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逃げた…というのかな…、 ちぐさくんが逃げたと思って罪悪感を抱いているのが切なかったです、 自分を守ったように見えて、それは大切な行動な気がしました…… 続き楽しみにしています!
当日はどうにかなっても、次の日ですよね~ 続き楽しみにしてます!
その言葉を聞いた瞬間
ドクン
と胸が鳴った
鼓動が激しくなる
息苦しいような感覚がして
手に汗が滲んでくる
当然、あるとは思っていた
入学式の日には当然これが、
自己紹介があるっていうのは分かっていた
柏崎ちぐさです
赤瀬小学校から来ました
趣味は読書です
頭の中で言葉を組み立てる
そして言えるかどうか
心の中で呟きながら試してみる
言える。
大丈夫。
言える。
今喋っているのは2人目の男子生徒
俺は6人目
あと4人
3人目
あと3人
ふぅ、ふぅ、
とまわりに聞こえないように深呼吸をし、
必死に心を、
全身を落ち着かせる
でも全然効果はなかった
相変わらず鼓動は激しくて
手汗もおさまらない
柏崎ちぐさです
赤瀬小学校から来ました
趣味は読書です
言える。
言えるはずだ。
大丈夫。
大丈夫…。
言える。
言える。
言える。
言える。
言えない。
4人目が終わる
拍手。
そして5人目が立ち上がって
ちぐさ
思わず、言っていた
ちぐさ
胸の辺りを押さえ、いかにも辛そうな表情を作って言う
同時に、押さえた胸の中で広がる罪悪感
ちぐさ
このクラスの担任になった椎名美雪先生が近寄ってくる
まだ20代に見える
若い女の先生だ
ちぐさ
ちぐさ
先生の次の言葉を待たず
立ち上がって後ろのドアに向かう
教室を出るでの皆の視線と静けさが
とても嫌だった
廊下に出て、ドアを閉める
そのまま廊下を数歩進むと
自然とため息が出てた
ちぐさ
小学生の時も何度か使った手だった
授業であてられそうになると
具合が悪いふりをして保健室へ行く
国語で教科書読みがありそうな日は
休んだり早退することもあった
ちぐさ
ずるいことをしているっていう罪悪感と
仕方がないっていう気持ち
2つが混ざりあってモヤモヤして
ちぐさ
とまたため息が出た
こうやってずっと俺は逃げ続けるんだろうか…
保健室には誰も居なかった
先生が1人いるはずだけど
職員室かどこかに行っているのかもしれない
どうしようか少し迷って
仕方なく勝手にベッドを使わせてもらうことにした
上履きを脱いで横になり
カーテンも閉めて
ぼんやりと白い天井を見つめる
そうしながら考えたのは
これからのこと
こんな調子でこれからやって行けるのか
いけるはずない
少なくとも、順調な中学校生活を送ることはどうしたって出来やしないと思う
逃げ続けても
いずれは知られる
そのとき、新しいクラスメイト達は
どんな反応を見せるだろう
そしてその後
俺はどんな立場に置かれるだろう
考えたくなかった
考えたって解決策は浮かばない
今の俺には明日からの未来に暗い色しか見えなくても
それを明るい色にする方法なんて分からない
きっと、そんなの世界中の誰にもできないんだと思う
俺の抱えているものはそれ程に大きくて
真っ暗なものなんだ
30分くらいそうしていただろうか
体を横たえているせいか
だんだんと眠気に襲われ始めてきた頃
保健室のドアが開く音がした
誰かが入ってきて
ベッドに近づいてくる
椎名先生らしき声
眠っているふりをした方がいいかな
と思い
返事はしなかった
音がして
カーテンが開く気配がする
それで初めて目覚めたように
俺は目を開けた
目の前に
椎名先生の顔があった
ちぐさ
起き上がりながら
良くなりました
と言おうとしたけど出てこなかった
でも椎名先生はそれに気付かなかったようで
と短く言うと
鞄とプリントの束を手渡してきた
鞄は俺のもので
だいぶ重くなっていた
入っているのは
教科書だろうか
ちぐさ
『ありがとうございます』
が言えず
言い換える
ちぐさ
ちぐさ
教室に居る時から思ってたけど
ぞんざいな喋り方をする先生だった
声も女性にしては少しハスキーで、髪も短めだ
ちぐさ
『平気です』
と言う代わりに首を振る
それからプリントを鞄に入れ
ベッドから降りる
と椎名先生が言って
『さようなら』
と返そうとしたけど
それも出てこなそうだったので
ちぐさ
頭だけを下げて、保健室から出た
何人かの生徒とすれ違いながら
廊下を俯き気味に歩き
昇降口へと向かう
ちぐさ
やっと終わった
ちぐさ
中学生活最初の日
笑われることも
戸惑われることもなかった
逃げたお陰で
逃げたせいで
ても明日からは、どうなるだろう…
ガヤガヤ
そう考えていると
ふと、外からやけに賑やかな声が聞こえてきた