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第1話 - あ

2023年09月13日

#恋愛

結城　真矢

リン

ノゾミ先生、今度のお遊戯会、『白雪姫』の激をやることになったんですよね？

ノゾミ

はい。白雪姫、継母、王子様、猟師、7人の小人に森の動物達と、

ノゾミ

配役が多くてクラス全員が自然に出せそうな話ですし、

ノゾミ

子供達の賛成もあって白雪姫に決定しました

リン

それはいいのよ。問題は、うちのカレンが継母役で、

リン

ウララちゃんが白雪姫になったってことなの

ノゾミ

はい。どちらもじゃんけんで決まりましたが、何が問題なのでしょうか？

リン

問題しかないでしょう！！

リン

うちのカレンは色白で目もパッチリしていて可愛らしくて…

リン

どう見てもカレンの方が白雪姫に相応しいでしょう！

リン

それにひきかえウララちゃんは目も小さくてブスで…それなのに白雪姫！？

リン

一体何考えてるのかしら！？

ノゾミ

そういうことを言わないでください！どちらのお子さんも可愛らしいじゃないですか

リン

は！？あなたの目は節穴なの！？カレンの方が可愛いのは客観的事実でしょ！

リン

どうせうちのカレンが可愛すぎて妬まれて、継母役なんかを押し付けられたんでしょう！

リン

まさか、いじめなんかないでしょうね！？

ノゾミ

そんなものありません！本当に、公平に決めたんです

リン

その『公平に』ってのが間違ってるのよ。もっと相応しい配役ってものを考えてほしいわ

リン

それとも、今流行りのポリコレ配役ってやつ！？

リン

だから、あんなブスな子を白雪姫に選んだのかしら！？

ノゾミ

そんなわけないじゃないですか…映画ならともかく、たかが幼稚園のお遊戯会の演劇ですよ

リン

たかが？たかがですって！？子供達の大事な晴れ舞台を『たかが』扱いするなんて！

リン

あなたそれでも幼稚園教諭なの！？

ノゾミ

申し訳ございません！そんなつもりじゃ…

リン

いい！？すぐに配役を決め直しなさい！

リン

勿論うちのカレンは白雪姫！逆にウララちゃんは継母役にしてもらうわ！

ノゾミ

勝手にそんなことできません

ノゾミ

子供達は今の配役でみんな納得してるんですよ

リン

内心では納得してないに決まってるわ！

リン

とくにカレンは、白雪姫になりたかったに違いないのに、

リン

ウララちゃんに負けて継母役なんかにさせられて、可哀想でならないわよ

リン

そんなこともわからないで、みんな納得してる！？

リン

表面的なものしか見えないなんてあなた、教育者失格よ！

ノゾミ

落ち着いてください

ノゾミ

そもそも、白雪姫役を争うじゃんけんに、カレンちゃんは参加してませんでした

ノゾミ

継母役も、張り切って練習してましたよ

リン

そんなの、うちのカレンは優しいから、白雪姫役の競争率が高いからって我慢して譲ったのよ

リン

張り切って練習してるのだって、本当は白雪姫になりたかったのを

リン

一生懸命我慢してる証だわ！

ノゾミ

どうしてそう言い切れるんですか？

リン

あなたこそ何がわかってるのよ！私は母親よ

リン

お腹を痛めて産んだ我が子の気持ちは、何もかもわかってるんだから！

ノゾミ

自分の子に主役を張ってほしいお気持ちはわかりますよ

ノゾミ

でも、脇役や悪役がいるからこそ、主役も輝くんです

ノゾミ

それに、全てのお子さんや保護者の方の思い通りにすることはできません

ノゾミ

ウララちゃんだって、じゃんけんに負けた子達だって、白雪姫役をやりたがってたんですよ

ノゾミ

誰かが我慢しなきゃならないんです

ノゾミ

時には思い通りにならないこともあって、それを受け入れることで社会性が身に付くんです

ノゾミ

幼稚園は社会性を身に着ける場ですから

リン

そういうことを言いたいんじゃないの！

リン

客観的に、どう見てもカレンが白雪姫に相応しいんだから、そうするべきだって言ってるの！

