目の前に突如現れた 少年――
――年齢は私と同じくらいか は
混乱する私を他所に 話を続けた
瞬間移動とか
超能力?
警察、とか通報、とか
まるでそれらが何か 解らないかのように
その少年は キョトンと首を傾げた
えっと、あなた誰?
カズ
カズ
カズ
カズって呼んでよ
カズ
カズ
カズ
使えるようになってほしいんだ
カズ
カズ
タイムトラベルあたりが……
カズ
普通なら無理じゃない?
カズ
見てみたいし!
カズ
カズ
カズ
これで夢だったら 友達に自慢できそう と
そんなことを考えながら 言われるままに目を閉じた
数秒経って 急に温もりに包まれる
カズ
耳元で聞こえた声は これまでのどれよりも低くて
辛そうで、切なかった
諦めてその場から動かずにいると
ぐ
ら
っ
と
身体が揺れた、気がした
カズ
腕の中で眠る少女を見詰める
カズ
小さな呟きが 部屋に溶けていった
・ ・ ・
何処かで 大きな音がした気がする
目を開けた
焼け野原になって 何も無いその場所に
自分は転がっていた
身体を起こして埃を払う
そして
気付いた
倒れているのはたくさんの人
あちこちから銃声や悲鳴
何かが爆発する音が ひっきりなしに聞こえてくる
怯えからくる震えを 懸命におしこめ
恐らくこうなった原因である カズを探しに
ゆっくりと歩き出した
一方 カズは少女の家で
空中に開いたディスプレイを 必死に操作していた
カズ
カズ
…でもこんなこと普通は
カズ
飛ばされたか分かれば…!
ディスプレイを操作する音と
カズの舌打ち
それらが何回か 繰り返されてから
ふと、思い出したように 口に出した
カズ
カズ
遺伝子追尾システム!
そして再び動作を再開し
物凄い速さで 情報を打ち込んでいく
カズ
誰かの声が聞こえた
「母さん」と
怖い筈なのに 危険な筈なのに
歩みを進めていた
カズ
背後から聞こえた その声に
思わずビクッとして 慌てて振り返る
カズ
カズ
カズ
カズ
困ってるのかもしれない
カズ
カズ
伸ばされたカズの手をすり抜けて
私は 声のする方へ向かった
足を止める
目に飛び込んできたのは
倒れた女性と それに縋り付く少年だった
そう叫ぶ少年の顔を見て ハッとする
何をしようとしたのかは 自分でもよく分からない
ただ、 2人に向かって歩いていた
カズ
カズ
グッと腕を引かれ 身体が止まる
カズ
カズ
カズ
慌てて離された手は
行き場を探すように 空中を彷徨い
結局カズのポケットに 収まった
カズ
カズ
教えないと…だね
カズ
クルリと背を向けて カズは歩き始める
その後ろを追いかけた
カズ
カズ
受けないように造った
カズ
カズ
カズ
カズ
少し未来
カズ
カズ
後に言われる戦争中
カズ
カズ
カズ
カズ
“母さん”って呼んだのは…)
カズ
カズ
呼んだから
カズ
カズ
母さんを失った
カズ
カズ
超能力を与える研究を
カズ
カズ
カズ
逃げられるかもしれない
カズ
瞬間移動でも
カズ
母さんを救えなかったから
カズ
思ってなくて…
カズ
カズ
能力の誤作動…
カズ
カズ
カズ
目の前の少年は
さっきから何度も 同じことを問う
その姿は 私よりも幼く見えた
あの時 カズの研究所で私が伝えたのは
「能力はいらない」
という事だった
カズ
カズ
カズ
例え遠く離れた時の中にいても
この繋がりが 切れないように
ギュッと
その手を握った