤ

謝るのは、母さんの方だから

マヤ

セイヤは、何も気にしなくていいからね

マヤ

それで、今どこにいるの？

セイヤ

今、学校近くのコンビニにいるところ

セイヤ

ちょっと、休憩で

マヤ

そう？

マヤ

あのね、渡したいものがあるの

セイヤ

え？何？

マヤ

セイヤに、もっとお菓子のこと勉強できるように、と思って...

マヤ

学内の研修のフランス研修の費用、貯めたのよ

マヤ

その通帳を、渡そうと思って

セイヤ

え？

セイヤ

その研修がある、ってことも知ってたの？

セイヤ

半年の研修だし、かなり費用はかかるでしょ？

マヤ

母さんね、セイヤが製菓学校に行きたい、って言った時から、

マヤ

少しずつお金貯めてたの

マヤ

研修費だけ稼ぐのだけで、精いっぱいでね...

マヤ

ちょっと、学費の方は難しかった

マヤ

ごめんね

セイヤ

そんなことないよ

マヤ

お金出すのが難しくても、もっと言い方考えればよかったんだけど...

マヤ

なんか、いっつも強がっちゃって...

セイヤ

俺も、強がってた

セイヤ

すぐに、学校の方戻るよ

セイヤ

また、その時に会おう

マヤ

うん、待ってるね

～5分後～

トモキ

おい！セイヤ！

トモキ

さっき、先生から俺の作品に0点つけられたんだけど...

トモキ

お前、何か言ったのかよ？

セイヤ

俺は、別に何にも言ってないけど？

セイヤ

あっ...たぶん...

トモキ

何だよ！？

セイヤ

いや...さっきさ、生徒の何人かが、

セイヤ

判定の先生となんか話してるのを見たんだよ

セイヤ

それが、何か関係あるんじゃね？

トモキ

えっ、それってもしかして...

セイヤ

何？

セイヤ

心当たりでもあんの？

トモキ

いや、何でもない...

セイヤ

って...俺が何も知らないとでも思った？

トモキ

え？何？

セイヤ

トモキさ、他のやつらのデザインも、パクってたんでしょ？

トモキ

は！？そんなわけねーじゃん！

トモキ

適当なこと言うのも、いい加減にしろよ！

セイヤ

適当じゃねーよ

セイヤ

俺、実は聞いちゃったんだよね

トモキ

聞いた、って...何を？

セイヤ

トモキが、成績ギリギリで、卒業が危ういこと

セイヤ

それで、今回のコンテストで何とか挽回しようと思ったんじゃないの？

トモキ

う...

セイヤ

たぶん、今回の先生も、

セイヤ

俺の作品をパクったこと、気づいたんだと思うよ

セイヤ

だって、お前のケーキのデコレーション、

セイヤ

よくよく見ると、雑さが目立つし...

セイヤ

0点、って言うのは、まあパクリも含めて、

セイヤ

0点なんじゃない？

トモキ

クッソ...

トモキ

絶対に、今回こそできると思ってたのに...

セイヤ

まあ、卒業の成績、足りるといいな

セイヤ

俺は、来年半年は研修に行く予定だよ

トモキ

え？あのフランス研修のこと？

セイヤ

そう

セイヤ

いままで避けてた母親が、実は研修費を貯めててくれてさ

セイヤ

それで、ずっと叶えたかった夢が叶いそうだよ

セイヤ

本当に、頑張ってよかったわ

セイヤ

じゃあ、トモキも頑張れ

～後日談～

セイヤ

その後、トモキはなんとか再テストを受けたにも関わらず、

セイヤ

成績が足りずに、また1年専門学校で勉強を続ける予定だそうです

セイヤ

俺は、フランス製菓研修でフランスでも有名なパティシエのもとでインターンをしました

セイヤ

その時の経験を活かして、この夏には自分の菓子店を東京に開く予定です

セイヤ

母親に反対されていたと思っていた夢ですが、意外にも一番に応援してくれていた存在と知り、

セイヤ

すごく恵まれた環境にいることに、感謝しています

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結城　真矢

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