リン

それなのに、ウララちゃんのママにウララちゃんが白雪姫役に決まったこと、

リン

ドヤ顔で自慢されたのよ！悔しくてたまらないわ！！うちの子の方が相応しいのに！

リン

大体あの一家は前から金持ちぶってて気に入らなかったのよ！先生もそう思わない！？

リン

なのに、どうしてよりによってウララちゃんなのよー！

ノゾミ

私は特に思いませんけど…というか、それって私怨じゃないですか…

ノゾミ

とにかく、一人の保護者様の一存で決めるわけにはいきません

リン

だから、私だけじゃなくてみんなカレンの方が相応しいって思うに決まってるの！

リン

まったく話が通じないわね…私は家事で忙しいからここまでにしてあげるわ

リン

明日には、配役変更で話付けてくるのよ！

ノゾミ

はぁ…

～翌日～

ノゾミ

すみません、今朝お母さんがくださったこれ、なんですか？

リン

何って、見てわからない？

リン

私が徹夜で作った、完璧な配役と台本よ！

ノゾミ

はぁ…白雪姫役がカレンちゃんで、継母役がウララちゃんというのは話されていた通りですけど、

ノゾミ

そのほかにも色々決めてありますね…

リン

当然！うちのカレンを目立たせるために完璧な舞台にしなくちゃ！

リン

王子様役はクラスで一番ハンサムな男の子のナツキ君

リン

その他の平凡な園児は適当な配役でいいわ。名前全部覚えてないし

ノゾミ

適当って…それから、内容も結構アレンジされてますね

ノゾミ

白雪姫が5曲くらい歌うことになっちゃってますし、これじゃ疲れちゃいますよ

ノゾミ

それに継母のシーンとか、小人の歌とか凄いカットされてるじゃないですか…

リン

カレンを目立たせるためだもの。白雪姫の出てこない、邪魔なシーンは要らないのよ！

ノゾミ

邪魔、ですか…

リン

先生も今から決め直すのは大変だろうなと思って、

リン

私が完璧な劇を考えてあげたのよ！

リン

ここまでしてあげたんだから、その通りにしてもらうわ！

ノゾミ

すみませんが、それはできません

リン

なんでよ！言う通りにすれば完璧な劇になるのよ！

リン

ウララちゃんのママにも、うちの子の方が白雪姫に相応しいって見せつけてやれるのよ！

ノゾミ

お母さんは、自分のお子さんを目立たせたいだけじゃないですか

ノゾミ

お遊戯会は、一人の保護者様のものではないんです

ノゾミ

まして、他の保護者様とお子さんへのマウントの為のものではありません

リン

マウントじゃないわよ！客観的事実を教えてあげようとしてるだけ！

リン

あぁもうわからずやね！いいわ！もうカレンはお遊戯会には出さない！

リン

カレンを主役にしないお遊戯会なんて休ませてやる！

ノゾミ

待ってください！一生懸命練習してきたのに、それだとカレンちゃんが可哀想です

リン

継母役なんてやらされる方が可哀想よ！

ノゾミ

本当に可哀想でしょうか？

リン

当たり前じゃない！

ノゾミ

お母さん、色々決める前に、カレンちゃんのご意見をちゃんと聞きましたか？

リン

聞かなくたってわかってるわよ！私は母親だもの！

ノゾミ

カレンちゃん、継母役をやりたがってたんですよ

リン

へ？

ノゾミ

だから、じゃんけんの時も立候補したんです

リン

ちょっと、そんな嘘つかないでよ！

リン

悪役をやりたがる子供なんているわけないもの！

ノゾミ

お母さん、悪役には悪役の魅力があるんです

リン

悪役の魅力…？

ノゾミ

えぇ。悪役がいなかったら物語は始まりません

ノゾミ

悪役がいるから、主役も活躍できるんです

ノゾミ

継母が毒リンゴを食べさせないと、白雪姫と王子様もハッピーエンドを迎えることはできないんです

リン

でも、そんな汚れ役、カレンじゃなくて他の子にやらせればいいんだわ！

リン

継母役なんかやったことで、カレンがいじめられたらどう責任を取ってくれるのよ！

ノゾミ

他の子にやらせればいい、って仰いましたよね

ノゾミ

他の子なら、いじめられてもいいんですか？

