那月
私は…!
那月
タイムスリップ…してきたの
雅二郎
お前…
雅二郎
正気か?
那月
正気って…
那月
タイムスリップしてしまったのなら、仕方がないでしょう?
那月
このこと、誰にも言わないでほしい
雅二郎
わかってるさ、そんなこと
雅二郎
そんなことを言われると
雅二郎
日本がどんなに国になっていくか
雅二郎
とても楽しみだ
那月
………
雅二郎
ごめん
雅二郎
なんか…。
那月
いいの
那月
そのぐらい…。
俊
ただいまー、
那月
あ!せんせい!
那月
あやめちゃんが…
俊
あやめ…?
俊
あやめがどうしたんだ?
俊
あ、あやめ?
あやめ
に、にいさま…ゲホッ
俊
あやめ…大丈夫か…!?
あやめ
ゲホッゲホッ
俊
あやめ、一旦家に帰りなさい
那月
え、
那月
先生!
俊
なんだ、
那月
この状態で帰らせるのは
那月
とても危険です!
俊
しかし…
那月
どうして!
俊
……
俊
後で話はする…。
俊
あやめ、支度をしなさい
俊
電報で家族に伝えてくる
あやめ
ゲホッ
あやめ
うん、
那月
雅二郎くん…
雅二郎
那月…
雅二郎
これには
雅二郎
もう…
雅二郎
どうしようもないんだ…
那月
なにが!
那月
なにがなの!
雅二郎
結核かもしれん…
那月
え
雅二郎
ただの風邪を祈る…
那月
結核…。
結核
それは「国民病」「亡国病」と恐れられた病気であった。
当時は結核のせいで年間死亡者数も10数万人に及んでいた
死因の1位であった。
那月
あやめちゃん…。
あやめ
短い間でしたが
あやめ
ありがとうございました
那月
こちらこそ
那月
早く元気になって、また遊ぼうね
あやめ
はい!
あやめ
約束です☺️
那月
あやめちゃん…
俊
あやめ、気をつけて帰るんだよ
あやめ
にいさま…!
俊
父さんと母さんにもよろしく
あやめ
わかっていますよ
あやめ
では、!
あやめ
お元気で!
俊
……。
那月
せんせ…
俊
帰ろう
俊
家に帰ろう…。
那月
……
雅二郎
那月…
那月
帰りましょう…。
雅二郎
那月…?
那月
雅二郎くん…
雅二郎
お前、何してんだ
那月
空を見ていたの
那月
夜空を…
雅二郎
ぬすつと犬めが、
くさつた波止場の月に吠えてゐる。
たましひが耳をすますと、
陰気くさい声をして、
黄いろい娘たちが合唱してゐる、
合唱してゐる、
波止場のくらい石垣で。
いつも、
なぜおれはこれなんだ、
犬よ、
青白いふしあはせの犬よ。
くさつた波止場の月に吠えてゐる。
たましひが耳をすますと、
陰気くさい声をして、
黄いろい娘たちが合唱してゐる、
合唱してゐる、
波止場のくらい石垣で。
いつも、
なぜおれはこれなんだ、
犬よ、
青白いふしあはせの犬よ。
那月
萩原…朔太郎…。
雅二郎
「悲しい月夜」
雅二郎
まさに今…そうだろう…
那月
えぇ、
那月
とても…。
那月
なぜわたしはこうなんだ
俊
あやめ…。
俊
どうか最後まで…。
俊
生きておくれ
俊
もしこれが
俊
最後の別れとなったら…。