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放課後の校舎は、夕焼けに照らされてどこか冷たく寂しげに見えて不思議な気分になる。 でも胸の内側は、それより冷たかった。
今日も、机に封筒が入っていた。
涼架
だって2人に見られたら大変な事になってしまう。 だからひとりで校舎の隅の階段に座り込んで封を切った。
中からまた写真。 いつ撮ったのかわからない教室での一瞬の笑顔、 そして授業中にうたた寝している姿が写っている。
手紙は、まるで呪いみたいに纏わりつく言葉で綴られている。
『君の視線が他の誰かに向けられるたび、胸が裂けそうになる。 涼架、 誰も君をわかっていない。先生も。クラスメイトも。そしてあのあの邪魔な2人も。 みんな、ただ君の外側しか見ていないんだ。 でも、僕は違うよ。僕だけが、君の全てを知ってる。 震える手も、無理に作った笑顔も、僕には全部バレバレだよ。 誰よりも君の苦しみを理解できるのは僕だけ。 君を守れるのも僕だけ。忘れないで欲しいな。』
涼架
全てを知ってるという言葉が気持ち悪くて手紙をクシャりと丸めてカバンに押し込む。
その弾みで落ちた1枚の手紙を拾うと、裏側に何か書かれている。
『そろそろ写真だけじゃなくて話してる声も撮りたいな』
涼架
涼架
背筋が凍る。心臓がきゅっと小さくなる。 息が、うまく吸えない。
録音?そんな近くに潜んでもバレないと思われてるの?
涼架
帰宅後のドアを開ける瞬間まで意識してしまう。 壁の隙間から見られているような感覚が消えない。 洗面所で顔を洗う時も着替える時も、気が抜けない。
それに、2人には悟られたくない! あの優しい2人が気づいたら、絶対に守ろうとしてくれる。
でも――、 彼はきっと、そうなる前に…
涼架
想像するだけで吐きそうになる。 俺が言ったせいで、2人が傷つく未来。 そんなの絶対に嫌だ。
涼架
リビングでくつろぐ時間も、緊張で胸が張り裂けそうだった。
元貴
滉斗
何気ない優しさが今は申し訳なくて辛い。
涼架
滉斗
元貴
涼架
2人の視線が一瞬交差するのを感じたけど、深く追及はしてこなかった。
自分の部屋の扉を閉めた瞬間、膝から崩れ落ちた。
涼架
涼架
ダメかもしれない。もう限界が近い。 だけど誰にも言えない。
窓の外から何かの気配がした。 風かと思ったけど、何かが、庭にいるような…。
涼架
カーテンの隙間からそっと覗くと、植え込みの影に何かがかすかに動いた気がした。
涼架
心臓が跳ね上がる。 自分の呼吸がうるさいくらい響く。 足元が冷たい。鳥肌が立って止まらない。
涼架
涼架
でも俺が1人で何とかしないと……。
この日の夜も、気絶するように眠った。
次の日の朝。 窓の外は晴れていて、空はどこまでも青く眩しい。 なのに胸の奥にはずっと黒くて重たいものが居座ってる。
登校して、教室の自分の席に座るのが怖い。 でも行かないわけにはいかない。
涼架
机の中は空っぽであって欲しい。 そう思って、希望を込めて手を差し入れた指先がすぐに何か柔らかい紙に触れた。
涼架
また、手紙。 けれど今日は違っていた。
涼架
封筒は入っていない。 白いメモ用紙のような紙に、黒の細いボールペンで小さく文字が書かれている。
『青いハンカチ、お気に入りなのかな。 今日もブレザーの左ポケットに入ってるよね。』
涼架
手が震えた。 目の前が真っ白になる
見られてる。 今、この瞬間も。
ぐるりと周囲を見渡す。 でもみんな普通に授業の準備をしている。 笑い合って、談笑して、いつもの朝。
涼架
まだ今日学校で1度も出していないハンカチの存在を知っていて、ポケットに入れてるのも知ってる。
どこから見てるの?いつから?どうしてそんなに…!!
涼架
目の端が滲んで、視界が歪んだ。
その日の授業は、まるで耳に入らなかった。
放課後、屋上のドアの前で立ち止まる。 ここは生徒が入るのは禁止されている。 だけど誰にも見られない場所を求めて、そっとドアを開いた。
ぎぃ、と重たい金属音。 屋上に出ると、風が吹き抜けた。 けれど、その風の中に混ざる妙な違和感。
涼架
足元に、紙袋が落ちていた。
涼架
まさか、と身を固くしてそれを拾う。
中には白く乾いた数枚のティッシュ。 そして自分の写真。寝ている横顔。 それも自室の布団の中。 ……完全に、家の中で撮られたものだ。
涼架
涼架
頭が真っ白になった。
どうして、鍵も閉めていたのに。 それに2人が居るから部屋に入る時間なんて… いつ、誰が、
写真の裏には、ただ一言。
『眠ってる君もとても美しいね』
涼架
その時、風が強く吹いて紙袋の底に貼りついていたメモが飛んだ。 慌てて掴んで文字を見た瞬間、吐きそうになった。
『もう“家族ごっこ”は終わりにしよう。 あの2人は、君を縛り付けてるだけ。 本当に君を理解できるのは、僕だけなんだよ。』
涼架
息ができない。苦しい。 家族ごっこ……?
涼架
元貴も滉斗も、そんなのじゃない! でも心の片隅に彼の言葉が刺さってくる。 2人を思って隠してきたことが逆に、2人との距離を作っている。
“家族ごっこ”なんかじゃない。 でも最近は2人を守るために距離を置いて会話も会う時間も少なくなってる。 このままだと2人からごっこ遊びだと思われちゃうのかな。
2人だけは何があっても守りたい。その為には俺自身がもっと頑張らなきゃいけない。 彼は俺だけじゃなく、2人にまで視線を向け始めている。 盗撮、隠しカメラ、そして――次は何?
俺の平穏が、家族が、奪われていく。
俺だけが黙っていればいいと思っていた。 だけどそれじゃ……何も、守れないのかもしれない。
涼架
相談するのが怖い。
今までたくさん、2人に迷惑をかけてきた。
涼架