リン

それは…

ノゾミ

安心してください、そんなことにはなりません

ノゾミ

子供達もわかってますよ、悪役の魅力を

ノゾミ

アンパンマンよりばいきんまんが好きだっていう子も珍しくないです

ノゾミ

ディズニーヴィランズだって人気じゃないですか

ノゾミ

白雪姫の継母も、その中にいますよね

リン

でも…

ノゾミ

カレンちゃん、私に話してくれたんですよ

ノゾミ

『私は継母役になれて嬉しかったのに、ママは白雪姫にしてあげるって言ってくる』

ノゾミ

『ママが喜ぶから、私は白雪姫にならなきゃダメなの？ウララちゃんも嬉しそうなのに』って

リン

嘘よ、私にはそんなこと一言も…

ノゾミ

『ママが勝手に決めつけて、話聞いてくれないから言えなかった』そうですよ

ノゾミ

お母さんの仰ったとおり、カレンちゃんは優しい子だから我慢してるんです

リン

そんな…

ノゾミ

子供は親に喜んでほしくて、親の顔色をうかがうんです

ノゾミ

どうか、親だから何でも知っていると決めつけないで、

ノゾミ

きちんとお子さんのご意見を聞いてあげてください

リン

だけど、私は白雪姫として主役を張るカレンが見たかったのよ

リン

その為に、衣装だって作ったのに…

ノゾミ

それは、お母さんの願望であって、カレンちゃんの願望ではないですよね

ノゾミ

自分の願望を子供の為とすりかえてしまう親を、私は何人も見てきました

ノゾミ

『親と子供は別の人間』そんな当たり前のことを、忘れてしまうんです

ノゾミ

どうか、一生懸命悪役を演じるカレンちゃんを、認めてあげてください

ノゾミ

劇の練習のお話を聞いてあげてください

ノゾミ

そして、他の保護者の方々もみんな、自分の子の晴れ舞台を楽しみにしていることを、

ノゾミ

どうか忘れないでください

リン

でも、継母なんて、ウララちゃんママになんて言われるか…

ノゾミ

別に何も言いませんよ

ノゾミ

それに、お母さん同士はともかく、ウララちゃんとカレンちゃんは仲いいんです

ノゾミ

いさかいに巻き込まないようにしてあげてください

リン

本当に、カレンは継母役になりたがってたの？

リン

ウララちゃんとか、他の子に遠慮してるんじゃなくて？

ノゾミ

嫌いな役を、あんなに楽しそうに練習はしませんよ

リン

私、カレンが練習してるところ見てないから…

ノゾミ

だったら、今度練習に付き合ってあげてください

ノゾミ

カレンちゃん、とっても演技力ありますよ

ノゾミ

あの子なら、きっと悪役の魅力を引き出してくれます

ノゾミ

まだ幼稚園であの演技力は、将来が楽しみですね

～後日談～

ノゾミ

その後、リンさんは何も言ってこなくなり、

ノゾミ

お遊戯会も無事に開くことができました

ノゾミ

劇を見に来たリンさんはまだ少し複雑な顔をしていましたが、

ノゾミ

いつの間にかカレンちゃんの演技に見入っており、

ノゾミ

他の保護者さんにも『カレンちゃん上手ですね』と言われて嬉しそうにしていました

ノゾミ

そして、劇が終わった後『ママ、どうだった！？』と駆け寄るカレンちゃんを

ノゾミ

笑顔で抱きしめて、『すごく上手だったわよ』と褒めてあげていました

ノゾミ

一時はどうなることかと思いましたが、

ノゾミ

みんなが笑顔になれたお遊戯会で良かったと思います

ノゾミ

それからというもの、リンさんが

ノゾミ

『うちのカレンには演技の才能があるのよ』だの

ノゾミ

『演劇学校に入れようかしら。きっと将来は女優ね』だの

ノゾミ

自慢して回るようになったのは少し困りものですが、

ノゾミ

それくらいはモンスターペアレントというより単なる『親バカ』ということで、

ノゾミ

大目に見ることにします（笑）

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結城　真矢

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