チュンチュン
チュンチュン
鳥のさえずりが閑散とした住宅街に響き渡る
少し暖かさをおびてきた風は
街をやさしくなでながら通り過ぎていく
その光景はあまりにも
昨日起きようとしていた悲劇とかけ離れたものだった
タワーオブインサニア
最終話
忘れちゃいけないもの
そる
早く…
そる
早く止めないと…
ピシィ
全身を鈍い衝撃が駆け巡る
そる
痛っ…
そる
あれ、体が…
そる
どういうことだ…
そる
まず…状況を…
そる
こ、ここは…?
ジャン
おお!そるさん!
ジャン
おーい!そるさんが目を覚ましたぞ!
チー
お〜そーる!!
そる
え…
そる
あれ…なんで俺…ここに
そる
止めなきゃ…あの人を…
ピシッ
全身に痛みがめぐる
そる
うっ…
ジャン
ダメダメ!動いちゃ
ジャン
あの中生きてたのが奇跡なんだから
チー
そーだぞ、無理すんなよ
そる
え…あれ、
そる
生きてる…、
そる
お、おかしい、
そる
だって
そる
神の果実の間は…俺がしくじって
そる
あの時、もう残りのライフが0になって…
そる
なんで…俺…生きてるんだ…
チー
最後な
チー
不思議なんだよな〜
チー
もう塔の崩壊は始まってたし
チー
終わったと思ったんだけど、助かってたんだよな〜
ジャン
でもそるさん危なかったんだぞ
ジャン
後遺症がなかったから良かったものの
ジャン
塔の崩壊に巻き込まれたんだから…
そる
そうか…ごめん…
チー
気にすんなって!!
チー
それよりも!黒猫組全員で生き残ったんだから!
チー
それだけで十分!
ジャン
あの地獄を生き残れたなんて奇跡だよな!
ジャン
よかったな〜チー!そるさん!
グスッ
そる
あれ…
チー
あれ?そる
チー
なんで泣いてんの笑
チー
ホッとしたか!?笑
ジャン
どうしたそるさん笑
ズズズッ
そる
わ…わからない
そる
無事に全員で帰れた…はずなのに
そる
全員…?全員だよな…
そる
あれ…なんでだろ
そる
涙が…
チー
嬉し涙かよ笑
そる
違うんだ…
そる
なんか…忘れちゃいけない
そる
絶対に忘れちゃいけないなにかがあったはずなのに
そる
思い…出せないんだ…
その日、俺は困惑する2人を横目に
ただ、ひたすらに泣き続けた。
あの後、タワーオブインサニアの生き残りとして
世間からもてはやされた俺達は
一通りのメディア露出を終えると
それぞれの生活に戻り始めた
ジャンはその知名度を上手く使い芸人の道へ
チーは地獄を生きたキャス主として投げ銭で日銭を稼いでる
俺はなぜか心に穴が空いてしまったように
なにも手につかず
気がつくと、実家に流れ着いていた
ちょうど、桜がピンクから緑に変わり始めた頃だった
母
おめえが帰ってくるなんて思いもしなかったよ
母
あんな大変な事があったもんなあ
そる
ああ…
母
まったく…いつの間にかうちに現れたと思ったら
母
ずっと上の空じゃないか
母
くよくよしてても仕方ないよ!
母
ほら!これっ
母
これ食べて午後の仕事も頑張りな!
そる
っ!?
母
どうしたのあんた
母
こんなにそのお菓子が嬉しかったのかい?
そる
わかんない…
そる
わかんないけど…このお菓子
そる
思い出せないんだけど
そる
すごく…楽しい思い出が詰まってる気がして…
母
なんていうんだっけね…これ
母
ついんくる…ちょこ
母
あんた小さい頃こんなの食べてなかったのに
母
ふしぎだねぇ
母
あ〜あ〜そんな泣いて
母
どうしたんだよ、
そる
…
そる
わかんないけど
そる
俺、今生きて
そる
だれかわからないけど
そる
私の分まで生きて
そる
そう言われた気がしたんだよね…
そる
…ありがとう
そる
俺、一生懸命…生きていくよ
空を見上げると
眩しいくらいの太陽が照りつけてた
俺は必ず思い出す
例え、一生かかったとしても…
忘れちゃいけない思い出が
そこにあるはずだから
fin.