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急ぎ、酒場の中に踏み込む。
見えたのは、無数の人だかり。
そして、火の魔法の発動を示す赤い光が酒場の中を照らし
その中心には、ルティとリョウの姿があった。
何かあったらしい。
ルティは怒り、リョウは引いている。
そしてルティの周囲には、無数の赤い光が舞っている。
リョウ
リョウ
リョウは宥めようとしているが、それは逆効果だろう。
叩き切られても文句は言えない状況になっている。
ルティ
リョウを一喝するルティ。
完全に酔っている。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティの表情に見えるのは、怒りと悲しみだった。
ルティ
ルティ
ルティ
言葉の意味が、理解できない。
ルティが、自分を殺した?
それも、何回も?
リョウ
リョウ
リョウ
リョウ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティは、泣いていた。
この泣き顔を見るのは、何度目だろう。
今まで、何度も見てきた。
違う世界で、何度も、何度も見てきた。
そう。いつも
死ぬ間際に、見ていた泣き顔だ。
人混みを飛び越え、前に出る。
ルティ
ルティ
ルティは、怯えていた。
だが、ここで嘘を付く気にはなれなかった。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
涙を流し、ルティはまっすぐに、こちらを見ていた。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
胸が痛んだ。
魂が、痛みを訴えていた。
ルティ
ルティ
悲鳴のようなルティの言葉に呼応するように
赤い光が集い、形を変え、揺らめく炎を纏い、小さな麗人の姿に変わる。
守護精霊
それは、守護精霊と呼ばれるもの。
自然に発生する精霊とは、少し違う。
人の意志と、膨大な魔力によって構築されたそれは
生み出した者の意思を汲み、自律的に活動する。
つまり、ルティが敵とみなしたものを攻撃する。
リョウ
リョウ
リョウ
リョウ
リョウの声は、聞こえていた。
危険なことは、分かっている。
ただ、ここで逃げ出すわけにはいかなかった。
ルティは、殺すつもりだったと言った。
それが本当なら、矛盾が生じる。
ルティはずっと、クエストについてきてくれた。
いつも、精一杯の助言をくれた。
危険なときに、命を救ってくれた。
だから、断言できる。
ルティは嘘をついている!
それを今、証明する必要がある!
守護精霊
剣を構える。鞘は外さない。
相手は、ルティの心の具現。
それに、刃を向けたくはなかった。
守護精霊
守護精霊は、掌をこちらに向ける。
そして、背後のルティに視線を送り
そしてこちらに視線を戻し、火球を放った。
大樽くらいの、ルティのファイアボルトと同程度の大きさの、熱の塊
鞘を構え、それを受ける
爆ぜた熱が頬を撫で、髪を焦がす。
軽く炙られた程度。
これくらいならまだ、動くことはできる。
背後からは、この場から逃げ出す無数の足音と
言語としての意味を持たない悲鳴が聞こえた
だが、まだいくらか、人の気配は残っている。
守護精霊
守護精霊は、次の火球を放った。
それはまっすぐに、こちらに襲いかかる。
再び鞘で受けるとそれは弾け、爆ぜた炎は視界を赤に染めた。
3度、4度と、火球が放たれる。
その度に、炎を浴びた。
最初は機能していた嗅覚も
焦げる匂いに蹂躙されて機能不全に陥った。
水分は容赦なく奪われ、異常を覚えた身体が警告を告げる。
それが無茶なのは、分かっていた。
だが、耐える以外の選択肢はなかった。
クエストを通し、ルティと過ごした日々の意味が
ルティが生み出した守護精霊によって、試されている。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
ルティは、泣いている。
本当は、嫌なのだろう。
この宿命が、終わらないことが。
泣き顔を見て、泣いた声を聞いて、全てを思い出した。
魔王を、封印した時のことを。
魔王の魂は、2つに分けて封印した。
ひとつは、自分が。
ひとつは、ルティが。
自らの魂の中に、魔王の魂の欠片を封じ込め
そして、封印の宿命を背負った。
二人が惹かれ合えば、魔王の魂が結びつき、復活する。
だから死によって、繋がりを断った。
魔王の魂は幾度も復活を企て
その度に出会い、惹かれ、思い出し
死を、選んだ。
そんな大切なことを、いまの今まで
忘れていたことが悔やまれた。
名を呼ぶ
魂が記憶していた
始まりの時の
ルティの名を
ルティはただ、驚いていた。
始まりの時以来、この名を呼んだことはなかった。
その名を呼ぶことが、封印の開放に繋がるから
ずっと、封印してきた。
だがそれも、終わりにする!
守護精霊
守護精霊の、動きが止まった。
ルティが、力なく座り込む。
あとはただ、ルティ泣き声が
静かになった酒場に響いていた。